疑惑浮上

4.疑惑浮上

 3月の初旬、日本トランジスタ社より新しく制作された部品が、法人向けに発表され、日本の証券市場での日本トランジスタ社の株価は大きく上昇した。


 日本の証券市場では、重要事実が公表されたすべての株の銘柄に対して、その売買動向を分析してインサイダー取引が行われていないかチェックしている。


 今回の日本トランジスタ社の株も例外ではなく、調査をしなければいけないことを近藤は知っていた。


「今回の日本トランジスタ社の重要事実発表に基づき、この自主規制法人ではいつも通り調査を行う、さっそくだが調べてもらったことを伝達してくれ」


 近藤は部下達にそう言い放った。


 近藤はインサイダー取引等の不正を取り締まる売買審査部に所属し、捜査の指揮をとっている。


「この会社の株価は発表の後かなり上昇しており、取引参加者ごとに調査を行ったところ、この会社の主要な顧客であるXカンパニーが一部を購入しており、その他はXカンパニーの下請け会社や子会社が多数購入しております」


「何か怪しいところはなかったか」


「この下請けの会社の中で発表の約一週間前に日本トランジスタ社の株を多数購入した会社が3つほどあり、発表の後売却しております」


 そのことを聞き、近藤は怪しんだ。


「その3社が不自然なタイミングで売買を行ったらしい、Xカンパニーから情報を聞かされてインサイダー取引を行った可能性があるな、日本トランジスタ社に重要事実の公表をした経緯は聞いたか」


「はい、日本トランジスタ社は開発の時期を延期し、そのことを株主達に公表しています、だからXカンパニーが株を購入するように頼んだとしてもそれはインサイダー取引にはなりません」


「そうか、発表された事実を聞いて株を購入したのなら、なんの問題もないか」


 そう言いつつ、近藤は疑っていた。


 なぜなら本当に重要事実が発表された後に株を購入したとして、他の投資家が同じように購入しないとは思えないからだった。


「分かった、再度詳細な内容を確認し、それから決断を下そう」


 近藤達はその後、Xカンパニーや疑いのある3社、日本トランジスタ社を調べたが、やはり発表の後に株の購入を行っており、違法性はなかった。


 しかし、その3社以外に株を購入した者は全くいないわけではないが、それでも少なかった。


 捜査から1週間後、二階は自分の策が上手くいったことを確信していた。


 自分が下請けの担当だったので、会社から調査はされたものの、特に疑われることもなく調査は終わり、決して油断はしなかったが、完全犯罪を達成したことを疑っていなかった。


 二階は会社にて、日本トランジスタ社の新しい部品をXカンパニーに集中的に供給してもらえることを上司に伝えていた。


「二階君はよくやってくれた、今回の開発は延期になったと聞いてスケジュールを遅らせなければならないところだった」


「危ないところでした、資金不足だと聞き、仕事を受けてもらっている会社に声をかけたところ、どうにか投資してもらえました」


「これも君の普段から築き上げた関係のおかげだな」


 上司は言った。


「あれだけの高額の資金をよく投資してもらえたものだ、よほど君を信用してもらえているのだろう」


 これで自身の出世も安心だ、ライバルである箱根との出世競争にも勝てる、二階はそう考えていた……


 ある日、そんな二階の元に逮捕状が突然届いた。インサイダー取引が発覚したのである。


 近藤は捜査の結果を報告した。


「今回のインサイダー取引はかなり巧妙に考えられています、株主総会で虚偽の内容を発表していたことが分かりました」


 近藤は資料をめくった。


「部品の開発が延期したという話、これは本当でした、しかし部品を開発するために不足しているという資金の額が実際より多く発表していたのです、これにより投資家達は資金不足と知りながらも投資することを諦め、株価が下がることにつながったのです」


 近藤は報告を続けた。


 少しだけの資金不足を賄うために、日本トランジスタ社の社長である佐竹はXカンパニーの部長である取引先の二階と手を組み、佐竹は二階から間接的に資金を援助してもらい、二階は開発を成功させた上で下請け会社に恩を売り、下請け会社は佐竹に資金援助をして利益も得られる、という関係となっていた。


「この発表を受けてXカンパニーは部長である二階を懲戒解雇し、会社の株価も一時暴落したそうですが、今回は内部告発で発覚したため……」


 二階の悪事はこうして暴かれた。





 


 


 


 


 


 


 

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