クッキーと拳銃② / 分割Ver.

 「クッキー!クッキーがないといやなの!」

 「そういっても、もうクッキーは無いよ」

 「じゃあかって!かって!」

 「いやあ、、、困ったなァ。どこの子かも分からない、どうしよう。

  わかった、今から買いに行こう!一緒に来るかい?」

 「いく!」

 子供との会話に慣れないエトウは、見ず知らずの子と長く家にいるよりも、とっとと交番に連れて行き、警察に受け渡すことにした。

 「さあ、行こうか」

 エトウが少女の手を取ろうとした瞬間、大きな揺れと轟音が響き渡った。激しい揺れは食器棚を倒して、床で割れた皿の破片が散らばる。その後、揺れと爆発音は6度あった。エトウは少女をかばっていたが、揺れが収まったことで立ち上がった。

 「な、なに?」

エトウが窓の外を見ると、街のあちこちで煙が上がっている。国の議事堂がある場所は家から近くなので、大きく崩れて黒い煙がもくもくと舞い上がるのが見える。街のあちこちでアラート音がいくつも鳴り響く。

 「テロだ、、、いや大丈夫。ここは安全だから」

エトウは怖がる少女にフォローを入れようとしたが、振り返って少女を見ると全く怯えていなかった。それどころか何かワクワクしているような顔だ。

 「あれ、大丈夫?」

 「うん!オルターマンがここに居るよ!任せなさい!」

 「そんな呑気な。。。銃もって来るか」

遠くで銃弾が放たれる音がする。バリバリバリと、かつていた戦場に近い音を聞いた。エトウは机のから拳銃を出して、マガジンを取り付け、ホルスターに差す。そして、化粧台の横に立てかけてある小銃を持った。

 「大丈夫、、、2年経った。もう平気、出来る、、、」

銃を手に取ると、戦時中を思い出す。肩にかける前に小銃を見つめる。だんだんと息が荒くなってくる。爆発音が鳴り、隣にいた人が撃ち殺され、轟音が耳をつんざく。そして爆発に巻き込まれて、、、

 「あぁぁああぁぁああああ!」

 頭を抱えてしゃがみこんだ。荒い呼吸が止まらない。少女を守りたい。でも立ち上がれない。恐怖で涙が流れる。自分はこんなことするべきではない、こんな時間はない、少女と避難しなければいけない、だというのに悔しい、、、

 「軍人さん?どうしたの?」

 「できない、もうむりだ、、、」

 「できない?なにができないの、軍人さん?」

 「軍人じゃない!軍人になれない、、、あぁぁ、、、」




7年前に、ポダートがテアに侵攻したことで東方戦争が始まった。エトウが14歳の頃だ。すぐ志願兵に応募したが、『入隊は16歳から』と断られてしまう。戦いが好きな、血の気の多い幼少期を過ごした彼女にとって、開戦は嬉しいものだった。なにより牧草しかない地元から抜け出したかったのだ。入隊して2年間の訓練を積み、18歳でついに、戦地に入った。

 エトウが配属された分隊の隊長は、新兵を前にした初日に語った。

「撃たなければ撃たれる。殺さなければ殺される、当たり前の話だ。なにも戦争だからではない。生きる者は皆、この道理から逃れられない。」

 エトウは自分の考え方と、まさにピッタリの考えと出会った。

 「だからといって、味方でも誰でも撃ちまくる、そんなバカは要らねえ。俺が言いたいのは、自分を主体に考えろということだ。『自分が』先に撃たなければ撃たれる。『敵に』撃たれるから、その前に撃つとかいう、相手出発の考え方では、戦場どころか、この世界じゃ生きてけねえ。」

 分隊は、最前線へと切り込んでいった。ポダートはテアに対して、断続的に大きな戦力を投入した。一方で、テアは防戦のみで、国内に入り込んだ敵を追い返すだけで攻め込まない。短期間で国内に押し込まれ、数か月かけて戦線を前に押し戻す。これを繰り返していた。エトウのいた分隊は、戦線を前に押し返す際、補給隊を護衛する任務だった。

 エトウは銃の扱いに長けていた。頭もよかったので、戦いをよく理解していた。死角の多い山岳地帯の戦争だが、敵の奇襲を上手く避けた。分隊長も彼女の意見を聞き入れ、

スムーズな作戦遂行を行い、交戦時にも共闘することで2人は生き延びていた。

 開戦から5年が経った頃、テアを中心にして組織された他の連合国にも、ポダートが攻撃を行うようになった。テアは、連合国の条約に基づき、海外の戦地にも派兵することになる。エトウのいた分隊は、西南にある小さな国、エムラッヒに向かった。エムラッヒ火山と製鉄所しかない国で、補給隊護衛の任務を続けていた。

 「その野営地に行く。高低差が激しいこの国で、一番に平らな場所だ。敵地の偵察隊からは丸見え、いつ大きく攻め込まれてもおかしくない。だが、2か月前から決まってんだ。ここへの補給隊を護衛する」

 「その野営地の補給隊を護衛するのは良いんです。でも、補給ルートまで決められるのが納得できない!このルートを使うと、標高が格段に下がる地域があります。この地帯は、お椀のような形になっている。これでは攻撃された時に回避行動をとれない」

 「それは分かっている。だが、今回は補給ルートまで含めて指定されている。このルートで行く」

エトウが渋々に納得した作戦だった。そして、補給ルートを進む道で、奇襲を受けた。

砲弾を運ぶ車に集中砲火され、補給隊の大部分は爆発に巻き込まれた。そこで分隊長は戦死、エトウも顔に大きな火傷を負った。だが、それよりも心に大きな傷を負ったのだ。

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