第7話 初めての休日!


 朝起きると、私服に着替えた。

 服はあらかじめ数着用意されていた。朝食を食べに行こうとしていると、宅配物が届いた。それは封筒に入れられていた。中には、用紙が一枚入っており、詳細には、『学生証』の使用方法について書かれていた。

 学生証は身分証目性であると同時に、銀行のキャッシュカードの役割も含まれいた。中には、100万円が振り込まれている。脇になった用紙には、ひと月分の生活費と、報奨金だと記されていた。健斗は目をパチクリさせた。用紙のすみには、政府の紋章いりのハンコウが押されていた。

「おはよう」田中が、扉をノックして入って来た。

「やあ。おはよう」

「どうした?」田中は首をかしげて、健斗をた。

「実は学生証のことなんだけど」

「ああ、その事か」田中は説明した。

 特別寮に入っている生徒には、政府から報奨金ほうしょうきんを受け取れる仕組みになっていた。説明によると、健斗は政府から特別待遇を受けているので、一カ月の生活費と、報奨金の両方を受け取れるらしかった。

「ぼく、そんなに特別でいいの?」

「まあ、能力はまだ開花していないようだけど、お前の中にはすごい力が眠っているのかもしれないって、期待されているんだ。それが今の評価って事だろ」

 健斗は頷いた。

「そうなのかな?」

「まあ、受け取っておけよ」

「そうかな」

「そうだよ」

 それから二人は、寮の朝食を食べに向かった。

「おお、すごいな。毎日こんなすごいもの食べいるのか」田中は朝食に並んだ、バイキング形式の朝食を見た。

「凄いよね。卵にベーコン、ホウレンソウ、みそ汁にカレー何でもある!」

「羨ましいよ」

 二人は好みのものを取って、椅子に座った。

「本当このカレーうまいぜ」

「ぼくは、卵とベーコンに味噌汁だ」健斗は味噌汁をすすった。

「俺の住む寮とは比べ物にならないぜ」田中はカレーを口いっぱいに頬張った。「俺の寮では、朝食は出てこないんだよな」

「そうなの?」

「そうさ」田中は頷いた。「俺の寮では、朝食は出てこない。だから、自分で食材を調達しておいて、料理したり、もしくは、あらかじめパンを買って食べる」

 説明によると、田中はバイトをして、食事代を抽出しているらしかった。

「涙ぐまし努力だ」健斗は首から下げた生徒証を見た。このカードを一つで、何でも買えてしまう。「これをはなるべく使用しないようにしよう」

「どうかした?」田中は言った。

「いや」健斗は首をふった。

「それより今日は休日だ。せっかくの休みなんだから、どこかに遊びに行こうぜ」

 二人は何処に遊びに行こうか思案した。だが、健斗は、学園都市にやって来たばかりだったので、遊びに行く場所を知らなかった。

 しばらくして、田中の案内で街に繰り出すことになった。

 朝食を食べ街に繰り出すと、田中はにやりと笑った。「お前は、報奨金がっぽりもらっただろ? 今日くらい嵌め外そうぜ」

「何か悪い顔してない?」健斗は横目で田中を見た。

「気のせいだって」

 向かった先は、商業施設が立ち並ぶ一角だった。辺りには巨大スクリーンや、巨大な交差点。あちこちにお店が点在し、客引きの着ぐるみを着たマスコットや、コスプレ着たお姉さんが立っていた。

