モラトリアム人間は明晰夢の中で自由に生きてみます。

@ippotemae

明晰夢だからといって全て思い通りになるとは限らない。

ここにくると血が騒ぐ。静かで綺麗でまるで別世界に来たかのよう。

誰かの人生をかぶりつきで見ることができる。

劇場になんて数回しかきたことがないのにそんなことを思える。


月明かりが帰りの駅に向かう通りと僕の足元を照らしている。

今日見たのは「人生の小さな幸せを見つけよう」みたいな内容だった。

非常に感化されやすい性格を僕はしているものだ。

さらに今がモラトリアムであることも手伝って「なんかあるかも」と楽観的な気持ちでいつもは通らない暗い路地に踏み込んだ。

急に目の前が真っ暗になった。一寸先どころか後ろまで真っ暗。

「あ、聞こえるか?。」

何度瞬きをしても真っ暗だ。目隠しでもされているのか。

「聞こえるなら返事をしろ。」

全く聞き覚えのない声だ。

目のあたりをこするが何もない。というか今棒立ちか?

「はあ、失敗か。発言まで縛ったら駄目なのに。」

話さなかったのではない、話せなかったのだ。結構、おしゃべりだな。

ズボンのポケットに何かを強引に突っ込まれる。

そのまま二分くらい経過した後、視界が戻った。

「何処だここ。」

太陽が上っている。こんな服を着ていなかった。

このレンガ造りの建物を知らない。この道の舗装も知らない。

この路地は日本に多分ない。

これが夢か知らない土地に連れてこられたかのどちらかである。

電話を掛けても繋がらない。時刻表示がバグっている。


「うん。これ現実じゃない。」

まず、頬をつねったら全く痛くない。

次に、知らない服を着ているのにスマホだけ都合よく出てきたのはおかしい。

最後に、一時間で夜の街並みから知らない昼の町に連れてくるのは不可能。

この時点で現実ではない。

あり得るなら夢だがこんなに冷静に思考出来た試しがない。

ジョークでいうなら転生というやつだがオーバードーズでトリップしない限りこんなハッピーなところに来れない。

明晰夢だ。起きたら「こんな夢を見た。」から小説を書いてみよう。

後九回体験したら本にして売れそうだ。

明晰夢では状況を自分の思う通りに変化させられるらしい。

よいならば夢と知れどもさめはせず

歌詠みて罪に許されぬこと。上手とは言えない。

俳句は上手くならない。そういうことではないのか。

ポケットに手を入れる。紙が入っている。

「果たし状 アイン様 いつもの 場所 私の 誕生日 バン」

何も分からない。文節に分けてみても分からない。

中学生のときもっと勉強しておけばよかった。単語に分けても無理だろう。

道に迷ったときに交番を頼るというのはベタだが交番の場所が分からないときはどこに行けばいいのだろうか。

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