第12話 探索アイテムの補充と午後の予定



 取り敢えず有用なカード1枚をゲット出来て、ウキウキ模様の朔也さくやはそのまま隣室の売店へ。そこには昨日と同じメイドが詰めており、ようこそと出迎えてくれた。

 そして昨日と同じく、今日の戦利品を差し出された受け皿へと並べて行く。魔石(微小)が54個は、昨日の倍とまでは行かないけど結構な戦績だ。


 やはり大蛾の大量殺戮さつりくが効いているみたい、それに加えてジャガーが落とした魔石(小)が1個。それから今日は、大アリの甲殻素材を何とか5枚ほど持ち帰る事に成功した。

 大蛾の毒の鱗粉入り瓶も、7個と割と回収には成功しており。これらを全部売り払って、合計で8万7千円の収入だとの鑑定結果に。


 思わずホクホク顔の朔也は、何を買おうかなと売店に並べられた商品を眺め始める。恐らくこれらも、新当主の盛光もりみつがわざわざ集めて来たのだろう。

 もしくは、祖父の収集品の一部だったりするのだろうか。よく見ればカードも2枚置いてあって、値段が付いているって事は購入も可能みたい。

 ただし、E級の偵察用モンスターでも15万円もするみたい。


【偵察ラット】総合E級(攻撃F・忠誠D)

【黒曜石ゴーレム】総合D級(攻撃D・忠誠D)


 前衛盾用のゴーレムに至っては48万もするみたいで、D級でこの値段とは恐れ入る。頑張ってお金を貯めれば、いずれそのうち買えるかも知れない。

 もしC級のカードが売りに出されたら、一体幾らの値がつくのやら……そしてやっぱり、カードの買い取りは断固として合意して貰えない様子。


 まぁ、朔也も“合成”装置の存在を知ったので、どんなカードも強化が可能と知っている。そう思えば、将来化けるかもしれないカードを売るのは愚の骨頂かも。

 まだ使い方も分かって無いし、その辺は全くの未知数ではあるけど。昨日も探索が終わって、老ノームに色々と装置についての質問をぶつけてみたのだ。


 まずは動力としての魔石が必要だとか、“合成”だけに掛け合わせるカードが必ず複数枚は必要だとか。そんな訳で、昨日の“訓練ダンジョン”の戦利品は大事に取っておいている次第である。

 こちらで“夢幻のラビリンス”の戦利品に、こっそり混ぜて売り払う事も可能だとは思うけど。大事なのは金儲けでなく、総合的な戦力アップである。


 それを念頭に、朔也は探索で消費したアイテムの補充に頭を悩ませる。それから腰に巻くベルトの『ポーションホルダー』は、3万円と少々高いけど買っておきたい。

 他にも全部使ってしまった魔玉も、色んな種類で8個くらいは買い足して。薬品もMP回復ポーションと、それから浄化ポーションも取り敢えず買い揃えておく事に。


 浄化ポーションは、いわゆる聖水みたいな呪い解除に使われる薬品である。悪霊系のモンスターにも、振りかければそれなりにダメージを与えられるそうだ。

 それらを取り敢えず、それぞれ2本ずつ購入しておく事に。


 最後に『魔法の巻き糸』を補充して、これで全部で5万9千円払って今回の買い物は終了。獲得したカードの報告をして、これでこの部屋の手続きは全て終了。

 去り際に、ダンジョン探索に関するマニュアル本みたいなのは無いのかと、それとなく売り子のメイドに訊ねてみたら。入り際に約束した、探索学校用の教本が丁度手元にあると差し出して貰えた。


 しかもただで貰えるそうで、何ともラッキーな展開となってくれた。ついでに朔也の現在のステータスも鑑定して貰えて、案の定のレベルアップを知る事に。

 これで何とかレベル4、取り敢えずは順調な成長具合である。



名前:百々貫朔也  ランク:――

レベル:04   HP 26/28  MP 18/24  SP 19/19


筋力:15   体力:14   器用:20(+1)

