短編集〜過去作を掘り出してみた〜

だし巻き卵

エピソード1, 落ちた堕天使の話

 遥か遠い昔のことだ。 


 天空の楽園『エデン』がまだ存在した頃の話。

 そこには【天使】と呼ばれる少女達がいた。


 天使の少女達は女神の子供の使いとしてエデンにて穏やかな日々を過ごしていた。


 しかし、ある日一人の天使の少女が女神の大切にしていたとあるペンダントを割ってしまったのだ。


 少女は青ざめた様子で他の天使に助けを求めた。


『ペンダントを割ってしまったよ。どうしよう』


 天使たちは首を傾げながら、この天使を助ける案を皆で出し合う。


『一緒に謝りに行こう』

『新しいペンダントを買おう』

『どこかに隠してしまおう』

『ペンダントを持って下界に逃げよう』


 その天使は始めは女神に謝罪をしていこうと考えていた。

 しかし、もし女神の怒りをかって消されてしまったら……。

 そう思うと怖くなってしまい、結局天使は天使たちの協力の元ペンダントを持って下界へと逃げてしまった。



 下界についた天使は早速人間に捕まってしまった。


 無垢な白い羽根は人間の手によって引きちぎられ、不格好な片翼となり、真っ白な手足には南京錠が嵌められている。


 天使は涙を流した。


 どうしてこんなに酷い事をするのか。

 なぜ女神は助けに来てくれないのか。

 ペンダントを割ってしまい勝手に楽園から逃げ出した罪なのだろうか。


 しかし、いつしか天使は懺悔をする気力すら失い、ただの人形へと成り下がった。


 外の世界へと連れて行かれる度に増えていく包帯の箇所。

 美しかった空色の無垢な瞳はこの世の穢れを見た事により薄汚れた灰の色へと濁っているようだった。


 天使の首に下げているのはひびの入った黒色のペンダント。

 天使がまた一つ、一つと罪を重ねる度にそのペンダントは漆黒へと染まっていく。


 天使の足元は、既に溢れんばかりの血で覆われていた。

 天使が前へ前へと進んでいく度に波紋を作り、まるでレッドカーペットを敷いたような道を作る。



 天使の辿り着いた先は

 かつて楽園と呼ばれた『エデン』


 天使たちは女神を守るように肉の壁になった。

 辺り一面に鮮血が舞う。耳を劈くような悲鳴が上がり天使達は次々に女神の足下に倒れ込んだ。


「なぜ……ここに来たのでしょう?」

「なぜだと思いますか?

 ――貴方を殺すためです。」


 淡々と答える天使に女神は眉を寄せ、そして悲しげに何かに憂う表情を浮かばせた。


「そうですか。貴方は分かってしまったのね」

「そうですね。貴方は女神など名乗る資格はない」


女神はただ「そうね」とだけ呟き天使によって切り裂かれる。


「この世に……らくえんもなにも、ない……存在する、……のは」


女神は口から血を垂れ流しながらかすれる声で絞り出す。


「醜く……哀、れで、欲望に……塗れた、悲しい……世界だ」


女神は瞳の光を失い、後に息絶えた。

その場に残るのは一人の天使の姿。

天使はペンダントを握りしめ、『ありがとう』と呟く。



「たとえ闇に落ちるのだとしても、君が一緒なら怖くないね」



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