第8話 オタクの卒業

 いつもと変わらない日常が訪れる。学校では話したことのない友達から声を掛けられて嬉しかった。翠ちゃんもみんなから声をかけられて忙しそうだ。


 僕が席に着くと振り向いて挨拶をしてくれる。


「新君おはよう」


「翠ちゃんおはよう」


 といつもと同じような、少しよそよそしい挨拶。


 演劇という2人で話せる口実を失い、挨拶はするけど話すことがなくなった。いや話せなくなった。話したくても何を話していいか迷いに迷い諦めてしまう。


 休み時間も彼女の周りには友達が集まり、いろんな話をしているようだ。楽しそうだけど、僕の前で見せる笑顔とは違う。2人でいる時は感情豊かで目が輝いていた。


 僕の席に数人の人だかりができた。同じゲームの趣味を持った友達がどういう経緯で台本を作ったかを聞きに来てくれる。高校生活3年目の最後に、ぼっちだった僕に友達ができるなんて思わなかった。


 これからはみんな受験勉強で忙しくなる。僕は専門学校に行くから受験というほどの勉強はしない。こんな時期に3年生に演劇なんてさせるなよって思うけど。


 ほどほどに勉強はできたから授業の合間にゲームのシナリオを考える日々。黒板に目を向けると、自然に彼女に目が向く。今日も栗色の髪は美しかった。


 今日は声を掛けようとしたけど、何も話せなかった。明日こそ話してみよう。


 ◇


 銀杏はしっかり色付いてきた。文化祭が終わって2週間が経つ。


 毎日「おはよう」と挨拶を交わす。でもそれ以上に話をすることはない。


 休み時間に話そうかと思うけど、緊張して何を話していいかわからなくなる。彼女の周りはいつも取り囲まれて誰かと話していた。すごく楽しそうに。今も自分を取り繕ってあえて元気に見せてるのかな。


 僕に寄りかかってきた弱い心はなくなったのかな。


 元気になったなら嬉しいけど寂しさも感じる。人生で誰かに寄りかかられたのは、夏休みに肩を預けた、たった1回。


 もう翠ちゃんには僕は必要ないのかもしれない。


 夜。部屋でアニメを観ても内容は全く入ってこない。頭の中は彼女で埋まっている。


 話したいと思って携帯を握る。


 [柊翠]を選ぼうとしても心が指を動かしてくれない。


 話したいのに……怖いよ……


 でも……このままじゃ……


 プルルルッ! プルルルッ! 


「おわ!」


 変な悲鳴を上げてしまったけど、彼女から電話が掛かってきた。2人で会っているときみたいな元気な声で話してくれる。


 生まれてからずっと、アニメとゲームしか知らない僕は、世間話や色恋の話が全くできない。だからゲームの成り立ちや僕が作りたい作品のことを話すけど、いつも同じ話になる。それでも楽しそうに聞いてくるんだよな。


「ねぇ、また新君の将来の話聞きないな」


「うん、でも僕の話何度も聞いて飽きない?」


「全然飽きないわw」


 今作っているシナリオの事。ゲームの楽しさ。学校で企画書を作ってたことは本気で怒ってくれた。


 勇者よりもヒロインの方が強いゲームを作るって話したら凄く笑ってた。それは僕と翠ちゃんの話なんだよ……


「新君はゲームの専門学校に行くんだよね」


「うん、東京の学校だね。大学よりも専門学校の方が深く学べるから」


「東京かぁ。私も東京の大学受験するの……」


 彼女は両親が決めた東京の大学に進学するらしい。成績は学年でもトップクラスだし、演劇でやったことを自己アピールを書けば、絶対に受かるだろう。決められた大学に行くのは不満らしいけど、とりあえずやりたいことを探せればって言っていた。


「あと5ヶ月で卒業だね」と寂しそうに言っていた。


「東京でも会えるかな……」と自然に言葉が出てくる。本当は東京じゃなくて今すぐ会いたい。


「うん! 絶対に会おうよ!」と嬉しい言葉をかけてくれた。


 気づいたら2時間以上も話していて、母親から電話を切るように言われた。まだまだ話したりないけど。


「親に切れって言われたから……」


「うん、またね」


 ピッ! 


