第11話 感謝

今日はテストの返却も終わり久しぶりのバイトの日だった。

テストの点数も個人的に高く気分よくバイトに向かう。

まあバイトなので少しは憂鬱だけど。

バイト先までは電車で3つの駅を超えて、街を抜けた住宅街の中にある。

やっと到着して出入口の扉を開けた。


「いらっしゃ…彩斗くんじゃん。結構早いね。めずらしい」


店に入ると大学生の鳴海さんが居た。

中々スタイルが良くて明るく、モテそうだと思うんだけど彼氏がいなくバイトばかりやってるらしい。

この人結構俺の事いじってきて疲れるんだよな。

嫌いではないけど。


「お久しぶりです。今日もバイトすか?大変すっね」


「あれれ?お姉さんの事煽ってるのかな?早く着替えてきた方がいいんじゃない?」


顔は笑っているが目が笑っていないというテンプレみたいな顔をしてきた。


「あははそんなことないっすよ。でもそろそろ時間なんで着替えてきます」


「逃げたな」


何か聞こえた気もするが、気づかないふりをして鳴海さんの横を通り、裏の更衣室へ向かった



着替えが終わりキッチンの方に行くと、クールでありながらめんどくせぇーオーラが凄い人が居た。

この人は本当に…逆だな。


「お疲れ様です。海翔さん」


俺がそう声をかけると包丁を持ったままこっちを向いてきた。

怖えよこの人。


「あ、やっと来たか。お前のただでさ少ないシフトを代わってやったんだから今度何かおごれよ」


「その節は本当にありがとうございました。今度コーヒーでも…」


「あ!?」


「いや、ココアにします!ココアおごらさせてもらいます!」


そういえばこの人甘いものしか興味ない人だった。


「おう。じゃあココアな絶対だからな」


「分かってますよ。もう本当に信じてくださいよ」


俺はそう言って、まだ少し体が震えているままキッチンから逃げ出した。

あー怖かった。



俺はその後すぐにホールに出たが最初の1時間はマジで暇だった。

バイト中忙しすぎるのも嫌だが、誰も居なさすぎるのは、それはそれで体感時間が遅くきつい。

だが18時を過ぎたあたりから、今まだにないくらいの人が来た。

なにこれ?お客さん来すぎでは??

いやいや。無理。普通にパンクする。

鳴海さんもなんでこんなに?と凄く驚いている。



チャリンチャリン。

そしてまたお客さんが来る。


「いらしゃいませ。ご案内します。ご注文は後でよろしかったですか?」


「あ?うん。また呼びます」


「分かりました。失礼します」


ピーンポン。


「お待ちください!」


やばい、やばい、やばい。

そうやってパンク寸前な状態で接客をしているといきなりキッチンから呼ばれた。


「彩斗!ちょっとこっち来い!」


え?今?無理でしょ。本当にパンクするよ?

鳴海さんもマジって顔に出てる。


「彩斗!早く来い!」


流石に2回呼ばれてしまったら行くしかない。

鳴海さんにすいませんとジェスチャーを送ってキッチンに向かった。



キッチンに着くと何でこの量1人でさばけるのという疑問が最初に浮かんだ。

いや違う今はそんな事で感心してる暇はない。


「何ですか?海翔さん。今そんなに余裕ないんですけど」


俺がそう聞くと海翔さんはこっちを見ずに返事をした。


「お前ら2人じゃ回らんだろ?」


「いやそうですけど」


「だから母さん呼んできてくれ。多分にリビングにいる。階段上がって正面のドアだ」


「え?沙都美さん呼ぶんですか?」


「そうだ。早く行け」


「わ、わかりました」


そう言われ慌てて2階に向かった。



「沙都美さん?沙都美さん?今大丈夫ですか?」


海翔さんに言われたドアをノックしていると「どうしたの」と言いながらドアを開けてくれた。


「すいません。今までに無いくらいお客さんが来てて。申し訳ないんですけど、来てくれますか?」


「そんなにお客さん来てくれてるの?」


少し嬉しそうに言う沙都美さん。

いや嬉しい事なんだけど、こっちはそれどころではなくて…


「わかったわ。すぐ向かうわね」


「すいません。ありがとうございます」



俺はその後ホールに戻ると鳴海さんがこっちをずっと睨んできてた。

だが沙都美さんさんが来ると鳴海さんは察したようで睨むのをやめてくれた。



沙都美さんが来た後は何とか店は回って問題なく終わった。

あー疲れた。本当に疲れた。

久しぶりなのにハードすぎた。



更衣室で着替えて、帰る準備をしていると「ただいまー」という声が響いた。

丁度帰る準備をしていたので今帰ってきた菜々美と鉢合わせた。

そういえばここ菜々美の家だったわ。


「あれ?今日バイトだったんだ」


「あーあ。そうだよ」


久しぶりのバイトなのに、今までにないくらいのお客さんが来て疲労困憊なこともあり、テンションの下がった声が出た。


「何か凄い疲れてない?」


「うん。すげぇ忙しかったからな」


「へーえ。珍しいじゃん」


「過去一だった」


「まじ?」


「まじだ」


ほぼ脳死の会話をしながら帰る準備を終える。


「じゃあ、帰るわ。また明日」


「またあし……てか彩斗陽菜子ちゃんにしっかりお礼したの?」


お礼…確かに。少しは考えていたけど伊吹さんって何が欲しいってか、女子が何が欲しいとか全く分からない。


「女子って何が欲しいとかあるの?」


「え?私は和真から貰えるならなんでもうれしいけどな~」


あ、こいつに相談したらまぁそうなるよな。


「あーそうですよね~。自分で考えま~す」



俺は店を出た後女子が欲しいものを考えながら帰った。





























































































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