第25話 料理長のおかげなんです!チートじゃないの!

 翌日、私はマリルに準備してもらい、レースがあしらわれている軽やかなドレスを着たわ。子供服のような広がるようなパニエではなく、少しだけふんわりさせるだけのもの。


大人の女を意識させる感じで素敵なものだった。


前回コーウィン様を見送った時はここぞとばかりに子供っぽい服だったのに。


「ブランシュ、準備は出来たかい? そろそろ来るよ」


ノックの後に入ってきた兄。


「お兄様、どうです? 可愛いでしょう?」


自分で言って少し恥ずかしい気もするけれど、美人だもの!大丈夫!


「あぁ、もちろんだ。ブランシュは何を来ても可愛いよ!」


兄が頭をわしゃわしゃとしようとした時。


「ヴェルナー様、ブランシュ様。ラーザンド辺境伯子息が見えられました」


とてもいいタイミングだった。クスクス笑いながら兄のエスコートでコーウィン様を迎えに出た。


「ごきげんよう、コーウィン様、舞踏会ぶりですね」

「ヴェルナー殿、ブランシュ嬢、こんにちは。今日を楽しみにしていたよ」

「コーウィンさん、中庭へどうぞ」


私達は彼を中庭に案内する。ロラ姉様達以外初めて通す中庭。


我が家の中庭はとても素晴らしいものだと思っている。私は王宮以外中庭を見たことがないけれどね!


誘拐されて以降、私は中庭に出ることが許されていなかったけれど、学院に通う歳になってようやく行動範囲が広がったの。


私自身、自分の身を自分で守れるように護身術や体力づくりを怠らなかったおかげね! それでも絶対マリルとエディットが付いているのが条件だけど。


「素晴らしい庭だね。この国一番と言っても過言じゃないだろうか」

「そう言って頂けると嬉しいですわ」


 私達三人は用意された丸テーブルを囲むように座った。もちろん後ろには護衛がしっかりと立っている。


いつもはマリルか兄の従者がお茶を淹れるのだけれど、今日は父の執事がお茶を淹れてくれる。


マリルの淹れてくれるお茶も美味しいけれど、父の執事は別格なようだ。

今日の菓子も料理長が腕によりをかけたものだ。


「美味しいわ」


ついつい笑顔が出てしまう。


「確かに美味い。見たこともない菓子だ。マルリアーニ家だけで作られているのか?」


コーウィン様は不思議そうに食べている菓子。実は一口サイズの大福だ。


世の中にチート品は出さないけれど、家で食べる分にはいいだろうと料理長と日々研究を重ねて作っていたのだ。オムライスを作って以降、料理長は暇な私の遊び相手。


自分なりに転生チートルールを設けている。


そのルールとはこの王都にある食材でアレンジを加えた程度のもの! 新たに開発したりするのはアウトとなっている。


もちろん大福と言ってもなんちゃってだ。求肥は米を粉状にしたものなのだが、この世界の米は日本で食べられているような米ではないので粘り気はかなり薄い。

多少もっちりしているかな? くらいの感じ。豆も王都でよく食べられているひよこ豆だ。


和菓子を最終目標にして追及していけばそれなりに美味しい物は出来る。けれど、有名にはなりたくない。


なんでも程々がいいのだ。


実際は料理長が作っているし、私の発想が良かっただけ、という事で済む。砂糖はやはりやや高価なので蜂蜜を使っているけれど、それなりに美味しく作れている。


「コーウィンさん、このお菓子はブランシュが考えて料理長が作ったものなんですよ? 美味しいでしょう?」

「そうなのか? ブランシュ嬢は料理が出来るのかな?」

「えぇ!得意です! でも、家族を含め、従者も私に包丁を持つことを止められているんです。おかしいですよね?」


私がそう言うと、コーウィン様はクスクスと笑った。


「きっとブランシュ嬢が心配なんだろう。俺であっても止めるよ」

「ですよね」


兄も同意している。納得いかないわ! これでも前世は立派に一人暮らしをしていたのに。


「ブランシュ嬢の趣味は料理なのかな? ヴェルナー君から刺繍が得意だと聞いていたんだが」

「んー、えっと、まぁ、得意、ですが、それほど上手くはないと思います」

「ブランシュ、謙遜しなくてもいいんだよ? とても上手だよ」

「いえ、兄様。謙遜ではありません。私、学院で刺繍クラブに入っているんですが、私なんてまだまだなんです。他の方が凄すぎて趣味ですって言えないの」


残念そうにしながら話をする。

コーウィン様も兄もにこにこと私の話を聞いてくれている。


これでは私のお話し会じゃないかしら??

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