敏捷:16   魔力:19   精神:20

幸運:08(+3) 魅力:08(+2)  統率:18(+2)

スキル:《カード化》

武器スキル:――

称号:『能力の系譜』

サポート:【妖精の加護】




「おめでとうございます、朔也様……16名の従兄弟の中でも、朔也様のカード取得数はトップ3に入る勢いですね。レベルアップも順調です、まぁ《カード化》スキルがあれば当然の結果ですけど。

 この調子でいけば、“夢幻のラビリンス”の第2層到達も間近ですね!」

「は、はぁ……でも2層に到達しても、肝心の祖父のカードに遭遇出来る訳じゃ無いんですよね? どの程度潜れば、確率は上がりますかね……」


 朔也のその問いに、メイドも自信なさげに最低5層は潜らないと駄目なのではとの返答。強情なカードだと、下手するともっと奥まで潜っている可能性があるとこぼしている。

 祖父のカードたちは、人慣れしているけど手懐てなずけるには苦労するでしょうとの事で。16名の孫たちの中で、誰が最初にゲットするか古参の使用人たちは楽しみにしているらしい。


 それには執事の毛利も会話に参加して、どんどん実力をつけて行ってくれと猛烈な催促。何より新当主の盛光もりみつ様は、あれでせっかちな性格なのだそうで。

 ひょっとして、従兄弟たちの探索の実力アップのイベントを企画するかもと言われてしまった。従兄弟同士でのカード争奪戦とか、そんな対人戦特訓訓練などをもよおすかもとの事である。


 初老の執事の毛利も、先代の後継者を早くみたいと思っているクチなのかも。改めて対面すると分かるが、彼も相当な実力の持ち主なのが伝わって来る。

 案外、若い頃には祖父とパーティを組んで探索をして回っていたのかも。そう思うと、祖父のカードの跡取りを決めるこのダンジョン探索に、彼らが入れ込むのも分かる気がする。


 新当主の盛光もりみつは、この遺言ゲームをどう思っているのか定かでは無いけど。積極的に手伝いを行っている所を見ると、かなり乗り気な様子である。

 そうして恐らく、次世代の“ワンマンアーミー”を親族の中にキープしておく心積もりなのかも。そんな深読みをするのもアレだけど、大筋では間違ってない推測だと思われる。

 朔也としては、目の前にチャンスが転がって来たなと思う次第。




 今回もお昼の豪華なお弁当箱を食堂で貰って、昨日と同じ洋風の庭の東屋で頂く事に。今日はサンドイッチがメインだけど、中に挟まっている具はかなり豪華である。

 ちょっとテンションが上がっていたら、フルーツサンドの具を妖精に取られてしまった。相変わらず食いしん坊で、油断のならないチビッ子である。


 それでも、1人で孤独に食べるよりはずっと楽しくて良い時間ではあった。ボリュームも申し分なくて、デザートにプリンやカットされた果物も一緒にバスケットに入っている。

 それも結局、妖精にほとんど食べられてしまったのだけど。それは仕方が無い、午前中の探索も彼女は頑張って手伝ってくれたのだ。


 摘まみ喰いする権利は充分にあるし、午後も手伝って貰わないと。この後の予定だけど、昨日発見した“訓練用のダンジョン”へと向かうつもり。

 何しろ、どうせ暇を持て余している身なのだ。この洋館は敷地が広いのは良いけど、町からは少し離れた場所に建っている。町へ遊びに出ようにも、交通手段がないと苦労すると言う立地条件。


 だからと言って、部屋に閉じこもっていても退屈なだけ。それなら探索をしていた方が、経験値も稼げて丁度良い。“夢幻のラビリンス”とは別のダンジョンに行けば、色んなカードを収集出来てお得感もマシマシである。