 切れちゃった。


 話してる間は心の穴が気にならなかったけど、終わると穴がまた空いていた。彼女がいないと埋まらないのかな。


 明るい声を聞いていると心が落ち着く。学校ではほとんど話すことはないから、すごく嬉しかった。


 彼女は両親の決めた大学に行くって言ってたけど、行きたくなさそうだった。


 君は僕に勇気をくれたんだよ。誰とも全く話せなかった僕が、普通に話せるようになったんだ。だから、ぼんやりとした夢でも叶えてほしい。そのために力になりたい。


 夏休みに会った時、スポーツに関わる仕事をしたいって言ってたな。


「調べてみるか」


 PCを立ち上げ、検索画面を出したけど何を調べればいいんだろう。


 “スポーツ 怪我”


 ‘スポーツ 仕事”


 検索範囲が広すぎて、何を調べればいいのかわからない。でも、翠ちゃんの役に立つなら徹底的に調べてみよう。



 ◇



 文化祭から1ヶ月が経った。秋も深まり、紅葉秋を彩る。


 色々調べたら”理学療法士”と言う仕事に行き着いた。理学療法士は、怪我をしないための対処や、身体機能を把握してパフォーマンス向上を図ること。怪我をした選手を復帰させるリハビリテーションの指導をする仕事のようだ。


 就職先もプロスポーツに所属したり、フィットネスジムや病院でも活躍できるらしい。


「今日こそは伝えないと……」


 学校では相変わらず挨拶だけの毎日。学校から帰って彼女に伝えようと電話を手に取る。だけど[柊翠]を押す勇気が持てなかった。


 このままじゃ何も伝えられず、行きたくもない大学に通うことになる。


 調べることが、彼女が望んでなかったら余計なお世話だよな……


 でも伝えなきゃ分からないよ。今日こそ絶対に電話してみよう! 


 [柊翠]の名前を押せば、彼女の携帯のベルが鳴り、出てくれるはず。


(翠ちゃんは僕のことをどう思ってるんだろう。友達としてみても男性としては見れないんだろうな。もし嫌いだったら電話が来るだけで迷惑って思うかも……)


 考えれば考えるほど、マイナスなイメージしか湧かず、全てが失敗するのではないかと不安が大きくなる。


「こんなんじゃダメだ! 翠ちゃんがくれた勇気をなくしちゃダメだ!」と[柊翠]をタップする。


 プルルルル


 プルルルル


 ピッ! 


 出た! 話さなきゃ! 


「こ、こんばんは」


「新君! こんばんはw」明るい声に安堵する。何度聞いても素敵な声だ。


 彼女も僕に電話を掛けようとしたところだったらしい。これは偶然なのかな? それとも彼女も同じ気持ち……いやそれはないよ。


 色々話したいけど言葉が出てこない。だから本題だけ伝えよう。


「実は、前にスポーツに関することをしたいって言ってたでしょ? だから調べたんだ」


「そうなの? ありがとう」


 調べたことは多すぎるから簡潔にまとめた紙を用意していた。


「前に怪我をして陸上を止めたって言ってたから、翠ちゃんの目指す道にどうかなって……」


「理学療法士? 知らなかった。私も調べてみる」


「僕は……翠ちゃんに……夢を作ってかなえて欲しいって思ってるよ。僕に勇気をくれたから……幸せになってほしい」


「ありがとう。誰もそんなこと言ってくれないから、心から嬉しいわ」


「じゃぁ、それを伝えたかっただけから……また……」


「え、あ、うん……ありがとう」


 ピッ! 


 僕はほんの少しでも力になれたらそれだけで満足って思う。だってあまりにも不釣り合いな、美女と野獣、美少女と陰キャオタクだから。


 良い思い出と、甘酸っぱい初恋と思って諦めよう。


 ◇


 12月


 今も学校で声を掛けようとしたけど、どうしても躊躇してしまう。今日も声をかけずに放課後になっていた。


 寒さが増し、頬を伝う風が熱を奪っていく。肌を刺す寒さよりも、心に空いた穴の方が寒さを感じる。


「さっさと帰ろう」と早歩きで帰っていると、後ろから声をかけられた。


「新! お前も帰りか」


「あ、佐藤君、帰り道同じ方向だったね」


 クラスの中心で不良をを気取っていた彼も、演劇が決まってから僕に優しくなっていた。根暗でウジウジした僕の態度が嫌いだったみたい。でも演劇で一生懸命動いていた僕を見て見直したらしい。特に劇の最後のセリフは本当に感動したらしく、学校で会うたびに褒めてくれた。