「お姉さん可愛いぃ!」田中はテンションが爆上がりした。

 健斗は辺りを見た。そこには、派手な看板で『喫茶店きっさてん』なる文字があった。「こ、これは何?」

「お、お前も男の子だな」

「な、何のこと」健斗は、自分が触れてはいけないものに触れてしまった気がした。「ここが、いいのか?」田中は言った。

「いや、べつにそう言う意味じゃなけど」

「いいって事よ」田中は説明した。「まあ、あそこメイド喫茶だな。可愛い女の子が、可愛い衣装を着て、奉仕ししてくれる」

「奉仕?」健斗は首を傾げた。「そう。ジュースを飲ませてくれたり、おいしいオムライスを作ってくれたり、食べさせてくれたりもするんだ。まるで、パ台砂ようなお店さ」

「じゃあ、あっちは」

 田中は目を見開いた。「お、お目が高い!」

「な、何なの」健斗は驚いて立ち止まった。

「ちょっと料金は高めだけど、趣向をこらした喫茶店きっさてんだ」

「な、何なの!?」

 健斗は、田中に導かれて店に入った。内装は、普通の喫茶店と変わらなかった。なのになぜか、メイドや、アニメのコスプレをしたお姉さんたちが立っていた。

「こ、これは」

 田中は説明した。「ここでは好みの子を指名できる」

 二人は、悩んだ末、好みの女の子を示した。

 二人は、席に座った。

「こ、ここは?」健斗はメニュー表を見た。そこには、一時間数千円。ドリンク数千円なる文字が……。

「ここは、お姉さんと会話できるお見合い喫茶なんだ」

「お見合い!?」健斗は驚いた。

「突っ込みどころはあるだろうけど、いろんなコスプレしたお姉さんとお話しできるうえに、仲良くなったら連絡先交換もできるんだ! 最高だろ?」

 健斗はカウンターを見ると、マスターがいてグラスをいている。

「あれがマスターらしい」田中は笑った。「この学園都市は、二十歳までの子どもたちしかいないから、あのマスターも子どもだ。外見は大人っぽいけどな」

「へぇ。〇クザみたい」

「見た目はな。だけど、ここには子どもたちしかいないから、そいう意味では安心だな。ぼったくられることもない。そもそも、この学園都市では、ぼったくりや、犯罪は皆無なんだ」

「そうなの?」健斗は驚いた。

「子どもたちが統制する警察があるから、不正もあなければ、厳重に街の安全が守られているから、安心してくれ」

 健斗はふと思った。「でも、子どもだけじゃ限界が」

「いやいや」田中は言った。「子どもをあなどるなよ。子どもだって大人に負けないくらい力がある。頭だっていいし、それに」

「なに?」

 田中はにやりと笑った。「ここは能力者の街だぜ。戦闘に特化した能力を持った奴や、頭脳にひいでた者だっているんだ」

 しばらくして、コスプレをした美少女たちがやって来た。

「あの、隣座ってもいいですか」

 二人は頷いた。それぞれ、二人は向かい合うように座り、その横に一人ずつコスプレをした美少女が座った。

「こういう店、僕はじめて来たんだ」健斗は言った。

 美少女たちはきゃあきゃ騒いだ。

「な、いい店だろ」

「うん。とっても楽しいよ」

「だな。会話するだけでも楽しい。でも、もっと楽しいこともできるんだ」

「な、何」健斗は興味を引かれた。「実は、ここには、裏オプションなるものがある」

「う、裏オプション」健斗はその響きに引かれた。

「普通は、女の子に飲み物なんかをたのでやると喜ぶんだ。だが、それは、まだまだこの道を知らない男の遊びだ。真の遊びを知っている男は、裏オプを頼む!」

「何それ、教えて?」

「おい、子どもにはまだはえぇよ」

「ぼ、ぼくは十二歳だけど、男の子だよ」

「ああ、俺は罪深いな。お前のようなピュアな男を連れてきちまうとはよぉ」

 健斗は急かした。「早く教えてよ」

「わかった。分かった」田中は笑った。「裏オプって言うのは、お金はかかるんだけれどもよ、女の子たちとゲームができるんだ」

「へぇww」

「反応ふつうだな。まだわかってねぇな? これは凄いメリットがあるんだぞ」

 田中からメリットについて教えられた。女の子とゲームすることで、女の子に一つ質問できるということだった。それをうまく利用すれば、女の子と仲良くできる。さらにもっとうまくやれば、女の子のヒミツだって聞き出せてしまうのだ

 しかし、健斗にはうまく理解できなかった。

「お前という奴は」田中は愕然とした。そして、顔を上げた。「ただの裏オプでは、気に入らないのか……?」

「あ、ごめん、そんなつもりじゃ」

「いや、いいって事よ。お前にはもっと刺激が強いのがお勧めらしいな」

「刺激が強い!?」

 田中は不敵に笑った。「裏オプには、その先がある!」

「その先」健斗は興味を引かれた。「教えてくれ!」

「その先には、三つの扉があるばい!」

「三つの扉!?」

「そう。それは、究極の裏オプ。王さまゲーム!」

「教えてくれ?」

「三つの扉とは、敗者と、勝者、それからチキン野郎がある! 王さまゲームを制する者、すなわちお見合い喫茶を制すると言われている!」

「やる、僕はやってみたい!」

「いいのか? 料金は高めだぜ」

「いくらだ?」

「十万!」

「今の僕に払えないお金はない!」

「よし、やるかぁ」

 二人は、お金をおろしにATMに向かった。健斗は、二十万おろした。田中には荷が重すぎた。彼らかおごってくれと言われたわけではない。だが、仲間を見殺しにはできなかった。