 その分、親族への秘密は増えるけどそこは問題無いだろう。従兄弟に特別親しい間柄の者はいないし、報告義務も無いと来ている。

 精々が、生前の祖父に感謝の言葉を述べるだけだ。


「本当に、どう言うつもりであんな場所に入り口を隠してたんだろうね、鷹山ようざん爺様は……? まぁ、妖精のカードもあんな具合に本の背表紙に隠されていたんだし。

 そうやって、誰かが見つけるのを期待してたのかもね?」


 朔也の言葉に、グーっと妙な指のサインで肯定して来る相棒の妖精である。つまりは、今後もこっそり有効に活用しても大丈夫って事だろう。

 こんなおチビさんに判断をゆだねるのもどうかと思うが、取り敢えず見付かって怒られるまでは利用する予定。そんな訳で、誰にも見付からないように目的地まで2人でこっそり移動する事数分あまり。


 納屋に入って階段を上って、しばらく追跡者がいないかその場で確認など。それから突き当りのゲートに向かうと、そこは昨日と同じくシートで隠されていた。

 追跡者はいなさそうで、その点はホッと一息で安心の素振りの朔也である。出来れば早いところ、再度の襲撃にっても跳ね返す実力が欲し所。


 そんな事を考えながら、こっそりとカバーの端からゲートへと突入を果たす。2度目ともなれば、このダンジョン突入にそれ程の不安はない。

 とは言えやっぱりダンジョンなので、気は引き締めて行かないと。“夢幻のラビリンス”みたいに、入る度にランダムにエリア排出される可能性もある訳だし。



 そもそもダンジョンってナニ? ってな話なのだが、朔也が生まれた時には普通にどこにでも生えている存在だった。コイツ等は20年位前に、突如として地球上のあちこちに生えて来た異界との通路なのだそう。

 一説では、空間にポコポコ空いた穴だとか、いやある種の生命体だとか言われているのだが。未だにその謎は解けておらず、正体不明のままである。


 とにかく、この無数に生えて来たダンジョンのお陰で、生活環境が大きく変わってしまったのは本当。当初はそれを“大変動”と呼んで、政府や自治体はその対策に追われたそうだ。

 特にダンジョンの“オーバーフロー騒動”は、地上にあふれ出たモンスターが暴れるせいで死傷者も続出する大事故に。それを過去の人類は、何とか武力で乗り切ったそうだ。


 のちに探索者が生まれて、それを支援する協会も発足したりと色々あったりもしたのだが。そのお陰もあって、今では“オーバーフロー”は8割がた防げているそうだ。

 とは言え、探索者が人気の職業かと言われればそうでも無くって。何しろダンジョンへと潜るのは、常に命懸けで事故も多いと来ている。

 幾ら儲かるからと言って、簡単に危険な道に踏み込めないのも道理である。


 朔也や従兄弟たちは、何故かそれに反して無造作にダンジョンへと追いやられてしまっているけど。まぁ、《カード化》スキルの恩恵と与えられたデッキがあれば、変な事故も滅多に起きないだろうと思われる。

 叔父や叔母連中も、金に糸目を付けぬ勢いで子供達をサポートしている様子だし。さっき聞いた噂では、ベテラン探索者を自分の子供に付ける者もいるそうだ。


 つまりはこの館に、部外者を招き入れて“夢幻のラビリンス”へと同行させているらしい。それが果たして、祖父の遺言に沿うのかは不明だけれど。

 無駄に犠牲を出すよりはと、新当主の盛光もりみつも容認しているのだとか。まぁ、朔也に関しては自分のペースで、頑張って探索に勤しむのみ。


 そんな事を考えながら、排出されたエリアを改めて見回すと。昨日と同じ生活感のある研究室みたいな部屋へと出て、まずは一安心である。

 朔也かこんにちはと声を掛けたら、奥から昨日の老ノームがのっそりと顔を出して来た。確かアカシアだったか、その表情に歓迎の雰囲気は無いけれど。

 煙たかられてもいないようで、取り敢えずホッと胸を撫で降ろす。





 ――後はちょっとずつ、仲良くなって行けは良いだけの話。






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