「佐藤君は地元の会社に就職だったよね?」


「あぁ、俺は大学行くより働いた方があってるからな。ってそれより」


「それより?」


「お前は柊と付き合ってないのか?」


「え? いや……」


「俺と一緒で振られたのか? なんてなw」


「ははw振られるどころか告白もしてないから。それに僕には勿体ない人だよ。翠ちゃんに僕は似合わないって思うんだ……」と言ったら佐藤君の顔が赤くなり目が血走ってきた。


 僕の胸ぐらを掴み上げて大声で叫ぶ。


「お前馬鹿か! もう少し利口なやつだと思ってたけど、そこまで馬鹿だとは思わなかった! 思い出せ! 劇の柊の目は本気で好きな男を見てる目だった! 最後のセリフはお前のことを本気で思って言ったセリフだぞ!」


 そう言われると顔を反らしてしまう。僕だって、本当の言葉だって信じたいんだ。


「そ……そんなこと……」


 でも、何もできない僕を、好きになる訳ないんだ。


「最後は抱き合ってたろ? 好きじゃなきゃあんなに強く抱きしめないだろ! お前のことが好きだから、心から好きだから抱きしめたんだ! 馬鹿かお前は!」


 突き飛ばされ、ふらつく脚を何とか保つ。でも心の不安は保てなかった。


 そんな事……ないよ……あれは演技で、僕は……僕は……


 思えば思うほど心が締め付けられ心臓がすり潰される。誰にも話さず、毎日溜めていた不安が一気に溢れ出す。


「僕だって……僕だって翠ちゃんが大好きなんだ! 大好きだって思うほど……苦しくなるんだよ! 嫌われるんじゃないかって! 振られるんじゃないかって! 不安で不安で……大好きなのに……怖いんだよ……」


 頬を伝う涙と我慢できない嗚咽が漏れる。怒りに任せていた佐藤君を冷静になって慰めてくれていた。


「あぁ……すまねぇ。お前がそんな気持ちでいたなんて」


「あぁぁぁ……」


「大丈夫だよ、あれだけ頑張ってたんだから。新なら大丈夫だ」


 路上で泣いている僕を慰めてくれて泣き止むのを待ってくれていた。


「うん……」


「でもな、そのままの気持ちでいたら本当に後悔するぞ」


「え?」


 片想いなら好きなままでいられるはず。片思いならずっと嫌われず、嫌な思いしないじゃないか。


「もし明日、お前が死ぬって分かったらどうする? もう二度と柊に会えないとしたらどうする?」


 翠ちゃんに会えない……そんなこと考えたこともなかった。もし会えなくなるなら絶対に告白する……かもしれない。


 でも僕が死ぬって知ったら悲しむかな。もし悲しむなら言わない方が良いっても思う。ずっと笑顔でいてほしいから。


「死なないとしてもよ、柊に彼氏出来たらどう思うんだよ」


 緑ちゃんに彼氏ができることも考えたことなかった。あり得る話なのに。学園一の美しさを備えた女性は誰だって好きになるんだ。


 もし、彼氏が出来たら……辛すぎる。僕は告白すらしてないのに、彼女が誰かに寄り添うなんて。僕じゃない肩に寄り掛かるなんて。死ぬより辛い。


「佐藤君、ありがとう」


 彼の言葉で僕がやるべきことに気づいた。自分自身の事しか考えてなかった事実に気づかせてくれた。


「お! 目が変わったな! 頑張れよ!」


 今日は翠ちゃんと話して僕の気持ちを伝えるんだ。このまま辛い気持ちでいるなら、告白して玉砕したほうがまだいい。


 ◇


 家に帰り、食事を済ませて部屋に入る。手に持ったスマホの開き、登録されている唯一の名前を開く。


 [柊翠]


 心に決めたつもりだけどやっぱり怖い。でも……


 ピピピピピピッ! 


「おわ!」突然の着信に驚かされた。


 画面には僕の電話番号を知っている唯一の人[柊翠]の名前が表示されている。少しの緊張と恐怖感。大きな嬉しさで指が動く。


 ピッ! 


「新君今大丈夫?」


 翠ちゃんから電話が来て駄目なときなんてない。


「うん大丈夫だよ」


「ねぇ! 聞いて! 私、理学療法士になるよ! 両親を説得して受験する大学を変えたの! 前に教えてもらってから色々調べたんだ。調べるたびに私に合った仕事だって!」


 翠ちゃんは本当に嬉しそうに話してくれた。僕が調べた事が本当に翠ちゃんの夢になってかなえられるなら凄く嬉しい。


「本当! 凄い! 嬉しいw一緒に頑張っていこう!」


「これから受験だけど頑張るわ! だから新君も頑張ってね」


 夢を見つけてくれて凄く嬉しい。でも今日は伝えたいことがあったけど、彼女の夢が見つかったなら、今日じゃない方が良い。


「ありがとう……まだ話せる?」


「うん、僕も話したいことがあるんだ。僕から言っていいかな」


「うん、いいよ」


 大学受験は受験日が2月上旬だろう。3月1日に卒業式があって3月上旬に合格発表がある。


「卒業式の日。夕方に会えないかな」


「うん、私も同じこと言おうとしてたw」


 気持ちが通じるってあるんだ。でも今日じゃない。


 彼女は大学の変更で勉強が大変なはずだ。邪魔する訳にはいかない。受験勉強が終わって卒業式まで我慢だ。


「受験勉強頑張って! 僕は全力で応援するよ! 演劇のときみたいに全力で!」


「ありがとうw本当に嬉しい。その言葉があれば絶対合格できる!」


 そう言うと、彼女は満足そうに電話を切った。こんなに嬉しいのはいつぶりだろう。でも全力で支えるって言ったけど何をすればいいのだろう。


 僕に出来る事。受験の邪魔にならず彼女を支えになる事だけを考えて残りの2か月を応援していこう。


 でも応援お願いって何すればいいのか分からないからLINEで聞いてみた。


 “翠ちゃんを応援したいけど、何をしていいかわからないんだ”


 “じゃあ毎日5分だけ話したい”


 毎日話せるのは僕自身は嬉しいけど、いいのだろうか。


 “毎日の電話? 邪魔にならない? ”


 “新君の声が、私に勇気と元気が貰えるから”


 彼女の声は僕にも元気を与えてくれる。これから毎日21時に電話することになった。


 演劇の練習を思い出す。あの時は毎日のように電話して、セリフの練習やシナリオにつてい話し合ってた。これから毎日話が出来ると思うと凄く嬉しくなる。


 ◇


 そして卒業式を迎える。寒い冬が過ぎ、春が訪れる。去年の今頃は学校に行くことすら嫌でたまらなかった。


 卒業式は多分に漏れず卒業ソングのオンパレードで、女子たちは泣き、男子たちは騒ぎ倒して先生に怒られていた。


 社会に出る人もいれば進学する人もいる。僕のように専門学校に進む友達は少なく、進学組が殆どだった。


 12時に卒業式が終わり家路につく。家族でご飯を食べているけど、僕の今日の本番はこれから始まる。


 鼓動が激しくなるけど、空虚な不安はない。1秒でも早く彼女に会いたいけど、きっと家族と一緒にいるはず。


 [柊翠]


 ピッ! 


 ”僕は家に帰ったよ。今日は何時に会える? ”


 ”私は夜まで家族と一緒だから。20時くらかな”


 ”夜で大丈夫? 両親は心配しない? ”


 ”大丈夫よ、新君に会いに行くって言ってあるから”


 ”え、ええ! 逆に大丈夫なの? ”


 ”お父さんは反対してるけど、お母さんは”良い思いで作ってきなさい”って”


 ”そうなんだw、じゃあ20時に公園でいい? ”


 ”うん、わかった。公園ね”


 そして夕方が過ぎ夜が訪れる。


 夏休みに待ち合わせした時に彼女は30分前には着いていた。今回は僕が遅れないように19時には公園に行こう。


 公園は梅が咲き春を迎えていた。桜よりまばらに咲いているけど、綺麗に咲き誇っていた。


 公園に着くと既に彼女はベンチに座っていた。1時間前に来たのにもう座ってる! どれだけ早く来てたんだ。


「あ、相変わらず早いね」と焦りながら隣に座る。


「ごめんね、待ちきれなくて早く来過ぎたw」


 早く家を出て、6時40分に着いてたみたいだ。


 月と星が煌めいている。公園の街灯が二人を照らしていた。


「ねぇ、私の話していいかな」


「うん、聞かせて」


 2年生の時足を怪我して心が荒んでいた。でも両親や友達から”何でもできる女の子”って言われていた。それが本当に嫌だったらしい。自分だって弱いところもあるし泣きたいときもある。でも期待されてたからそれに応えようと必死だった。仮面をかぶって、冷静なふりをして。


