第2話 “虹の筆”①

 錬金術とは、様々な植物・鉱物・生物を対象として、それらをより高位な物へと錬成する術のことを言う。錬金術師は、この錬金術を使う職業である。

 錬成というのは本来、金属を鍛えるという意味だが、錬金術師の間では錬金術を行使することを錬成と呼んでいる。

 何年か前、本で得た知識だ。

 錬金術師は知っている。俺は基本、絵の題材に空想の存在を使っていた。空想の職業代表の錬金術師も描いたことがあったし、その過程で調べもした。そういえば、最初に錬金術師を題材にしたのは爺さんのアドバイスからだったか。

 錬金術は魔術に並ぶファンタジー小説の王道要素だ。

 ガッカリだぜ爺さん、隠れてこんなオカルトに手を染めていたなんて……。


「……」


 一応、最後まで読んでみるか。

 爺さんの手記、その1ページ目を見る。


「なんだコレ」


 白いページに白い字が書いてある。

 多分、色鉛筆かな。ノートの白と色鉛筆の白は違うから読むことはできる。けど、普通の人……色彩能力者以外の人には白紙のページにしか見えないだろう。


『MENU1“虹の筆” 錬成方法』


 最初のページにはそのタイトルと共に、虹の筆とやらの素材がズラーッと並んでいた。

 さらにページをめくると、MENU2、MENU3と聞いたことのない道具のレシピが続いていた。合計で7つある。

 MENU2~MENU4の素材はまったく知らない物ばかり。MENU5~MENU7は知らない言語で書かれていて読めない。MENU1の虹の筆に限り、英語で書かれていて素材もほとんど市販品で構成されていた。


『虹の筆は使用者の“マナ”を消費し、好きな色を出すことができる筆である』


 と説明文には書いてある。

 マナってなんだろう? と思ったら、下に注釈が書いてあった。


『マナとは全ての物体に宿るエネルギー体であり、これを消費することで錬成をおこなったり、錬成物の性能を引き出すことができる』


 錬成に必要な力、それがマナか。

 次に素材の部分に視線を落とす。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆

・杉の木 3㎏

・蒸留水1L

・みかんの皮・リンゴの皮・ブドウの皮・レモンの皮・ライムの皮・すり潰したブルーベリー・すり潰した紫キャベツ それぞれ3g

・毛糸玉(ウール100%・白) 160g

・緑の魔素水 20mL

・“虹の枝” 1本

◆◇◆◇◆◇◆◇


 緑の魔素水と虹の枝、これだけ謎だな。


「ん? 待てよ……虹の枝って、もしかして」


 部屋の奥、ガラスケースに入った虹色の枝を見る。


「アレか?」


 それに緑の魔素水……。

 大量の試験管の掛かった試験管立てを見る。中には緑の液体が入った試験管もある。試験官にはラベルが張っており、『魔素水』と書いてある。

 試験管一本に入っている水量は多分、ちょうど20mlぐらい。


「……おいおい」


 待て待て、なにを考えているイロハ=シロガネ?

 こんなオカルトに手を出したら終わりだぞ。


……そんな心の声とは裏腹に、俺の手は財布に伸びていた。


 財布の中は空っぽだ。

 金さえあれば市場で材料は全て集められる。だがその金がない……いや、手っ取り早く金を作る方法はある。

 コンクールに出展した天馬の嘆きを売ればいい。

 外には井戸があるから、そこから水は汲めばいいし、

 ここらの木は全て杉の木だ。木の採取には困らない。まだ外には杉の木をバラして作ったであろう薪が残っていた。


――錬金術。


 一度だけ、この戯言に付き合ってみようか。暇だし。それに…………いや、今はまだ変な希望を持つべきじゃない。


 本だけ持って外に出る。

 小屋から出ると灯りが消え、扉が閉まるとガチャン! とカギが閉まった。凄い、部屋から人がいなくなると自動で鍵がかかるのか。

 俺はその足で美術館に寄り、 天馬の嘆きを貰おうと思ったのだが、


「イロハ君、この絵なんだけど1000ドルで買いたいってお客さんが居たんだ」


 美術館のオーナーは天馬の嘆きを指さして言う。


「ホントですか?」

「ああ。どうする? 君さえよければ売るけど」


 もちろん売った。

 家に戻り、錬金術の本を机に置く。

 明日から早速、虹の筆の製作に入ろう。


……柄にもなく、ワクワクしている自分が居るな。


 二十世紀も真ん中を過ぎ、世の人々が“ローマの休日”の影響でラブロマンスに憧れる最中、俺は錬金術というファンタジーに心を躍らせていた。





――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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