「幽霊のぼくは怖くないのに、人間の友達は怖いんだね、木蔭はさ。やっぱり変」

 ふふっと笑って飾はそう言った。(飾は足をぶらぶらと揺らしている)

「怖くはないよ。……ただ、ちょっとだけ苦手なんだ」

「苦手?」顔を向けて飾は言う。

「うん。生きている人間が」と木蔭は(ぼんやりとした顔をして)言って青色の空の見上げた。

 真っ青な春の空。(風の強い日)飾は木蔭と同じように空を見る。二人一緒に神社の古い木の階段のところから澄んだ空を見上げている。

「……やっぱり変だよ」

 飾はつまらなそうな顔をして木蔭にそう言った。

 木蔭は不思議と幽霊の飾ととても気があった。(生きている飾と出会ったとしても絶対に友達になれたと思う)

 飾はもう死んでしまって(東雲飾が亡くなったのは八月十五日だった)幽霊になってしまったので、どんなに時間がたっても、お誕生日(東雲飾のお誕生日は七月七日だった)がきても年齢をとることはないのだけど、今のところ、二人の年齢は同じ小学校六年生の十二歳だった。

「なに? ぼくの言っていること疑ってるの?」猫のような鋭い目つきをして飾は言う。

 飾が勢いよく小さな顔を動かすと、その後ろ髪のポニーテールが、まるで猫の尻尾のように空中で揺れ動いた。(そのゆらゆらした髪の動きが木蔭は大好きだった)

「あのね。今はこんなになっちゃったけどね。これでも、ぼくも『悪い幽霊退治』をしたことぐらいあるんだよ」

 そう言って飾はくるりと木蔭の前で一回転をしてから、木蔭にふふん、と言って(ない)胸を張った。(飾の長い翡翠色のスカートがふわっと木蔭の目の前でゆっくりと開いた傘みたいに回転した)

「本当にあるの?」

「あるよ」

 自信満々で飾はいう。

「でもさ、本当にやるの? 悪い幽霊退治なんてさ」

「だってせっかく幽霊を見たり聞いたり触ったり、おしゃべりできたりするんだから、それは私のやるべきことだと思うんだ。きっと。宿題とかじゃなくてね」と(じっさいに飾をつかって、見たり、聞いたり、触ったり、おしゃべりしたり、というまねをしながら)木蔭は言う。

 まあ、宿題はちゃんとやったほうがいいと思うけどね。と思いながら「なるほどね。まあ、わからなくもないかな」と飾は言う。

「でしょ? でしょ?」(子犬のように見えない尻尾をふりながら)木蔭は言う。

 さて、どうしよう? このままほおっておいたらきっと木蔭は一人でも悪い幽霊退治に挑戦すると思う。だから、しょうがないな、と思いながら飾は木蔭の悪い幽霊退治のお手伝いをすることにした。

「だから、まあ悪い幽霊退治のことならぼくに任せておいてよ。まずは、そうだな……。悪い幽霊ってそもそもどんな幽霊のことをいうのか、わかる?」

「悪いんだから、よくないことをする幽霊のこと」木蔭は言う。

「たとえばどんなこと?」

 どんなこと、と飾に言われて木蔭は考える。

「うーん。いたずらしたり、邪魔をしたり、悪口をいったり、……あとはものを隠したり、怪我をさせたりとかかな?」

「なるほど。そういうことをする幽霊は確かに悪いか悪くないかで言えば、悪い幽霊になると思う。でもね、霰。本当の悪い幽霊っていうのはそういう幽霊のことじゃないんだよ」と飾は言う。

「じゃあ、どんな幽霊が悪い幽霊なの?」

「……人を呪い殺す幽霊」

 と木蔭を怖がらせるようにして、怖い顔をして飾は言った。(季節外れの冷たい風が吹いて、木蔭はその小さな体を一度、ぶるっと震わせた)

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