第1章 錬金術師専門学校へようこそ

第9話 いざ錬金術師の世界へ!

 一週間暇になった俺は虹の筆でささっと写本を終え、図書館に籠って色々と調べ物をしていた。

 調べていたのは錬金術で生み出せるモノ……もちろん、図書館の資料にある錬金術と実際の錬金術は違うということを念頭において調べてみた。

 “賢者の石”、“ホムンクルス”、“エーテル”、“キメラ”……どれもこれも夢のような存在だ。

 次に錬金術師の国アルケーについて調べてみた。

 結論から言うと、この世界にある大陸、そのどこにもアルケーは存在しなかった。4つの違う著者による世界地図を見た結果だからほとんど間違いあるまい。アルケーという国は一般的に存在しないということになっている。その名がつく村も町もなかった。


 しかしアルケーという言葉は存在した。


 アルケーとは、『原初』・『根源』・『原理』・『根拠』という意味があるそうだ。『万物の始源』、それがアルケーだそうだ。だから何? って話だがな。


 そんなこんなを調べている内にあっという間に一週間が過ぎたのだった。



 ---



 深夜と早朝の境目の時間、玄関扉がノックされる音で俺は目覚めた。その落ち着きのないノックの音から、誰が来たかはすぐにわかった。


「グッドモーニング」


 玄関扉を開けた俺に待ち受けていたのは、二色髪女子の嘘くさい笑顔だった。


「再会できて嬉しいよイロハ君」

「社交辞令はいいから本題に入ってくれ」

「おやおや、本心からの言葉だったんだけどね。まぁいい。時間に余裕はないから、無駄話は割愛しようか」


 ヴィヴィは小さなポーチからポーチの何倍も大きな服を出して、俺に差し出してくる。


「なんだコレ?」

「制服だよ」

「制服? なんの?」

「学校の制服だよ。おめでとう。君は錬金術師養成学校である“ランティス錬金学校”への入学を認められた」


 ヴィヴィはパチパチと拍手を送ってくる。

 学校? は? 何の話だ? 俺はアルケーに入国させてくれとしか頼んでないはずだが?


「色々と説明が足りないと思います」

「偉い人に君の入国をお願いしたら、交換条件として君のランティス錬金学校への入学を提示されたんだ。それで二つ返事でOKしたってわけ」

「お前が決めることか? それ」


 別にいいけど。つーか好都合だけど。

 錬金術を学ぶなら学校が一番だろうしな。


「しかし入国の条件が入学って、変な話だな」

「そうかな? 道理には合ってると思うけど。アルケーの法律もなにも知らない人間を放置するより、学校に入れてしまって法や常識を叩き込む方が効率的だろう」

「言われてみりゃ確かにな。ま、俺にとって悪い話じゃない。喜んで入学するぜ。もしかしてお前も同じ学校なのか?」

「その通りだ。良かったね、こんな美少女が同級生に居るのだから君の学園生活はバラ色確定だ」

「バラの色は好きじゃないな~。あざとくて」

「相変わらず偏屈な男だね。嫌いじゃないけどさ」


 制服を改めて見る。

 ヴィヴィの着ている制服に似た物だが、メインの色が白じゃなくて黒だ。


「今すぐ着替えてくれ。表で待ってる」

「え? 今?」

「入学式は今日だ。まさか1人だけ私服で式典に出るつもり?」

「待て待て! アルケーってのはアメリカとそんな近いところにあるのか!?」


 今日入学式を行うということは、今日中にアルケーへ行くということ。入学式なんて基本、朝から昼にかけての時間だ。つまりスタートは朝。

 数時間で行ける距離にアルケーがないと入学式に出ることはできないだろう。


「アルケーはアメリカ大陸にはないよ」

「じゃあすぐにアルケーに行くのは無理だろ!」

「我々は錬金術師だ。別大陸なんて一瞬で行ける」


 ヴィヴィは俺のおでこに人差し指を突きつける。


「いいかいイロハ君、錬金術に不可能はないんだよ」


 そうでございますか。


「錬金術師相手に俺の一般人たる常識をぶつけても無駄だな」

「わかれば宜しい」


 ヴィヴィは指を回しながら自分のポケットに右手を戻す。


「着替えてきまーす」

「手早くね」


 リビングで白のYシャツ、黒の長ズボン、フード付きの黒を基調とした制服を着る。

 鏡で自分の姿を見る。ふむ、まぁまぁ似合ってる気はする。

 その後、トランクに着替えとか爺さんの手記とその写しとか日用品を詰め込む。

 虹の筆が入った筒とトランクを持って俺はヴィヴィの待つ外に出た。


「準備はいいかな? 暫くここへは戻ってこれない。もしも別れを伝えたい人がいるなら――」

「問題ない」


 俺は即答する。

 ここらで俺が知り合いと呼べるのはカフェのオーナーぐらいだが、別れの挨拶を言うぐらいの仲でもない。


「……そうかい。それじゃ出発するよ」


 いよいよ錬金術師の国へ行くのか。ワクワクが胸の内で踊る。

 文化もなにもかも違うんだろうな……。


「それでアルケーには何に乗って行くんだ? 船? 汽車?」

「見てのお楽しみだ♪」


 ヴィヴィに連れてこられたのは大通りから外れた裏通り。

 薄暗く、廃れた看板の店が並ぶ路地の奥にヴィヴィは足を運んだ。正面に見えるは“ネオマグヌス駅”と書かれた看板を掲げた店。一切窓のない店だ。外から中の様子は伺えない。


closedクローズドって書いてあるぞ」


 店の扉にはclosed、つまり閉店中を意味する看板が掛かっている。


「大丈夫」


 ヴィヴィは店の扉を一定のリズムで10回ほどノックした。すると扉の看板がひとりでに回転し、看板の文字がopenになった。同時にガチャとカギが回る音が鳴った。


「行くよ。ちゃんとついてきてね」


 真剣な目つきでヴィヴィは言う。

 ヴィヴィが扉を開く。すぐ正面には下に続く階段。

 俺とヴィヴィが中に入ると扉が閉まり、カギも閉まった。そして看板の回る音も鳴った。


 階段を下っていく……。


 暫く階段を下っていくと、段々と階段の先に光が見えてきた。

 そしてようやく階段を下りきる。

 そこは奇妙な空間だった。


 まず中央に巨大な窯がある。爺さんのアトリエにあった窯の20倍の大きさはあるだろう、見上げるほど大きい。その窯を囲うように5人ほどの同じ服を着た人間が座り込んでいる。座っている人たちの側の地面にはマナドラフトが見える。


 部屋の灯りとしてロウソクが多数設置してあるのだが、どれもなぜか白色の炎を出していた。

 電車や汽車は影もない。

 目の前にはピエロのような化粧を施した陽気な男だ。

 男は両腕を広げる。


「ようこそネオマグヌス駅へ! ステキな旅があなたを待っていることでしょう!!」


 声高に言う。

 ぶわっ、と急に鳥肌が立った。目の前の男、妙な窯、この空間の雰囲気がまるで別世界で、小説の世界に飛び込んだような感覚が全身を包んだ。




――――――――――

【あとがき】

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『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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