第4話 倒れる

エレベーターが来ない。

何でだよ。いつもすぐ来てるれるじゃん。

助けて...

何も接点の無いお隣さんと2人は結構気まずい。

 

「そう言えば、カラオケ行ってたんだっけ?楽しかった?」


気まず過ぎたので、取り敢えず当たり障りない質問をする。


「うん。知らない人だけだったから緊張したけど、みんな優しくて楽しかったよ。池田くんはカラオケ来てなかったね」


「うん。ああいう集まりあんまり得意じゃなくて。でも楽しくて良かった」


別に集まりが苦手では無く、面倒だったから行かなかったとは流石に言えん。


「ふふっ。楽しくて良かったって、池田くん来て無かったじゃん」


「いや、一応同じクラスだから良かったなと」


「でも私もああいう集まり得意じゃないんだよね」


「マジ?意外。全然苦手そうには見えないけどな」


「そんな事ないよ。人は見かけによらないからね」


「まぁ確かに、そうかもな」

 

当たり障りない会話をしているとエレベーターが1階まで降りてきて扉が開いた。

遅いわ。

心の中でそうツッコむ。

 

4階のボタンを押すと、エレベーターは上に上がって行く。

エレベーターでは会話は無く、気まずかった。

早く着いてくれ。



4階に付き扉が開くとお互い無言で歩き出した。

廊下に響く音は、2人の足音と俺のコンビニで買った袋が足に擦れる音だけ。


「その袋コンビニでも行ったの?」


沈黙を破ったのは伊吹さんの方だった。


「あぁ、今日の夜ご飯を買いに」


「その袋小さいけど、何買ったの?」


「何って、サラダチキンだけど」


「……まさかそれだけじゃないよね」


「え?これだけだけど。自炊とかするの面倒くさいし」


俺がそう言うと呆れたと言いたそうな顔をしている。

てか多分言ってくる。


「呆れる」


ほら言った。


「食べ盛りの高校生がそれだけで足りる訳がないから、しっかり食べないと駄目だよ」


「まぁ、考えとく」


「嘘っぽい」



伊吹さんの部屋の前に着いた。

全然距離は無いのに凄く長く感じた。


「しっかり食べないと駄目だからね」


改めて言ってくれる伊吹さん。


「ありがとう。でも大丈夫だから。じゃあおやすみ」


「本当に大丈夫ならいいけど」


そう言って伊吹さんは部屋に入って行った。それを確認して俺も部屋に入った。



部屋に戻ると、俺はサラダチキンを冷蔵庫に入れて、風呂に向かった。

風呂は熱いシャワーを浴びるだけで、湯船には浸からない。

だから風呂は比較的早く済ませることが出来る。


 

風呂から出ると、脱衣場で音楽を口ずさみながらドライヤーをして、普段は目にかかってる髪の毛を上げる。

それと俺は乾燥肌なのでしっかりスキンケアもする。



部屋に戻るついでに、冷蔵庫からサラダチキンを取り出し部屋で食べた。

ミスった。全然足りねぇ。

早く漫画を読みたくて、すぐに食べられる物にしたが、中途半端に食べて余計に空腹感が増して、漫画に集中出来そうに無い。

流石にキッチンの周りを見回した。

だがあったのはパックのご飯だけだった。


「そりゃ何もないよな」


誰もいないキッチンで呟く。

特にご飯に合う物も無いので、我慢して部屋に戻ろうとした時、ピンポーンと家のインターホンが鳴った。



え?何?誰だよ。

何もネットで頼んだ覚え無いので不思議に思い、ドアに付いてるドアスコープから外を見ると、そこには伊吹さんがいた。

何しに来たんだ?と俺の頭には?マークが浮かんだが、とりあえずドアを開けた。


「どうかしたか?」


疑問に思った事を伊吹さんに直接聞くと、何故か伊吹さん固まって初対面の人を見るみたいだった。

まぁほぼ初対面みたいなもんだけど。


「池田くんだよね?」


ん?もしかして顔を忘れられた?いや待て、メガネ付けてないから分からないだけだ。


「う、うん池田くんですよ。忘れちゃったかな?」

 

