第18話 わたしのどうし
大尉どのの機体、専用
原型機の【フェレクロス】は、帝国軍の量産型エメトクレイルのうち『脆くて速い』ほうの機体だ。それを改修したものが、大尉どのの専用機というわけだな。
主武装である大型斧【マスターキー】を振るい、敵機体を直接ぶん殴って破壊する。射撃武器を弾く
物理攻撃用の高質量物を振り回す都合上、両腕の出力が高めに設定されており、それに伴い展開できる
射撃武装も無いわけじゃないが、あくまでも標準的なもの。むしろ敵の射撃を
ただ……どちらかというと耐久力が
実際ご自慢の
≪コッチは片付いたぞ、ユーラ。新兵諸君もよく働いてくれた、ラクなもんだ≫
≪…………想定以上です。一番隊は直ちに退却、【パンタスマ】大型高圧魔力砲、カウント180≫
『了解しました。大型高圧魔力砲、照射準備を開始します』
そんな『難しい』仕様の【オミカルウィス】を手足のように操り、太尉どのは見事に作戦目標を達成してみせた。
ここから先は、わたしのおシゴトだ。……とはいっても、艦首大型砲をブチ込むだけの簡単すぎるおシゴトなわけだけども。
帝国中央に対して、盛大にケンカを売ったわたしたち、南方レッセーノ基地。今日も今日とて生き残るため、そしてなにより大佐のため、誠心誠意おシゴトに取り組んでいるわたしである。
そして現在取り掛かっている
対レッセーノ基地攻略の最前線として再整備が行われつつある
エメトクレイルは強力な兵器だが、行動範囲には縛りがあるのだ。拠点が遠ければ遠いほど戦いづらくなるわけなので、こちらは守りも固めやすいし作戦も立てやすくなるのだという。
そんなわけで、今回の『チカヴァ前哨基地攻略作戦』へと至るわけだけど……とはいえ今回のコレは、わたしにとってはラクな
まずはシュローモ大尉たちエメトクレイル部隊が殴り込みを掛け、チカヴァ前哨基地部隊に迎撃体制を取らせる。これはどちらかというと『敵戦力が撤退しないように』との意味合いが強いらしい。
そうして大尉たちが敵の目を引き付けてくれている隙に、別方面から接近するわたしと【パンタスマ】が、長距離射撃で前哨基地そのものを直接攻撃する。
おびきだされた敵側戦力は、基地機能を破壊した後で合流した【パンタスマ】と擦り潰す作戦……だったんだけど、こちらのエメトクレイル部隊が想定以上につよかったらしい。
敵の迎撃戦力をあらかた叩き落とし、基地から
そして現在は高圧魔力砲の発射カウントダウン中なわけで……
≪高圧魔力砲の着弾を確認。……充分な成果です。総員、帰還なさい≫
『了解しました』
≪お眼鏡に適ったか? 俺達の働きは≫
≪えぇ、勿論です。前哨基地の再整備も困難、以て侵攻頻度も大幅に低下することでしょう≫
(たいさのめがね…………んフフっ)
おシゴトのほうも無事に完了、そして大佐はどことなく機嫌がよさそうだ。もちろんわたしも嬉しいし、心なしか【パンタスマ】も喜んでいるように思える。
過日の初陣を飾って以来、幾度かの実戦をくぐり抜けてきたわたしと【パンタスマ】。最初は規格外すぎて戸惑ってばかりだったこの子の扱いも、どんどんとうまくなっていっている自覚がある。
もちろん相応に複雑な機体であり、以前の【
なによりも、わたしが長らく求め続けてきた『力』をこうして貸してくれて、わたしがやりたいことを手伝ってくれているのだ。
さてさて、無事に作戦を終えたわたしたち。あとは来たとき同様、レッセーノ基地への帰路につくだけだ。
単騎での長距離侵攻が可能な【パンタスマ】はいいとして……今回の作戦エリアは、エメトクレイルの戦闘行動半径から大きく逸脱している。
つまりエメトクレイルだけならば、レッセーノ基地から出撃したところで、チカヴァ前哨基地まで到達することは出来ない。当然、戦闘や作戦行動なんかも不可能であろう。
