第19話 決着と新スキル

 硬化し、再び突進してくるリーシュ。

 俺は危機管理シックス・センス未来予知エクスペクト・エンチャントを駆使してその攻撃を読んでいた。

 その軌道ギリギリに避け、鋭利付与シャープ・エンチャントを使用した手刀を側面に沿わせる。


 スッとリーシュの表面が斬り裂かれる。

 リーシュは失速し、地面に転がる。

 ブシュと酸混じりの血液が飛び出て地面を溶かした。


「グギャァアアアァアアアアアアアアアアァア!」


 甲高い悲鳴が上がる。

 俺はその声の甲高さに思わず眉を顰めた。


──何で今の避けられるんだよ!

──恐ろしく早い手刀、俺でなきゃ……。

──手刀の切れ味が良すぎる。

──付与スキルの効果って完全ステータス依存だろ?

──↑うん。だから産廃スキルって言われてる。

──ステータスを上げるには付与スキルが強くないといけないのに、付与スキルはステータス依存だからマジ序盤がキツい。

──ステータスの確認方法はないけど、仮面男のステータスってやばいことになってそう。


 楽しそうなコメント欄がチラリと視界の端に映る。

 しかし流石に今はそれらに反応している暇はない。


 鋭利付与シャープ・エンチャントで切り裂けることを確認した俺は、今度は自分の左手に毒属性付与ポイズン・エンチャントを使う。

 同じ部位に二つの付与スキルは使えない。

 だから右手に鋭利付与シャープ・エンチャント、左手に毒属性付与ポイズン・エンチャントの布陣だ。


「グガアアアァアアアアアアアアアアアアアアアァアア!」


 怒りの雄叫びをあげ、リーシュが再び突っ込んでくる。

 どうやら攻撃パターンが極端に減ったみたいだ。

 怒りで我を忘れているからか、はたまた第二形態になったからか。

 おそらく第二形態になったからだろうけど。

 こういった単純な形状の魔物は攻撃パターンが少ないのが基本だからな。


 突っ込んでくるリーシュを俺は冷静に見極める。

 軽いステップで避け、先ほどと同じように球面に沿うように切れ込みを入れる。

 切れ込みが入った瞬間、リーシュが離れていくよりも先に俺は左手をさらに切れ込みに差し込んだ。


「グギャァアアアァアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 先ほどよりも大きな悲鳴が上がる。

 毒が効いたのだろう。

 ここまで確立できればもう安泰だ。

 俺はさらに数回これを繰り返し──。


「ガッ、ギャッ……」


 リーシュは突っ込んでくる直前で毒にやられ、サラサラと消えていき、巨大な魔石と【スキルの書】を残していった。


「おっ! スキルの書じゃん!」


【スキルの書】はその名の通りスキルを入手できる書物で、魔物からのレアドロップで手に入れる。

 第600層のボスから出た【スキルの書】は流石に期待せざるを得ない。


──スキルの書!? 600層のボスで!?

──何が出るんだろう……。逆に怖い……。

──絶対強いだろ。もしかしたら神級を超えるかもな。

──神級超えはまだ現れてないだろ。


 何度も見た通り、コメント欄は大盛り上がりだ。

 楽しそうで何より。


「さて。早速使ってみるか」


──ワクワク。

──ドキドキ。


 俺の言葉にコメント欄の緊張感も高まる。

 そして俺は書物を開き、スキルを開放して──。


【創造級付与スキル:無属性付与アンノウン・エンチャント


 なんだこれ……?

 無属性?

 初めて聞いた属性だ。

 それに創造級ってどういう意味だ?


──何だった?

──表情的に微妙そうだけど。

──イマイチだったか。


 コメント欄に尋ねられ、俺は答える。


「なんか創造級付与スキルって書いてある。それに無属性付与アンノウン・エンチャントだってよ。」


──無属性……? 聞いたことない。

──創造級って神級よりも上なのか?

──確かに神級の上ってよく分からんな。

──ただ今まで創造級ってのが出てきたことはないよな。


 どうやらコメント欄も困惑しているみたいだった。

 俺は少し悩んだ後、言った。


「ちょっと使ってみるか」


──そうだなぁ。それが一番かも。

──使ってみないと分からんか。


 コメント欄も俺の意見に賛成のようだった。

 よし、使うか、使うぞ〜。

 俺は覚悟を決めると、唾を飲み込んでサバイバルナイフを取り出して、スキル名を唱えた。


「【創造級付与スキル:無属性付与アンノウン・エンチャント】」


 ……。

 …………。

 ………………。


 何も起こらんが?

 サバイバルナイフをどの角度に変えて見てみてもいつものナイフだった。

 特に付与が起こった感じはしない。

 でも確かにスキルを使った感覚はしたんだけどなぁ……。


──何も起こらない?

──何のスキルなんだ一体。

──意味分からんな。


 この様子にはコメント欄も困惑を加速させた。

 俺はナイフをしまい、パンッと手を叩くと言った。


「この話はおしまい! さて、今日はもう終わりにしたいんだが……」


 最後に視聴人数を確認しよう。

 そう思って俺はコメント欄のウィンドウを小さくすると──。


「………………は?」


 あり得ない数字が表示されていた。


 何これ?

 え、どんな数字?

 バグか?

 ……いやいや、バグなわけ。

 じゃあマジで?


 確かにボスを倒して盛り上がっていたが。

 コメント欄の流れも速いなと思っていたが。

 ここまでなの……?


──うぇーい、見てるぅ?

──はははっ、お前ももう人気者だな!

──それは最初からだろ。

──驚いてるところ見るの、きもちぃいいいいいぃい!

──驚きすぎだろ。

──確かにこの数字は当然というか。



 ………………終わった。


 俺の脳内に未成年、法律、違反、逮捕、そんな言葉がグルグルと巡っていき、思わずガックシと肩を落としてしまうのだった。



視聴人数──6,916,362人。

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