チンチャ・メンドゥーサの怠惰な日常

片喰 一歌

CASE:1 チンチャ・メンドゥーサ!


「はい、そこ〜。一時停止違反でーす」


 頭をぽりぽりと掻きながら、気だるげに言ったこの男は『チンチャ・メンドゥーサ』。


 メドゥーサっぽい名前の、メドゥーサ然とした能力を持つ、ごくごく普通の一般人である。


 特筆すべき性格は『極度の面倒くさがり』と、まあそこも名が体を表しすぎているといったところであろう。


 ちなみに私は天の声。


 気軽にナレー氏とでも呼んでくれたまえ。


「いやそれ、一般人であっちゃいけないスペックじゃね? なんかこう……もっとさあ! あるんじゃねーのか? あるだろうよ! おめえにふさわしい肩書きとか、地位とかさあ!! なに一般社会に埋没しようとしてんだよ! 腹立つわ!」


 一方、こちらは一時停止違反をなさった一般通過ドライバー。


 お口は悪いですが、最低限の良心はお持ちのようですね。


 ちなみに私は超一流ナレーター(自称)。今後の活躍にご期待ください。


「え? なにキミ。天の声聞こえてるの? わ〜、すご〜い。ぱちぱちぱち〜。時代が時代なら魔女裁判ものだったよ〜? よかったね〜、心の底から」


「ええ……? 引くほど棒読み…………」


 おお。鈍感なりや、メンドゥーサ。


 そこなお口のよろしくないモブ男くん(※最大級の婉曲表現)は、君の輝かんばかりの資質を埋もれさせておくことに腹を立ててくれているというのに!


「え〜。オレはそういうの、どうでもいいかな〜」


「勝手にふたりで会話進めんな!」


「ごめんね〜」


 申し訳ありません。


「わかりゃいいんだよ、わかりゃ…………じゃねーや! おい、ちょっと待てよ!」


「お兄さんさあ。それ、もう古いんじゃないかな〜? それ言うくらいだったら、『俺、バカだからわかんねえけどよ……』とかのがまだ新しかったんじゃない? キミ、いかにもバカっぽいし、アホ丸出しじゃない。ぴったりだと思うし、言ってみてよ」


「言わねーっっ! こちとら言いたくて言ってんじゃねーんだわ!! てか、さっきから失礼すぎな!? 口を慎め、イケメンさんよお!」


 これはこれは、うちの子が大変失礼を。


「ええ〜? イケメンさんだって? 知ってるけど、同性から言われると嬉しいな〜」


 こらこら、メンドゥーサ。少しは反省しなさい。


 確かに君は比類なきイケメン、天が万物を与えたもうた生ける伝説のような存在だとは思いますが。


「あっ、ちょっとわかる。嬉しいよな! ……じゃねええええ!! 俺の話を聞けー!!!! あと、ナレー氏! 甘やかしすぎんな!」


 すみません。やめられません。止められません。


 あっ。ナレー氏って呼んでくれて、ありがとね。ナレー氏、感激!


「どういたしまして。……じゃ、なくてだな!!!! もうおまえ、一回怒られたら!?」


「仕方ないな〜。じゃあ、なんの要件か聞いてあげるよ。一応、勤務中だからね〜」


「もうおまえらの相手すんのやだ……。つかりた…………」


 おやおや。突然めそめそしてしまって、どうしたんです?


 メンドゥーサには遠く及びませんが、貴方には貴方の美しさがあるのに、俯いていては誰からも見つけてもらえませんよ。


「どう考えても、おまえらのせいだが!? ナレー氏がちょっといい話っぽくしてくるのもムカつくし、なに言っても無駄な気がしてきたな……」


「そう? だったら、違反金置いて、さっさと帰ってね〜」


 みなさん、ご覧になっているでしょうか。


 手をひらひらさせているメンドゥーサもかわいいですよ。


「んまーっ!! 鬼! 悪魔! メドゥーサ!! ボケてそうなくせに、しっかりちゃっかりしてやがる! くっそ!! なんっっで、よりにもよって、こんなやつに捕まっちまったんだ……っ! せめて……せめて、セクシーでボインなお姉さんだったらよかったのに……! うおおおおん!!」


「へ〜。キミ、好みのタイプも古臭いんだね。まあそこは人それぞれだから仕方ないけど、表現の仕方が救いようもなくダサい」


 こらこら、メンドゥーサ。


 急に正気を取り戻しては、ダサお兄さんがかわいそうではありませんか。


「いや、一気に扱い雑になりすぎぃ!! ナレー氏の毒舌はまろやかになってる気が…………いや、いやいやいや俺! 騙されるんじゃねえぞ……!」


 ん? なんでしょう?


 騙されるのは誰? 誰? キミキミキミキミ?


「言ってねえええええ!!!!!」


 やれやれ。モブ男くんの受難は、まだまだ続きそうですね。




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