ならどうして、今日はこんな遠距離での作戦行動が可能だったのか。じつに簡単、エメトクレイルの消耗資材を消費することなく『運べる』手段が、つい先日手に入ったからだ。
わたしが【パンタスマ】での初陣で手に入れた、大佐への献上物である【アロスタータ】級浮遊巡航艦……その艦内には限定的ながら、エメトクレイルの整備や補給のための機材が備わっているらしい。
独立した動力機関を備える浮遊巡航艦は、急激な加速や複雑な戦闘機動を控えれば、ほぼ無限ともいえる長大な航続距離を誇る『空飛ぶ基地』でもあるのだ。
作戦エリアの近くまで浮遊巡航艦で移動し、搭載したエメトクレイルで作戦を遂行、しかる後に収容して撤退。……いやはや、この行動圏の拡大は画期的だ。もっと早くこういうのが手に入っていれば、連邦国の拠点に攻撃を仕掛けることもできていただろうに。
まあ……今となっては、連邦国に対して喧嘩を売るのは悪手でしかない。そもそも帝国の意を汲む必要だって無い。
幸いなことに、ここ最近は連邦国の動きも、めっきり控えめになっている。いちおう陸戦部隊と数機の【アルカトオス】で警戒してはいるが、戦力のほとんどを対帝国中央軍に向けてしまえている状況である。
こちらとしては実に都合が良いし、実際とてもたすかるのだが……もしかすると連邦国のほうにも、内部で何か動きがあったのかもしれない。よくわからないが。
ともあれ、浮遊巡航艦……今までみたいに基地から地上を運んでどうにかする展開手法に比べたら、なんて画期的なものだろうか。こんな便利な代物を保有してたのなら、とっとと各前線に配するべきだっただろうに。
特権階級か何かを勘違いしてたのか知らないけど、艦も兵器も持っててたのしいただのコレクションじゃないのだ。ろくに戦えもしない中央のやつらが持ってても、宝の持ち腐れだろうに。
紆余曲折を経て、こうして大佐のもとへと巡ってきたこの艦は、実際とてもよく活躍してくれていた。大佐が眉間のシワを深くしてウンウンうなりながら選出した
対空防御性能も通信出力も高い艦橋なら、大佐がドッシリ構えて指揮に集中するにももってこいだと思ったのだが……しかしいまだに大佐は専用機【インペラトル】での指揮にこだわっている。
いわく「通信機能は【インペラトル】とて遜色ありませんし、生殺与奪を他人に握らせるだなんて冗談ではありません」とのことで……はい。
そりゃまあ確かに一理あるかもしれないけど言い方っていうか、大佐が陰険メガネ呼ばわりされるのはそういうトコだぞってわたしは思いました。大尉どのもむずかしそうな顔をしてたので、わたしの感想はたぶん間違ってないとおもう。
そんなこんなで、兵力の質も規模も、以前とは比べ物にならない程に生まれ変わったわれらが南方反乱軍。
大佐の作戦と指揮によって、帝国中央方面軍を相手に連戦連勝、これならば国内外に向けて『南方反乱軍ここにあり(ウェスペロス大佐もいるよ)』とアピールできていることだろう。
わたしたちが快進撃を続けることで、帝国から独立したい他の属州を元気づけることができる。
そして彼らの独立運動が活発化すれば、わたしたちに対する圧力も弱まることだろう。各方面へ同時に征伐軍を送らなきゃならないわけだものな。
……うん、いい流れが来ている。わたしも【パンタスマ】も、大活躍ができてウッキウキだ。
しかし、まだだ。
わたしも、そして【パンタスマ】も……まだまだ帝国相手に暴れ足りないのだ。
…………うん、うん。大丈夫、わかってる。
心配しないでいいよ。わたしは、よーくわかってるから。
悲しいよね。憎いよね。恨めしいよね。……うん、そうだよね。
どれだけ殺しても、まだまだぜんぜん殺し足りないよね。
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