第3話 恋慕

「それでは、失礼します」


 そう言いながらスーツ姿の女性は町役場のドアを静かに静かに閉めると、ふうと息をついた。



「取材も無事終わり。住みたい町ランキングの第一位を長年取り続けている町の町長さんにお話を聞けたのは本当にラッキーだったわ」

『まあ、そのために色々頑張っていましたからね。偉い偉い』

「…………」



 いつの間にか隣に立っていた黒いローブ姿の男性の言葉に対して女性は何も答えずに携帯電話を取り出すと、それを耳に当ててから小さくため息をついた。



「……何度も言うようだけど、私からさっさと離れてくれない? いくら他人にはあなたの姿が見えないからといっても、いい加減鬱陶しいのよ」

『無理です。私はあなたの魂を狙う死神ですから』

「……そうだったわね。でも、あなたの方法じゃいつまで経っても私の魂なんか取れないわよ?」

『そうでしょうか?』

「そうよ。だって、私の事をドキッとさせてそれで心臓麻痺を狙うなんてさすがに無茶だもの」

『それしか私にはやりようがないですから。まあ、他の死神はわざと事故を起こさせたり死にそうな相手を狙って病院を巡ったりしているようですけどね』

「それなら、あなたもそうすれば良いじゃない」

『嫌ですよ。だって──』



 死神は女性の顔に自分の顔を近付けると、その行動に女性が少し驚く中、あどけない笑みを浮かべた。



『私はあなたの事が欲しいんですから』

「なっ……!?」

『……あ、間違えました。あなたの魂が欲しいんですから』

「へ、変な間違い方をしないでよ!」

『すみません。ところで、今の台詞でドキッとしました?』

「し、してない! ほら、さっさと会社に帰らないといけないんだからいくわよ!」

『はいはい。あーあ……早くドキッとして心臓麻痺を起こしてくれないかなぁ……』



 死神が女性の後ろをついて歩く中、女性は自分の頬が熱を持ち始めるのを感じた。



「……アイツ、顔だけは良いから、今のは本当に危なかったわね……」

『……あれ、何か言いました?』

「言ってないわよ」

『……そうですか』

「……何?」

『……いえ、なんでもありません。ほら、早く帰りましょう』

「え、ええ……」



 死神の言葉に女性が答え、そのまま歩いていく中、死神は女性を見ながらポツリと呟いた。


『……僕は本当は死神じゃなく、あなたに一目惚れをした天使で、あなたに振り向いてほしくて色々な言葉を言っているなんてやっぱり言えないなぁ。まあ、今は一緒にいるだけで充分だし、死神のふりをしてもう少しそばにいさせてもらおう』



 黒いローブの天使は幸せそうな笑みを浮かべた後、女性の後に続いて歩いていった。

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