第4話 鉄砂の森
天ノ川銀河系のどこか。
恒星ボアボアの第4惑星。
イポカンテクロスマノマニトーレス。
カンスコンチネントモハメリア大陸の南方。
コルテスガロンドミランモロミネア王国(略称コルテス王国)。
───
バルケッチェ通り115番地にあるハンス魔法靴店前の交差点を王宮の方を向いて左に曲がり、街灯に掲げられたマジカルボルクスパン店の看板を過ぎてT路地の突き当たりを右に折れ、そこから25歩走った所にあるナイフ専門店の控室。
僕は過去の記憶を保持したまま転移し、ソファーの上で寝ていた。
「うっ!」
”ここは・・・・・・”
”──そうか、転移したんだった”
「いてっ! . (>.<)くぅ~っ」
”何だろうな~? 誰かの記憶に僕の記憶が混ざって・・・・・・”
「僕は、マジカル・ブラック・スミス──クロモリ・ハガネ? いや違う、僕はキュリスバウト・ハガネだな。それにしても読みにくい家名だな。ハガネと言う名が一緒なのが救いだな」
「痛っ、 マジで頭痛が半端ね~」
しばらく悶絶していたが次第にそれも治まり落ち着きを取り戻した。
「・・・顔がベタベタする」
僕は顔を洗うために、洗面台に向かった。
水で顔を洗ったあとで鏡に映る自分の顔を見て少しニヤけてしまう。
”金髪か~ しかも美青年。あの女神様、もしかして自分の好みの顔にしたのかな? でもまあ元を大幅には変えられないとか言ってたのでベースが良かったと言う事で、・・・おおむね希望通りだな”
顔をタオルで拭きながら店の入り口の方に向かった。
ガラスショウケースの横を通ると陳列されている刃物が目に入ったが、とりあえず今は外に出てみることにした。
扉を開いて夜空を見上げると煌びやかな星々が手に届きそうなくらい近くで輝いている。
「綺麗な夜空だな~」
「それに寒いな~ 冬なのかな?」
”確かに地球の星空とは違うな、土星みたいな惑星が近くに見えるし、月が5つもある。・・・不思議な事もあるものだ”
”ところで、ここは何の店だ? 包丁屋? いやショーケースの中にはナイフが沢山置いてあったからサバイバルグッズ屋かな”
ふと、明日開店予定であることを思い出した。
これは転移前に存在していたこの人物の記憶だ。
僕は通りの真ん中で体を反転させ扉の上に掲げられているプレートを見た。
”店名は・・・ 読めん”
誰か通ったら読んでもらおうかとキョロキョロしていると、黒髪オカッパの可愛い巨乳少女が隣のパン屋から客を見送るために出てきた。
「あの~」
彼女は僕の声に気付き興味津々な表情でゆっくりヒョコヒョコと胸を揺らしながら近寄って来た。
「テツスナノモリ 変わった店名ね?」
「そんな感じに書かれているのですね」
「変な事を言う人ね、あなたが付けたのでしょ」
「まあ、そうですね」
「あなた、お名前は?」
「これは名乗るのが遅れて申し訳ない、僕はキュリスバウト・ハガネといいます」
「発音しにくい名前ね、それに短いし。・・・あ~ 分かった。あなた移民ね」
”名前が短いと移民なのか?”
「私の名前も教えてほしい?」
「できれば」
「それでは教えるわね、ちゃんと覚えてよ」
「うん」
「私の名前はト・ラよ」
聞き間違いでなければトラと言ったようだが、動物のトラからとったのだろうか? それよりなにより僕の名より短いではないかと突っ込みそうになった。
「トラさん?」
「そうだけど。家名がトで名前がラなのよ」
「トラさんの方が短いですよね」
結局突っ込みを入れた。
「どうしてそんなに名前が短いのですか?」
「それはね、この国の民は家名と名前がとても長いからよ。だから短くして呼んでもらうのが普通なの」
「それではその長い名前の方を教えてください」
「いいわよ。まず家名はトレメンティスバーグで名前はラファートンモラリネアと言うのよ」
どうやら家名と名前の頭を取ってト・ラさんのようだ。
それにしても、この僕の脳味ミソは記憶力が良いみたいですぐに覚えることができた。
「トレメンティスバーグ・ラファートンモラリネアさんですか? 確かにそれでは呼びづらいですね」
「私の名前は短いほうなのよ。平民の家名と名前はそれぞれ10文字から19文字くらいなんだけどね、貴族ともなると家名も名前20文字以上になるのよ」
「貴族様も名前を短くして呼ばれているのですか?」
「そおよ、長いと呼びづらいでしょ」
どうせ短くするのなら最初からそうすればいいのにと思ってしまった。
「ところでこの店、何屋なの?」
「ナイフ屋、いや、鍛冶屋ならいいな~と思っています」
「いいな~って、おかしな言い方するのね」
「まあ、この体は引っ越してきたばかりなので、でも僕的には鍛冶屋にしようかと思っています」
「へんな言い回しね。でも鍛冶屋か~ ・・・それ良いわね。ちょっと待っててね」
そお言うと彼女はパン屋の中に入って行った。そしてしばらくして大きな袋を持って出てきた。
「はい、これお近づきの余ったパンよ、縁了無くもらってね」
「ありがとうございます。こんなに美味しそうなパンを沢山もらってしまって良いのですか?」
「大丈夫よ、余りものだから」
「ではお返しをしないわけにはいきませんね。後日、僕の方からもパン切り包丁を進呈させていただきますよ」
「え! いいの?」
「はい」
「何だか催促したみたいで悪いわね~」
言葉とは裏腹で凄く喜んでいるようだ。
「それじゃ明日からパンを持ってきてあげるわね。どうせ捨てるものだから縁了は無しよ」
どうやら残飯整理をさせたいようだが、捨てる物ならもらっても問題はないだろう。
「ありがとうございます」
「パン切り包丁、期待してるわよ。それじゃ後片付けがあるからまた明日の朝ね」
「明日の朝?」
「見習修行中で朝に大量の失敗作ができるのよ、だからそれも食べるの手伝ってね」
そお言いながら彼女はパン屋の方に帰って行った。
”とても可愛い子だ、明日からが楽しみだ。それに今の僕の容姿なら彼女ともお似合いかもしれない”
初めてこの街の、いやこの惑星の住人と話をしたからかもしれないが、何だかやっていけそうな気分になってきた。
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