第7話【最強のHERO】
衝撃音と共に一帯の敵は跡形もなく、次々と奥から来るモンスターを打撃で倒していくギース。
「おお!!」
モンスターをみるみる殲滅するギースに、ライゼは感心した。
ガービィはこれを見て研修続行の判断を下す。
「自信のある者はゴブリンへの攻撃を開始しろ!ただしゴブリンのみだ!」
『ギースに続け!』
『ギース君の役に立たなくちゃ』
『私も
『お、俺たちだって──』
各々自分を奮い立たせ、火や水、変化と様々な能力を発動し、ホールは一気に戦場と化した。
「今期は本当に頼もしいな!」
研修生たちは例年より強く、ライゼもその成長が楽しみなほど頼もしく感じた。
ガービィはそんなライゼの様子に鼻高々だ。
「俺の誇りスよ」
「でもその誇りに思ってる人間の安全が最優先だろ。パワーの計測が先だぞ」
「っス、俺も焦ってしまってたスね。すいません」
ライゼに指摘されたガービィは、ガンを取り出し計測を始める。
そして前線で戦うギースはようやく異変に気付いた。
「な、なんだあれは……」
自分の放ったパワーショットが巻き上げた煙の間から見える、ホールの奥にいた明らかに異質なソレに、恐怖を感じ後退りした。
それを見た周囲の研修生たちも異変に気付き始める。
『あの7体だけ向かって来ない……』
『あ、ぁあ、真ん中の……!』
土煙が流れ、七体が姿を見せた。
研修生達は息をのみ、声を揃えて言った。
『──っ!ワイバーンだ!!』
凛々しいドラゴンの頭に、大きく開いたコウモリの翼。
太く鋭い爪を携えたワシの脚に、禍々しいヘビの尾。
尾の先端には矢尻のように鋭く、凶暴なトゲがついている。
間違いなくワイバーンだ。
その禍々しさに、このホールのボス、ヘビを作り出す赤い個体だとすぐにわかった。
ワイバーンを守るように囲む六体のモンスターが、研修生達をさらに恐怖させた。
鈍色に光る鎧、光る目、各メディアの中継で見たばかりだ。
なぜなら先生であり、No.2のガービィが苦戦しつつも倒したばかりの亡霊騎士であった。
それが六体も。
『ぁあ…あ……』
研修生たちは絶望した。
計測が終わり、ガンの液晶を見るガービィ。
「8240……」
ガービィは顔色が変わり、すぐさまギースへ叫んだ。
「ギース!パワー約8000だ!!退けぇっ!!」
ライゼとガービィは散り散りになった研修生たちを守る事が最優先だと考えた。
相手はおそらく増殖中のワイバーンを守る為に攻撃はして来ない。
退くのは今しかない。ガンからもガービィの音声は聞こえたはずだ。しかしなぜかギースは退く気配がなかった。
「ギース! 研修は中止だ! 他の研修生と通路まで退け! あとはライゼさんがなんとかする!──ライゼさん! 散った研修生たちを通路へ避難させて下さい! 残りのゴブリンは俺が!」
「任せろ!」
ライゼはガービィに言われた通り迅速にガンで研修生へ指示を出し始める。
(ここで退いてどうする!? 僕は力を示す為にここへ来たんだ! ガービィさんにも、そこにいる最強とやらにも認めさせ、
ギースは感じた恐怖を押し殺し、敵へと突っ込んだ。
「──ばっ! 戻れギース!!」
ギースはガービィの言葉を聞かず、ゴブリンを薙ぎ払いながら周りが見えていないほどがむしゃらに走った。
(亡霊騎士が邪魔だ!)
