第3話 バズりと翻弄される者

「あのー、手伝いましょうか?」


 苦戦してるっぽい美少女(少女って歳でもないか)たちに俺は話しかける。

 彼女たちは何度か【フェニックス】を殺せてはいるのだが、こいつは不死鳥という名を冠するゆえに、なかなか死なない。

 ただ殺すだけでは駄目で、消滅させなきゃいけないんだよな。

 他に殺し方はあるのかもしれないが、俺はいつも存在ごと消滅させて倒していた。

 それでもドロップは落ちるのだからダンジョンって便利だよな。


「頼む! 手伝ってくれ!」


【フェニックス】が絶え間なく放ってくる【重力魔法スキル】を必死に避けながらリーダーらしき人が叫んだ。

 さっきからみんなに指示してるから、この女性がリーダーで間違いないだろう。

 黒髪をキレイに整えられたボブにしている、まるでOLだと言われても信じてしまいそうなくらい仕事できそうな女性だ。


「おっけー。それじゃあ――【神級付与スキル:消滅付与レデンプション・エンチャント】」


 付与スキルを使用する。

 瞬間、剣身が光すらも消滅させ始め、まるでブラックホールのような真っ黒さを湛える。


「し、神級……ッ!?」

「は、初めて見た……」


 俺の言葉を聞いた彼女らが一様に目を見開きこちらを見てくる。

 久しぶりの他人からの視線に一瞬狼狽える。

 名前すら知らない他人からの視線が気になりすぎて、何で驚いているのかまで頭が回らなかった。

 しかも美人だ。

 緊張も一入と言えよう。


 緊張を誤魔化すように、俺は【フェニックス】に向かって飛び出す。

 ダンッ、と地面が抉れ、景色が、音が、置き去りになる。

 一瞬で目の前まで迫った俺は、力すら入れず、気楽に、まるで傘についた水滴を払うかのように、サバイバルナイフを振るった。


 ――スッ。


 バターのように【フェニックス】が真っ二つになる。

 俺はナイフを薙いだ後の状態で、ピタリと制止する。

 ほんの一瞬、時間が止まった。

 瞬間、【フェニックス】の切り裂かれた断面から広がっていくように粒子となって消えていった。


「ふう……こんなもんかな」


 一息ついて、呟く。

 直後、【フェニックス】のドロップ品が出現する。


「……おおっ! レアドロップだ!」


 見てみると、レアドロップ【不死鳥の尾羽】が落ちているのが確認できた。

 凄く欲しい……!

 何がなんでも欲しい……!

 俺はバッと勢いよく振り返って、何故か固まっている美女たちに声をかけた。


「あっ、あの……! おこがましいお願いかもしれませんが、このレアドロップは譲ってくれませんか……!?」

「えっ……? いや、それは……その、貴方のものでは……?」

「もしかして、もらっていいってことですか!? やった、これで一か月は三食も食べられる!」

「そりゃもちろん……倒したの私たちじゃないし……」


 不思議な言い方だったが、何れにせよ譲ってくれるっぽいので、思わず喜びはしゃいでしまった。

 早速ヤクザたちに換金して、借金取りに今月分を返して、結衣に自慢しなきゃ!

 こんなところでグダグダしてる場合じゃない!


「それじゃあ、魔石はあげますから! 気を付けて帰ってくださいね~!」


 俺はそれだけ言い残すと、大急ぎでダンジョンを出るのだった。



   +++



――弘明寺晶ぐみょうじあきら視点――


 先ほど今月分の借金を返しに来た斉藤蓮さいとうれんの映っている配信の切り抜きを見て、俺の手はガタガタと震えていた。


「なんだ、なんなんだよ、これは……」


 日本トップの探索者パーティー【アルカイア】の配信の切り抜きだ。

 三時間前に出たばかりなのに、すでに一千万再生も回っている。

 おそらく明日には一億は超えていることだろう。

 その動画のタイトルは『不気味な仮面を被った男がアルカイアをピンチから救った! いったい何者!?』といった感じだ。

 動画を見てみると、あの【アルカイア】でさえ負けそうになっていた鳥型の魔物を一瞬で葬った仮面の男。

 その仮面には嫌というほど見覚えがあった。


 その仮面は俺が斉藤蓮に借金を返させるためにあげた適当な仮面だ。

 未成年だって万が一でもバレないようにその仮面をあげた。

 今、動画に映っている仮面と、斉藤蓮にあげた仮面は完全に一致する。

 つまり、この動画に映っている圧倒的な力を持った男が、散々こき使っている斉藤蓮だということになる。


「こっ、殺されるかもしれない……」


 恐怖で声が上擦る。

 どうやら今は斉藤蓮は自分の実力を把握しきれていないみたいだ。

 だが自分の実力に気が付き、数千万はくだらないような魔石の数々を数千円で買いたたかれていたことを知ったら……。

 どう考えても『死』がチラつく。

 しかも未成年をダンジョンに連れ込んだという大犯罪も犯している。

 国やらの法的組織は頼れない。


「い、生き残るには、斉藤蓮を騙し続け、仮面の男が未成年だとバレないように世間も騙し続けなければならないのか……」


 気の遠くなるような綱渡りだ。

 しかしこれができなければ待っているのは確実な死。

 俺は何とか気を保つと、決意をする。


「絶対に生き残ってやる……。どんな手を使ってでも……」


 ギリッと葉を噛み締め、椅子から立ち上がると、俺は早速行動に移すのだった。

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