「これを使え! 友よ!」

「これから、戦友と呼ぶぜ」

 そして、お見合い喫茶で、大さまゲームが始まった。意気込む、田中に対して、田中は王さまを引けず、涙をのんだ。一方、ゲームを良く理解していない健斗だったが、王さまを引き、女の子に好きなことを注文できた。

 女の子を自分の膝の上にの座ってもらった。

 女の子から抱きついてもらった。

 女の子から、耳元で好きと十回、言ってってもらった。

 つまり、王さまゲームは最高だった。

 王さまは、絶対だった!

 ゲームが終わったとき、健斗は勝利者であった。

 田中は、敗者として、涙をのんだ。

 二人とも、王さまゲームから逃げるようなチキンではなかったが、勝者と敗者で明暗が分かれた。

 健斗は勝者となり、田中は敗者として涙をのんだのだった。




 午後、バーガーがショップで軽い昼食を食べた。

 それから、近くにあったゲームセンターに向かって、ユーフォ―キャッチャやー、昔懐かしのアーケードゲームを楽しんだ。

「ああ、今日はよく遊んだな」田中は、街を歩きながら言った。

「うん。こんなにあ楽しかったのは、はじめてだよ」

 田中は自販機でジュースを買って、渡した。

「ありがとう」健斗はすみでジュースを飲んだ。

「なあ、お前、ここに来る前に何してたの?」

「深い質問だね」

「まあ、そう言うなよ。だってさ。お前、素直だし、今日遊んでいて分かったけど、やっぱりいい奴だった。それがなぜ、あの悪魔の女に従っているのかなと思って」

「そのこと」健斗は笑った。「ぼくは、退屈していたんだ」

「人生が平凡で、退屈で、ずっと変化が欲しかった」

「平凡はダメなのか?」

 健斗は肩をすくめた。「ダメじゃないよ。ただ、退屈だ。退屈って言うのは、とくに勉強ができるわけでもなく、運動が出来るわけでもなく、女の子に訳でもない。大人になってからも、さえない人生を歩んで行くんだって思っていたら、つまらないと思って」

「そう考えれば、今の状況は、退屈しないな。お前は、特別だし、学校でも、学園一の美少女にこき使われている訳だし」

 健斗は笑った。「ぼくは今、ちっとも退屈していない。願わくは、このまま退屈しない人生を歩み続けたい」

「なら、しばらくは安心だな」

「うん」健斗は尋ねた。「田中くんはは、どうなの?」

「君て、今さらだな。俺は、本当に平凡な人間だ」

「だけど、きみは学園の新聞部なんだろ。どうして、記者になろうと思ったの?」

 田中は笑った。「俺も平凡だった。力が開花する前は、平凡中の平凡へいぼんだった。でも、能力が開花してから、親はすごく喜んでくれたし、俺も能力を使うことで、特別に慣れる気がした。だから、俺は、特別になりたいと思った。あと、そうしていて思ったんだ。俺は、何か調べたり、自分の知らない情報をすることに興味を持ったんだ。かっこよく言えば、知識欲に目覚めたのかもしれないな」

「だから、記者に?」

「そうだな」田中は頷いた。「記者になって両親を驚かせたり、知らない情報を手に入れて、みんなを驚かせられたら最高だな」

「それいいね。彼女といたら、君も退屈しないだろうね」

 二人は笑った。

「僕はしばらく、ユナの言いなりかな」

「俺もだなww」

 二人は笑った。

「彼女は、ぼくらの星だね」

「疫病神かもよ」

「どちらになるかは、僕たち次第さ」

「なら、せいぜい、飲み込まれないように頑張るとするかな」

 二人は、もう一度笑いあってから、歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る