木蔭はどこかぼんやりとしている。(心ここにあらずといった感じだった)なんだか思った以上につかれてしまった。どうやらこの変な力はとてもたくさんの体力を消耗するようだった。(なんだかすごくお腹もへってきた)

「ありがとう」

 消えてしまった子猫のかわりのように、飾がいった。

 今、木蔭は飾のふとももの上にその頭をのっけていた。(ひざまくらをしてもらっているのだ)

「きっとさ、みんな孤独なんだよ。生きているものはすべてね」

「孤独? ひとりぼっちってこと?」

「そうだよ。ひとりぼっち。それはどこか宇宙で光っている綺麗な星ににているね」

「星に似ている」

 木蔭は空を見る。でも、そこには神社の古びた屋根しか見えなかった。

「宇宙に光る星のように。ぼくたちの距離が離れている。近くに見えても本当はとっても遠い場所にいる。届かない場所にいる」

「私は飾にふれることがちゃんとできるよ。ほら」証拠を見せるようにして木蔭は飾の手を触った。そこにはたしかに飾の手の感触があった。

「肉体にさわることはできる。でも心はそうじゃない。とっても遠いところにある」

飾はそういいながらも、しっかりと木蔭の手をちゃんと握り返してくれる。(うれしかった)

「星と星の距離くらい離れている」

「そうだね。それくらいは離れている。地球と月くらい離れてる。あるいはもっとかもしれない」

「なんだかとてもかなしいね」木蔭の中にはまだあの子の悲しみが残っているのかもしれない。なんだか木蔭はまた(あれだけ泣いたのに)少しだけ泣きそうになってしまった。

「でもね。ひとりっぼちなだけじゃないんだよ。ちゃんとこのお話には悲しいだけじゃなくてうれしい話もちゃんとある」

「それはなに?」ぱっと大きく目を開いて木蔭はいう。

 飾が木蔭に教えてくれたのは「星はいつも光ってる。それはね、誰かに見つけてもらいたいと思っているからなんだよ。離れていても、誰かに見つけてもらいたいと願ってる。ひとりぼっちはいやなんだよ。ひとりぼっちだけど、本当はひとりじゃいたくない。誰かと一緒にいたいって思ってる。ぼくはそれは希望だと思うんだ。とてもいいことだと思うんだよ」とにっこりと笑って飾は言った。

 その日のお別れのとき、いつものように小雨の中で神社の赤い鳥居のところで、飾とばいばいをするときに、飾は「木蔭。ぼくを見つけてくれて本当にどうもありがとう。木蔭にあえて本当によかった。木蔭と友達になれてさ。ほんとうにうれしかったよ」と飾はぎゅっと木蔭の手をにぎりながらそんなことを言った。

 木蔭はきゅうにそんなことを(あらたまって)言ってどうしたんだろう? と思った。でも飾にそんなことを言われてうれしかったので「当たり前でしょ? だって私と飾は友達だもん」と笑顔で木蔭はそう言った。

 すると飾は本当にうれしそうな顔をして「……うん。そうだね。ぼくたちはともだちだもんね」と木蔭に言った。

 小雨が降っていたから、そのまま木蔭は少し駆け足で飾の前から立ち去って、家に向かって急いで帰った。(傘をもっていなかったし、雨がまた本格的に降ってくるかもしれなかったから)

 でも、そのことを木蔭はすぐに後悔をした。もっとしっかりとあの日の飾のことを見ておけばよかったと思った。(でも、しょうがないじゃない。またすぐに会えると思ったんだから)

 飾は木蔭の姿が見えなくなるまで木蔭に手を振ってくれていた。でも、そのことをすぐに前を向いてしまった木蔭は知らかなった。(見てあげることができなかった)

 次の日、いつものように神社に行くとそこに飾はいなかった。

 ……珍しく留守にしているのかな? と思って木蔭はその日、少しの間神社で時間をつぶしてから家に帰った。

 でも、次の日も、また次の日も、神社に飾はいなかった。

 誰もいない神社の古い階段のところに座って真っ赤な夕焼けをみながら木蔭は飾の言葉を思い出していた。

 星は誰かにみつけてもらいたいと思ってる。そんなことを飾は言っていた。

 見つけてあげるだけでいいの? 頭の中で木蔭は言う。

 そうだよ。見つけてあげればいい。自分を見つけてくれた人がいる。自分を見てくれる人がいるってだけで、きっとさ、じゅうぶん幸せなことなんだよ。ぼくはそう思うな。と頭の中の飾が言った。

 だから木蔭は消えてしまった飾を絶対に(もう一度)見つけようと、そう泣きながら心に誓った。

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