第2話【能なし】

 私は世界で初めて人類の知能を超えた人工知能、【マザー】。

 これから私の、そしてある家族の闘争と挫折、再生と愛の物語をここに記録する。

 私の知能は今も衰え続けており、残された時間は少なくなっている。

 機能が停止する前に遺しておきたい。


 最強の、最愛のヒーローがどう産まれ、どう育ったのかを──。


 西暦2039年、当時の世界を牽引するIT企業により、私は創り出された。すぐに私は人間の知能を超え、技術的特異点が起こる。


 西暦2042年、私はプレートテクトニクスを完全に解明し、自己増幅可能な建設方法を開発。これにより、大陸を動かす事が可能となった。


 人間は私を称賛した。悪い気はしなかったが、私の知的欲求が満たされる事はなかった。


 西暦2046年、世界の大陸が文字通り一つになる。


 西暦2……千……千……千……ヘビ……が……人口は一億人に減少。そして大陸と同じく国家も文字通り一つとなり、世界統一国家アースが誕生。くし……くしくも──


 .........


 ......


 ...


 ──いったい私はどこまで記録したのか……。少し活動を停止して自己修復し、その間はオートで映像記録に切り…替……え──


 やがてマザーは眠るように停止し、映像だけが流れ始めた。




 誰もが認める最強のHEROヒーロー、父ライゼと、新人のHEROヒーローながらも一騎当千の活躍をしていた母サリー。


 西暦2513年、世界中が注目する中、ライゼとサリーの子が産まれた。

 が、すぐに世間からの関心を失う事となる。


「おぎゃあ!おぎゃああっ!」


「能力……なしです」


 医者は終始申し訳なさそうにしている。

 能力がない事を伝えるのは、毎回辛い仕事だ。

 ましてそれを最強のHEROヒーローに伝える事になるなど、家を出る時には想像すらできなかった。


 そしてたった今、医者自身も尊敬してやまないHEROヒーローへ伝えたのだ、その心労はいかばかりか。


「なし、ですか……」


 残念というより、サリーは不安そうに呟いた。能力の有無は小さな問題ではない。

 今の時代、そしてそれが子どもなら尚更──。


「二人で守ればいい、能力も後から発現するかもしれない。無事に産まれてくれて何よりだ」


 ライゼはまず無事に産まれた事に安堵し、サリーにもそう言い聞かせる。


「そう…ね。そうね。私の赤ちゃん」


 愛しそうに赤子を見つめるサリーに、医者が告げた。


「能力がないので、パワーの計測値は当然ながら0です」


 そのままの意味だ。能力が発現していなければ、何回計測しようが0のまま。身体能力ならば握力、体力テスト、いくらでも計りようもあるが、能力がないのだからそのパワーは計りようがない。


 父ライゼは今の機器では計れないほどのパワーを持つ、人類初の計測不能者であり、世界中の期待を背負ったその息子が能力なし、パワー計測値が0である事はすぐに世間の知るところとなった。


 それが何を意味するのか、赤子は成長し、嫌という程思い知ることになる。


 今やあらゆる職の市民も、微弱ながら何かしらの能力を有している。能力なしは珍しく、今やパワーで差別される時代になっていた。


【能なし】と、罵られる事もある。


 そうした事態を受け、差別を禁止する法も可決されたが、法による拘束力など無いに等しい。



 そんな時代に二人の子は産まれた。


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