「本当に池田くんなの?」


ガチで忘れられてる奴これ?だとしたら結構悲しい。


「正真正銘の池田彩斗です」


「・・・見かけによらないのは、貴方の方じゃない」


「ん?どういうこと?」


何の脈絡も無い発言に俺は余計?マークが頭に浮かんだ。


「ううん。なんでもない。それよりこれ作り過ぎたからあげる」


そう言って俺の前に何かが入ったタッパーを差し出してきた。

何だこれ?


「えっとこれは?」


「私の夜ご飯の残り。食べかけって言う意味じゃないからね」


「わかってるよ。これ本当に貰っていいの?」


「別に嘘なんかつかないよ」


「じゃあ、ありがたく」


俺がそのタッパーを受け取るとまだ底は少し暖かく出来たてといった感じだ。


「本当にもっと自炊しないと駄目だからね」


少し心配そうに言ってくる。


「いや、わかってるけど料理出来ないから」


唐突に一人暮らしをしろと言われた俺が、料理なんか出来る訳が無い。


「よくお父さんとお母さん達に一人暮らし認めて貰ったね。私が親なら意地でも連れてくけど」


お父さんお母さんと言う言葉に体が反応したのか、背中に変な汗が出てきた。

あれ?なんかおかしい。


「池田くん大丈夫?顔色が凄く悪いけど」


「う、うん大丈夫。何でも無い」


そうは言ったけど、視界がよく見えなくなっていく。

何だこれ?学校の帰りにも同じ感じだったけど、ここまで酷くなかったのに。

そして俺は最後の力を振り絞って、タッパーを落とさないように地面に優しく置き、意識を失った。



 

俺は目が覚めると自分の部屋の天井が見えた。

時計を見ると夜の0時になっていた。

俺どうしたんだっけ。

全く心当たりが無く周りを見渡す。すると足元で寝息のような音が聞こえた気がした。


「え!?」


俺は思わず大きな声が出た。

そこには何故か伊吹さんが寝ていた。

彩斗1回冷静になれ!これは夢だ。ありえない。

だからもう1回だけ足元を見ろ。

そう自分を言い聞かせて、足元を見ると、伊吹さんの目が開いた。


「おはよう。もう体調は大丈夫そう?」


現実なのこれ?

伊吹さんは少し安心した声で話かけてくる。


「何で伊吹さんが俺の部屋に居るの?」


「は?」


伊吹さんは1音だけ発して、怒りの表情でこっちを見てくる?


「どうかしました?」


「・・・覚えてないの?」


「何か分からないけど...覚えてないです」


そう言うと伊吹さんは呆れた表情で「倒れたの!私の前で!本当に心配したんだからね!」と言ってくる。


「それガチ?」


「ガチよ」


その後詳しく何が起こったか伊吹さん本人から聞き。

顔が青ざめた。

そして本気で何度も何度も謝った。



 

「もういいから。許す。許します」


「本当にごめん」


帰る準備が終わって、玄関を出ようとする伊吹さんに最後の謝罪をする。


「許すけど、これから自炊する気あるの?」


「それは...俺料理全く出来なくて。でも出来るだけ健康そうなものを食べるようにするよ」


俺がそう改善策を提案すると「健康そうなものね」と全然信用していない声で呟いた。

そして少し考え込む伊吹さん。

 

「あーーもう!しょうがないわね。私が作ってあげる」


「え?いや流石にそれは伊吹さんに迷惑すぎるって」


「いつ倒れるか分からないお隣さんがいる方が迷惑だから」


そう言われると言葉が出ない。


「材料費は折半ね。もう二度と倒れないでよ。じゃあね」


俺は唖然として何も言えず伊吹さんは家から出ていった。

 













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