第51話 会いたいです

「ああ、その話を聞いたんだ。あの時は大変だったけど、今では笑い話だね」


 早めに帰宅してくれたアレンお兄様も加わり、一家団欒で夕飯を頂き、今日は早めに休もうと入浴を済ませて懐かしい自室で寛いでいると、バングルが淡く光った。慌てて魔力を流すとアルバート様の声が聞こえた。

 今日キャサリン様から聞いた馴れ初めを話すと、アルバート様が溜め息交じりそう言った。

「大変だったのですか?キャサリン様は、あまり気にしていませんでしたが」

「ああ、あいつはね…当時、キャサリンの嫁ぎ先は隣国かドルバン公爵家、あとはスコット侯爵家以外の侯爵家でという声が多かった。スコット侯爵家のクリスが王太子妃になることは決まっていたからね。キャサリンがアレンに嫁ぐことによって、スコット侯爵家が力を持ちすぎることを懸念する貴族が多かったんだ」

「それはそうですね」

「だからアレンもキャサリンのことを娶るつもりはなかったはずだ。アレンも他の令嬢との婚約を打診され、その話が進められる予定だったしね」

「それは初耳です。アレン兄様もキャサリン様を好きなのだと思っていました」

「アレンは賢い奴だから、貴族の不文律は守るつもりだったんだろう。キャサリンのせいで台無しになったけどね……」

 アレン兄様を好きだったキャサリン様が、アレン兄様の婚約話に焦って、夜会で体調を崩し寝ていたアレン兄様を襲ったそうだ。アレン兄様の叫び声で部屋に警備の人が入ると、アレン兄様を押し倒すキャサリン様がいた。夜会の会場近くの部屋だったため、噂が一気に広がりアレン兄様が責任を取る形で、キャサリン様の降嫁が決まったそうだ。

「それでも反対する貴族もいたから、スコット侯爵が王宮議会の議長を辞して、領地に籠ることで納得させたんだよ」

「お父様が…それで領地にいたんですね。腰痛のせいだと日記には書いてありましたけれど」

「キャサリンのせいで申し訳ないことをしたが、スコット侯爵は元々領地に籠って、ワイン造りがしたかったそうで、気にしないでいいと言われた」

「ふふ、お父様らしいです」

「クリス、今日は久しぶりに家に帰ってどうだった?」

「はい、ジョシュア君とアダム君と遊んで、家族で夕食が食べられて嬉しかったです」

「そうか…私は、今、楽しそうに話すクリスの顔が見たい」

「アルバート様…」

「ごめん、大丈夫だ。気にしないで」

「あの、私も会いたいです。次に会えるのが待ち遠しいと思います」

「本当に?私と同じ気持ちだと勘違いしてもいいの?」

「あの、同じ気持ちだと思います」

「そうか、それならば離れたことにも意味があったのかもしれないな…明日も早いから、今日は早めに休んで。おやすみクリス」

「はい、おやすみなさい。アルバート様」

 フッとバングルの光が消えた。顔が見たいと言ったアルバート様の気持ちがすごく分かる。今まで喋っていたのに、もう声が聴きたい。笑っている顔が見たい。離れることによって自分の気持ちを強く自覚してしまった。

 

「大好きです、アルバート様」

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