第10話 好きにならない方法を探しましょう
「お嬢様、どうされましたか?」
アルバート様に見送られ、馬車で待っていたベスと一緒に帰宅途中、私は頭を抱えて悶絶していた。
「アルバート様が素敵すぎてどうしたらいいか悩んでいるのよ…」
「まあ、それは素敵な婚約者様でいいのではないのですか?」
「こ、困るのよ…非常に拙いわ…」
「そうなのですか?」
契約婚約してからずっと、出来るだけ接触は最低限、王子妃教育に通う時も出来るだけ会わないようにタイミングをずらしていた。呼び出されても体調を理由にお断りして、それでも会ってしまった時は心の距離感をずっと意識して、常に平常心を保てるようにしてきた。
アルバート様が13歳で学園に通うようになり、さらに会う機会が減って、やっと最近は心に余裕が出来てきたと思っていたのに…
「同じ学園内にアルバート様がいるのよ…それも、今日は頼もしく私をサポートして、守ってくれると言ってくれたわ…」
「まぁ、それは頼もしい王子殿下ですわ。婚約者の鏡ですね」
「そうね、そう、頼もしくて、カッコよくて、最近は逞しくもなられて、こんな素敵な王子様を……」
どうやったら好きにならずに、円満に婚約破棄できるのかしら…??もう、無理過ぎてどうしたらいいかわからない。勿論私がチョロいのもある、しかし、こんな素敵な王子様に惚れない女子がいるだろうか?いや、いないだろう。
15歳の青年になる前の美少年…前世27歳だった大人の私は、すでに白旗を上げて全面降伏を表明しているし、現在13歳になった少女の私は戸惑いつつも、どんどんアルバート様に恋心が傾きそうだ。約束の16歳まで3年、これ以上恋心を募らせるのだけは阻止しないと、本当に私は詰む。
運命の相手は、きっと隣国にいる。それだけを心の支えにしなくては…それに、聖女であることが判明して、更に崖っぷちに立たされた気分だ。何かのはずみに情報漏洩してギルフォード殿下に知られたら、何が起こるか怖くて想像もしたくない。自尊心強めの殿下なら、聖女こそ自分に相応しいとか平気で言いそうで本当に怖い。
もし最悪、ギルフォード殿下に捕まり隣国に行けない場合は、神殿に駆け込んで神女になろう。神女はこの国では、神に仕える女性を指す。所謂シスター的な感じで、結婚を望まない女性の駆け込み寺的な存在が神殿である。ただ、神女は神の花嫁とも言われ、そうなると私のチート的に神様は花嫁が多いハーレム状態、つまりクズ男認定される可能性があって、将来の候補から外していたのだ。
「それでも、殿下に捕まるよりは、マシよね…」
近づくだけで寒気吐き気に襲われ、接触すれば最悪ショックで失神状態になる。一国の王子ではあるが、女好きのギルフォード殿下のことだ。丁度いいと既成事実を捏造されるかもしれない、いや、最悪実際に事に及ぶ可能性だってある。
ギルフォード殿下が改心しない限り、婚姻を結べば一生吐き気と戦う運命なんて、絶対に避けたい。いや、実際そうなったら気が狂う自信もある。
知り合ってからずっと、不思議とアルバート様にはそういった現象が起きたことがない。むしろ息がしやすい、心の空気清浄機だと秘かに思っている。でも、違う意味で心臓がうるさく呼吸が乱れそうになるので、やはり回避したい存在ではある。
「何処かに運命の人がいて、それで大団円になってくれないかしら…」
「まあ、運命の人だなんて、お嬢様には王子殿下がいるではないですか?これ以上を求めるのは、少し贅沢が過ぎませんか?」
「そうね、贅沢な悩みだわね…」
でもね、その完璧スパダリになるだろうアルバート様と恋に落ちる訳にはいかないのよ。契約上の婚約者だし、無理やりお願いした手前、16歳で婚約破棄は絶対条件のはずだ。惚れたので結婚して欲しいなんて、そんなの詐欺だ。契約不履行な上、振られて傷心なんて最悪の結末だ…
「やっぱり少し早めて、成人前に留学できないかしら…」
「まあ、お嬢様。昔から隣国に憧れておいででしたが、やはり留学を希望されているのですね。でも、きっと旦那様が反対されますよ」
「そうなのよね。本当なら今すぐ行きたいくらいなんだけど、反対よね…」
だからこそ、親の承諾がなくても行ける成人後なのだ。お小遣いもずっと貯めているし、お婆様から譲られた財産も少しはある。2年間は留学して生活するくらいは問題ないことは、一応確認している。隣国で卒業してそのまま隣国で就職するのも、前世を思い出した私ならきっと可能だ。隣国で運命の相手がいない場合もちゃんと想定済みなのだ。
この国の貴族の結婚制度が一夫二妻制でなければ、この国でも良かったのだ。クズ男認定のチートさえなければ、ここまで寒気吐き気に悩まされることもなかった。
「でも、今世でも私はチョロい女なのよね…」
いい人だと思った人、大体の頭上に輝く文字が【浮気】【女好き】【モラハラ男】【DV男】など、文字が見え寒気がしなかったら、私は前世同様クズ男ホイホイとなっていただろう。つまり、男を見る目がないのだ…ここまで来たら、私の目にはクズ男がいい人に見える呪いか何かがかかっていたと言われても納得してしまいそうだ。
「お嬢様、何をブツブツおっしゃっているのですか?そろそろお屋敷に着きますよ」
「そう。ねえ、後でお父様にお話ししないといけないことがあるの。会いたいと伝えてもらえるかしら?」
「はい、かしこまりました。今日は旦那様ももうすぐお戻りになる予定ですので、お伝えしておきます」
「よろしくね」
まずは、目の前の問題を解決しておかないと…
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