上へ跳躍してパワーショットを構えた瞬間、ワイバーンは亡霊騎士の前にその長い首を出した。
「パワー……」
ここは実戦だ。
ワイバーンと呼ばれるモンスターが、ギースのタメを待ってくれるわけがなかった。
ワイバーンの口から広範囲への火、というよりもはや爆発だ。
爆音と共に炎がギースを包む。
「ぐぁあああっ!!」
吹き飛ばされ、二度、三度と地面に叩きつけられ、一瞬でボロボロになるギース。
後方にいたライゼとガービィはもの凄い速さで研修生たちの前方へ移動し、盾となった。
しかしまだ合流していなかった研修生数人はギースと同じく吹き飛ばされる。
ワイバーンはすぐ増殖の為に伏せたが、亡霊騎士は前進する。
「ガービィ、皆んなを集めて通路へ」
ガービィのガンからライゼの声が聞こえた。
「っス、すみません」
ライゼの指示で、ガービィはすぐに全員を集めて通路へ避難した。
「治療できる者は負傷者を!」
『はいっ!』
今期には希少な治癒の能力者もいる。
しかし傷は治療できても、ギースは黒く汚れたまま、うなだれていた。
ライゼはこの間も敵の攻撃を引き受けていた。
負傷した数人の研修生の傷もあっという間に塞がっていく。
「ガービィさん、僕は…」
「言い訳なら聞かん」
「僕らに構わず、あの人のところへ! ガービィさんも見たでしょう! とても一人では!!」
「いいんだ」
治癒の能力は凄まじく、生徒たちの治療があっと言う間に終わり、ガービィはガンを掴んでライゼへと伝える。
「ライゼさん! 避難、治療完了っス!」
それを聞いたライゼはホッとした表情で敵に向かって歩き出した。
「何がいいんですかガービィさん!? あのままじゃ!」
「ライゼさんはな、ライゼさん自身が俺たちを傷つけない為に、ここへ避難しろと言ったんだ。よく見てろ、あの人がなぜ最強と言われるのかを。そして、事が終わった後に言う俺の言葉を笑うんじゃないぞ」
ガービィはギースを諭してライゼの方を向かせる。ギースは複雑な感情で、ライゼをじっと見ていた。
【雷】
ライゼの持つ唯一無二の能力だ。
雷を放つ、打つ等ではない。
ライゼそのものが雷である。
物理は効かず、自身が雷ゆえにパワーも規格外。
ライゼだけが使えるまさに最強の能力だ。
ライゼがぽつりと呟く。
「【
バチィ……バチバチッッ!!
と空気を切り裂くような雷の音と共に放電し、ライゼの体が青い雷へと変化し、瞳も青い光を放っていた。
「グァアア!」
亡霊騎士が雄叫びを上げて斬りかかり、雷の体が左肩から右脇腹へと切断したように見えたものの、一瞬で元へ戻り、当たり前のように無傷。
六体が次々と斬りかかるも、無傷。
「っ!!」
ギースは口を開け、呆然としていた。次の瞬間、ワイバーンが口を開きかける。
「危ないっ!!」
ギースのこの言葉より速く──
響く雷鳴。
まるで目の前で落雷が起きたような、腹の奥に響く轟音、音速を超えた衝撃波。
思わずギースは両手で身構える。
その轟音は通路まで響き、間もなく突風が通路を吹き抜けた。
その桁違いの威力に研修生たちは飛ばされないよう必死でお互いを掴んでいる。
音が止み、研修生たちは恐る恐る通路からホールを覗く。
しかしモンスターの姿はなかった。
あの一瞬でワイバーンも含め、全てのモンスターは倒されていたのだ。
ワイバーンの口が全て開くまで、最強と呼ばれる者が待ってくれるわけがない。
ギースが突っ込んだ時とは逆の光景だった。
波乱だらけの研修はこの一瞬で幕を閉じた。
ガービィは優しい瞳でギースを見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「ギース、俺はな……あの人みたいになりたいんだ」
「──笑いませんよ。笑えるわけがない」
自身が小さい頃から病的な程に憧れ続けた
紛れもなく最強の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます