第18話 平穏

 様々な人々が行き交う街の中、他の人々とは違う雰囲気を纏った二人の人物が静かに歩いていた。



「……ここが奴の生まれ育った世界か」

「そうですね。しかし……あのエルフの少女は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だろう。一応、帽子などで変装はさせたからな。後は思い人に会えるかだが……まあ、想いというのはどんな奇跡でも起こすからな。きっと、会えた事だろう」

「……そうですね」



 男性の言葉に女性がクスリと笑いながら答えていたその時、二人の前方から仲が良さそうに話す二人の男女が歩いてくるのを目にし、男性はその内の一人の姿に少し驚いた様子を見せた。



「奴は……」

「魔王様、いかがいたしま──おや」

「……ん? おお、お前達か! 久し振りだな!」

「……ああ、久し振りだな、勇者よ」



 魔王が小さく笑いながら答えていると、勇者と呼ばれた少年はニッと笑いながら頷いた。



「あの時以来だけど、元気にしてたか?」

「ああ、私も側近もこの通り元気にしている」

「そっか。でも、どうしてこの世界に?」

「なに、この世界に思い人がいるエルフの少女がいて、その少女を連れてきたついでにこの世界を見てみようと思っただけだ。尚、その少女には我々で見つけ出した魔法をしっかりと伝授したから、そこは問題ない」

「へへ、なるほどな。その子、思い人に会えていると良いな」

「そうだな」



 勇者と魔王が笑い合う中、勇者の隣にいた少女は少し緊張した様子で勇者に声をかけた。



「あ、あの……先輩? この方達はお知り合いなんですか?」

「ん……ああ、そういやお前はこの二人とは初めましてだったな。この二人は俺が迷いこんだ世界の住人で、魔王とその側近だよ」

「そうなんですね……初めまして、私はこの人の後輩で恋人です。どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく頼む」

「よろしくお願いしますね」

「は、はい……!」



 後輩が笑みを浮かべながら頷いていると、勇者は何かを思いついた顔をしながら両手をパンと打ち鳴らした。



「そうだ……! なあ、二人さえよければ一緒に街の中を見て回らないか?」

「私達は別に良いが……お前達こそ良いのか?」

「はい。私、先輩のお仲間だった方達からも色々お話は聞いていますが、魔王さんと側近さんからも先輩がどんな風に異世界で活躍をしていたかお話を聞きたいです」

「なるほどな……そういう事なら喜んで話をしよう」

「ふふ、そうですね」

「決まりだな。よし……それじゃあ行こうぜ、みんな!」

「はいっ!」

「うむ」

「はい」



 そして、思い出話などに花を咲かせながら勇者達は笑顔で街の中を進み始めた。





「……うん、やっぱり彼をあの世界に転移させたのは正解だったね」



 そう言いながら次元の狭間で一人の少年が水晶玉に映る勇者や魔王達の姿を楽しそうに眺めていると、その後ろに白いローブ姿の少女が姿を現した。



「ただいま戻りました。神様、また彼らの様子を見ていたのですか?」

「うん、彼らの生活は面白いからね」

「そうですか……ですが、ご自身の職務もキチンとこなしてくださいね? あの世界は彼のおかげで平和になりましたが、他にも平和にしないといけない世界は多いのですから」

「わかってるよ。君こそあの世界での生活はしっかりとやってる?」

「はい。様々な方がいますので、毎日飽きません」

「それはよかった」



 少女の言葉に対して神はにこりと笑っていると、少女は手の中に一冊の本を出現させながら神に声をかけた。



「ところで、次に転移をさせる方の話ですが、私が通っている学校で良さそうな方を見つけましたよ」

「おっ、いいねいいね。そうやってどんどん見つけてくれると助かるよ」

「わかりました。では、その資料をお渡ししますので、後はお任せします」

「はいはーい。それじゃあ君も向こうでの生活頑張ってね」

「はい。それでは、失礼します」



 そう言って少女が姿を消すと、神は受け取った資料に目を通しながらクスリと笑った。



「ほんと、彼女には助けられるなぁ。だからこそその感謝の意味をこめて彼女がもっと幸せになれるようにサポートしないと。それが僕が出来る唯一の恩返しだからね」



 そう言うと、神は転移者の資料を閉じ、水晶玉に映る世界の様子に再び視線を向け、楽しそうな顔をしながら水晶玉に映る世界を眺め始めた。

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