第14話 配信者への道

──弘明寺晶ぐみょうじあきら視点──


「ぐへへっ、そりゃあ貰ったお金分の働きはちゃんと致しますよ。それがメンタリストとしての商売ですからね」


 薄暗いアパートの一室。

 いかにも怪しげな場所で、弘明寺と一人の男が向かい合って座っていた。


 弘明寺の向かいに座る男は、前髪を目が隠れるくらいまで伸ばし、ガリガリに痩せ細り、時折り見える眼光がギラギラ光っている男だった。

 彼はメンタリストを自称している男で、カナデと名を名乗っていた。


 弘明寺は蓮の実力を知った直後にすぐさまこのメンタリストに連絡し、二千万を渡して蓮を上手く騙して欲しいと依頼した。

 自分にできないことは、他人に金を払ってやってもらう。

 弘明寺にはそういう虎の威を借る狐のような生き方が根付いていたのだ。

 ヤクザにコネを作り、その権威を借りて借金取りをしているのも、その生き方しか知らないからだった。


「当たり前なことを言うな。どれだけお前に金を渡したと思ってる」

「ふへへっ、そうっすよね。まあまあ、そんな蓮とかいう世間知らずのガキ、俺にかかればすぐに弘明寺さんのことを信じ切りますよ」


 胡散臭い笑みを浮かべてカナデは言った。

 弘明寺は一瞬その様子に不信感を覚えたが、もう二千万も払ってしまった後だ。

 今更やめるなんて選択肢はなかった。


「それじゃあ、早速頼んだぞ。期待してる」

「ふへへっ、任せてください、旦那」


 そう言ってカナデは部屋を出ていった。

 部屋を出た後、カナデは鬱陶しい前髪をかき上げてクツクツと笑い出す。


「いやぁ、世間知らずで金持ちの馬鹿を騙すのは楽でいいなァ。こんなんに二千万も払うとかよォ、頭悪すぎ。ま、とりあえず斉藤蓮とかいうガキはいつも通り轢き殺して、なんか死んじゃいましたね、って誤魔化せば大丈夫そうだな」


 カナデはそんな独り言を呟きながら、夜の闇に消えていくのだった。

 自分の未来にも気が付かずに──。



   +++



──斎藤蓮視点──


 結衣と天宮さんの長々しいショッピングがようやく終わり、俺たちは道の脇にある自販機で飲み物を買っていた。

 自分からショッピングを提案したんだけど、ここまで長引くとは思わなかった。

 しかも買い物している間、結衣と天宮さんから「私の方が似合ってるよね?」というなんとも答えづらい問いをされ、心身ともに疲れ果ててしまった。


「んん〜、ありがとうございます、澪さん! こんなに洋服買ってもらっちゃって!」

「大丈夫。逆に結衣ちゃんみたいな美少女がおしゃれしないのは、全人類にとって損」


 それは間違いない。

 結衣は一千年に一度の美少女だからな。

 天宮さんの言うことは全面的に正しい。


 だから、今まで結衣に洋服を買ってあげられなかったのが悔やまれる。

 こうして天宮さんが結衣に洋服を奢ってくれて、結衣の笑顔が見れただけで死ぬほど感謝だな。


 ちなみに結衣と天宮さんは最初は競い合っていたけど、いつの間にか意気投合して仲良くなっていた。

 いいことなんだけど、何故か俺が荷物持ちになっていて、蚊帳の外感が半端なくて寂しかったのは秘密だ。

 二人の仲を邪魔したいわけじゃないし。


「って、お兄ちゃん! そろそろ行くよ! せっかく澪さんが外食まで予約してくれたんだから!」

「ああ、そうだな。……って、荷物多すぎるよな」


 俺は飲み物を飲むために地面に置いていた紙袋の数々を眺める。

 両手で抱えてギリギリってレベルだ。

 でもこれも男の宿命。

 結衣が楽しそうだし、別にこれくらいならいくらでも問題ないさ。


 俺はそんなことを考えながら、紙袋を抱えて、そして──。



 ギュイィイイイイイイイイィイイン!!



 こちらに向かって全速力でトラックが突っ込んでくるのが見えた。

 時速百キロは余裕で超えているだろう。

 今いる道も細く、逃げられる場所なんてほとんどない。


 ──マズい。


 そう思ったが、両手も紙袋で塞がっている。

 天宮さんと結衣の方を見ると、二人とも突然のことで固まってしまっているみたいだった。

 この中で一番潜っている階層が深く、身体能力が高い俺が対処しなければならない。


 ……天宮さん、ごめん。


 俺は心の中で謝ると、真っ先に結衣に体当たりをかまして吹き飛ばした。

 トラックの進路から離れる結衣。

 流石に天宮さんまで助ける時間はなかった。


 トラックはそのまま俺たちの方に突っ込んでくると思いきや──。


 キキィイイイイイイィイッ!!


 目の前でタイヤがスリップし、進路が僅かに逸れる。

 その先には結衣が居た。


 ブワッッ!!!


 思考が加速する。

 脳のリミッターが解除される。

 視界が赤く染まり、俺は思い切り地面を蹴り上げていた。


 がむしゃらにトラックを殴り飛ばす。

 ドゴンッという派手な音とともに、トラックはマンションの壁に叩きつけられ爆破した。


「結衣ッッ!!!!」


 俺は叫び、モウモウと燃え盛る黒鉛をかき分けて結衣の方に駆け寄った。


「お兄ちゃん、やりすぎ」


 そこには呆れた表情の結衣がいた。


「で、でも……」

「私を心配してくれたのは嬉しいけど、これじゃあ簡単にお兄ちゃんの正体がバレちゃうよ」

「そうだけどッ! そんなことで結衣に死なれたら……ッ!」


 自分で言って、思わず震える。

 そんな俺を結衣はヨロヨロと立ち上がって抱きしめてくれた。


「私はお兄ちゃんが私のせいでいなくなる方が耐えられないよ」

「結衣……」


 俺が結衣のセリフに言葉を詰まらせていると、結衣がフラリとよろめいた。


「……ちょっと足の骨が折れちゃったみたい」


 どうやら俺が体当たりした衝撃で足の骨が折れたらしい。


「ごめん、俺のせいか……」

「ううん、お兄ちゃんのおかげで骨折で済んだんだよ」


 俺が謝ると、結衣はそう言ってニコリと微笑むのだった。



   +++



 結局その後、トラックを破壊したのは天宮さんがやったことにしてもらい、結衣は骨折の治療のために大きな病院に入院し、俺は突然医療費を払わなきゃいけなくなった。

 天宮さんはお金を貸してくれると言ってくれたが、俺たちは国民保険すら払えていない。

 流石に入院含めた医療費全額を天宮さんに負担させるわけにはいかないので、俺は急遽まとまったお金を稼がなくてはならなくなり──。


「仮面君。配信だよ配信」

「配信?」

「うん、仮面男として配信すれば、間違いなくバズるしお金になるよ」


 天宮さんにそう提案され、結局それ以外に手っ取り早く大金を稼ぐ方法なんて思いつかず、俺はバレるリスクを承知で仮面男として配信をすることになるのだった。









——————————

【作者からのお願い!】


これにて、第一章完です!

続きまして『第二章:配信活動、開始!』もお楽しみください!


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