「みんなに憧れられてたよね」


「うん、だからこそ、弱いところは見せられなかったの」


 気丈に振る舞うほど、周りの友達は彼女を神格化していった。お父さんは会社の社長。見た目が良いからたくさんの人から言い寄られる。私自身を見た目で判断されていた。それを嫌と言えずただ受け入れていた。


「私は本当にジュリなんだ。自分の考えてる事も話せず、何もできなかった。やりたいこともなくて、私の意志もなかったの」


「でも友達がいるでしょ? いつも周りに集まってたよね」


「うん、でも心を打ち明けて話せる人はいないの。私の心を話せる人は新君だけ」


 僕と一緒だ。僕には心を打ち明ける友達がいなかった。何もできないって自分を蔑んで。だから彼女には話せたのかもしれない。


「楽しそうにゲームの話をしてくれてすごく羨ましかった。新君みたいになりたいって。新君が私に夢を与えてくれたの。私は新君に憧れてたんだ」


「憧れ? 僕に?」


「そう、心の底から憧れて、夢を楽しそうに話してるのが羨ましかった。だから私、新君のこと……」


「ちょっと待って!」と言って彼女の言葉を遮った。彼女の答えを聞く前に言わなければならないことがある。


「え?」


「僕も話していいかな」


「うん……」


 正直言うと始めは彼女の見た目に憧れていた。誰よりも綺麗で、アニメから飛び出したみたいな人だから。初めて2人で話した時は、自分の意見も言えずウジウジして嫌われたって思った。


 でも僕の意見を楽しそうに聴いてくれてた。大抵の女の子は僕を気持ち悪いって言ってるんだよ。それなのに彼女は僕を受け入れてくれる。僕の台本を喜んでくれた。僕を下に見るんじゃなく対等に扱ってくれた唯一の人なんだ。だから全力で彼女を素敵に見せるために頑張ろうって。


「夏休みの練習の時僕に寄りかかったでしょ」


「うん、体だけじゃなく心も寄りかかってた」


 真剣な眼差しを向ける。2人の瞳は潤み頬を紅潮させていた。数か月の間悩み苦しんだ2人が一つになる瞬間が訪れる。


「あの時気付いたんだ。僕は翠ちゃんが好きだって。ずっと憧れてる気持ちだって考えてたけど、僕が支えられるなら、大好きな翠ちゃんを一生支えていきたいって!」


 そう言って彼女の前に跪く。


「翠ちゃん、立って」


「うん♡」


 この言葉を伝える時がもう一度来るとは思ってなかった。彼女と二人で考えたセリフを心から言える。


「僕は翠ちゃんが大好きだ! 僕と付き合って! 一生幸せにするから! 絶対に不幸な思いはさせない!」


「新君! 私も新君が好き! 家もお金も地位もいらない! 私はあなたと一生を添い遂げたい!」


 ロミオではなく新と言ってくれたことの感謝。僕を成長させてくれた嬉しさ。これからも絶対に二人で幸せになりたい。彼女を支えていきたい。


 新は立ち上がり見つめ合う2人。お互いに背に手を回しギュッと抱きしめ合う。お互いに涙を浮かべている。顔と顔が近づき鼻先が触れる。


「翠ちゃん大好きだ」


「新君私も大好き」


 お互いに初めてのキス。ぎこちないけど心のこもった、愛の詰まったキスをする。愛を確かめ合うように何度も唇が触れ合う。お互いに離れない様にと力強く抱きしめ合う。


 4月からは新しい生活が始まる。新は専門学校に。翠は大学に通うことになる。お互いに成長し将来の夢を叶えるために。




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ーー2章予告ーー


憧れから恋になり、苦悩の末に付き合う事となった新と翠。

2人の生活(性活)が始まる。

翠は性に関して全く無知。

新の知識はエロ同人誌のみ。

2人で育む性は何処に向かうのか。


次回は題名は未定ですが、やっとエッチなシーンが出てきます。


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