第6話 怒り

 昼食後。興奮収まりきらないという雰囲気を放つ赤史が。


「ちょっくら転校生の偵察行ってくるわ!」


 と言って、放課後まで帰って来なかった。

 自分の鞄を置いて。


 なんて不用心な奴なんだろう。というかナチュラルにサボったな、、、。


 あいつには親衛隊がついている。が、その隊の過半数は赤史と同士という奴で、腐男子だ。


 だがモテている(男に)ことに変わりは無い為、不用意に私物をそこら辺に置いておけばたちまちその物は姿を消し、持ち主の下へ帰ってくることは無い。戻ってくる事があれば奇跡だろう。


 そのため教室に置きっぱにすれば教科書ごと持って行かれる。追い剥ぎより酷い。いやこれは言い過ぎか。


 これは困った。困り果ててため息を吐くと、細かい雪の結晶が舞った。それを手で振り払い考える。


 今日は生徒会の仕事が珍しく無いため、自由に動ける。本来なら早く寮部屋に戻り、勉強するところだが、やる気は何時も殆ど無いのでコレを理由にサボろうと自然と答えに行き着く。ついでに直ぐに決まったことで特に困り果ててはいなかったなと思った。


 善は急げと赤史の鞄を持ち、廊下へと出る。


 暫く教室に居て戻ってこないことを確認したからか、教室にはオレ以外の姿は無かった。ドアの鍵は見回りをする風紀委員がするため少しの手間を考えれば扉は開けっ放しの方がいい。


 廊下には、部活着を身に纏う生徒達や委員会の仕事を全うする生徒達で一杯だった。その中に見慣れた赤色が無いか探しつつ、寮へと向かう。


 取り敢えず下駄箱に行くと、まだ靴は残っているので校舎に居ることは分かった。


 元々寮へ行って寮長に鞄を預けようかとも思ったが、あまり関わったことが無いので渡すのは渋られる。


 今、寮に本人が居ないとなると渡すのは難しい。基本二人部屋で、もう一人の人間が寮部屋に居ると思われるが、オレは初対面の人間と話すのは単純に苦痛なため行くのが嫌になった。


 そもそもあいつが鞄を持って行き忘れたのだからすれ違いになったとしても文句は言わせない。むしろカバンを守ったことに感謝してほしいぐらいである。


 と言ってもあいつがどこに居るかが分からない。転校生の偵察と言うからには恐らく転校生のクラスをわざわざ探して行っているのだと思うが。


 そもそもオレは転校生の事を余り知らないのでクラスや学年自体知らない。だが2年は違うだろうということは分かる。何故なら授業中二年の階は何時もと変わらない空気だったから。


 となると一年か三年になるがこの時期に転校してきて残り一年弱を過ごすのかと思うとなんか違うな、と思う。勘だが。


 ということで一年の方を探そうと思う。


 渡り廊下を歩き、一年の教室が並ぶ道を歩く。


 すれ違う生徒達がまたも変な声をあげるが特に話しかけてくるでも無いため、スルーする。


 聞き込み?知らない名前ですね。


 時々自分の親衛隊の顔ぶれが見えるため手を振るだけに留める。オレの親衛隊は大人しめな者と変態に分けられる。まぁこの話は今度だ。あいつを見つけるのが先。


 しかし教室を探せど探せど見つからなかった。


 オレの勘が外れたのかな、となんとなく思っているとふと視界に入った空き教室に目が行った。自然と足はそちらに向き早足になってたどり着く。


 中からは本来聞こえないはずの音が聞こえてきた。


「――ーあコイツもうダメじゃん」

「まぁでも持った方じゃない?」

「はは!確かに、よく二時間も意識持ってたよねぇ」

「はぁ、でも全然使えないじゃん」


 携帯を取り出し風紀へ連絡する。そして証拠として写真モードに変えた。音声については恐らく教室のどこかに設置されているハズだ。


「聞きたいことも聞けなかったしさぁ」

「コイツも強情だな。たった一言『もう、氷鎧結には関わりません』って言えば放してやったのに」

「ねー。氷鎧様の迷惑だって分かんないのかな~?こっちは穏便に済まそうって言ってあげてるのにさ」

「というか何で顔殴んなかったの?」

「は?そんなん使えるからに決まってんじゃん」


 パキパキと足下が凍ってゆく。辺りに冷気が漂う。

 唯一の理性からか、氷は扉を避けて凍っていた。

 手に持っている携帯は、直ぐに氷の塊と化したが、、、。


 本来一般生徒がこういう問題に首を突っ込むことは余り歓迎されていない。何故なら二時被害に繋がったり事態がややこしくなったりするから。他にも問題はあるだろうがパッと思いつくのはこれぐらいだ。


バァァァァン!!


 扉を力任せに開ける。中に居た生徒達が肩を跳ねさせるのを冷めた目で見ながら凍らせてしまった携帯を気合いで砕き、写真を撮る。


 携帯はたまに凍らせてしまうため、丈夫なモノを使っているから恐らく携帯は生きている。証拠が撮れたことを確認すると中に居た人物の顔がハッキリと見えた。


 その中でボロボロになって横たわっている人物を見た。


 見て、しまった。


 次の瞬間、その空間は極寒に変わった。

 そこに居た生徒たちは元々倒れていた生徒を除いて突然吹雪いた雪に埋もれ、一瞬にして氷の柱となった。


 オレはそれに気づかないままおぼつかない足で倒れた見覚えのある生徒の下へ駆け寄った。


「赤、史、、、赤史!」


 上着を脱いでボロボロになった制服の上に被せ、肩に掛けていた二つの荷物を下ろした。


 額に打撲傷が見えたため、持っていたハンカチで氷を包み、そっと置いた。その他にする事が思い浮かばずキョロキョロと辺りを見渡す。そこで雪で降り積もった不自然な柱があるのが見えた。


 そういえば何人か此処に居たことを思い出し、これは不味いと雪を消す。そして中に居たと思われる生徒たちはドサリと音を立てて倒れた。


 呻いているため生きていることを確認し、ホッとする。

 一歩間違えればもっと危なかったかもしれない。


 すると教室の外から風紀委員が姿を現した。

 オレはその事にホッとするよりも、怪我を負った赤史が早く目が覚めることを願うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る