第12話[大きな足枷となって]

〜現在地:アジト〜

〜零夜視点〜


萃が朧月の過去に対して聞いてきた時、俺自身も分からないと回答した

だが、それは少し間違いである

どういう事かと言うと、俺達零夜組は過去、朧月の所属していたメンバーと戦闘をした事があり、その戦闘から逃れ、朧月を仲間にしたと言う出来事がある


執務室に着き、執務室の本棚でとあるノートを探す、そのノートには、その時の朧月の状態、朧月が居た組織について書かれており、一時期そのメモを読み込み、必死に彼女の接し方や過去の記憶の上書きに勤しんだ

それのお陰か否か、前よりも笑顔が増え、仲間との会話も増えていっており、順調に回復している


だが、やはりトラウマと言うのは簡単には消えない

たまに思い出してしまうらしく、その度に

濁った目で遠くを見つめている


零夜「……あ、あった」


そう考えながら本棚を探していると、何年か前に書いた俺の朧月に関するノートを発見する、俺は席に座り、そのノートのページをめく


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〜1ページ目〜

俺と天斗、魁で出張中、とある少女と出会う

酷く傷付いており、すぐ処置しないと命に関わる程だった

俺と魁で支え、出張で使っている車まで運ぶ事にした

だが、路地裏の奥の方から、その少女の関係者と名乗る者達が現れ、その関係者達に襲撃される

間一髪俺達はその危機を脱却し、車を走らせ、出来るだけ遠くへ逃げた


すると車内で少女が目を覚ます


だが、錯乱状態なのか、突然暴れだし

魁と天斗で押さえ付け無力化

敵では無いことを伝えると、少し抵抗した後、それを受け入れた


彼女は名前は"朧月"

"N=F=D"所属と言う


先程の関係者を名乗る者たちがN=F=Dだろうか


帰ってきたばかりなので、彼女が回復したら

また色々と聞き出そうと思う


〜2ページ目〜

朧月は大分回復した

ちゃんとコミュニケーションも取れ、微々たる表情の変化も伺える


だが、衝撃的な事実も判明した


それは、N=F=Dには組織の者に

と言う烙印を背中に刻むという


朧月にも入っているらしく、これがある限り、自分はN=F=Dの呪縛からは逃れられないと物悲しげに言う

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ノートの2ページ見て、そのまま3ページ目を進めて行こうとするが、眠気が俺を襲う

流石に最近徹夜しすぎたか、と思案する

これ以上見ても、多分脳に情報が入ってこないだろう、そう思った俺はノートを閉じ、本棚に入れると、屋上で風に当たろうと思い、屋上へと向かった


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〜現在地:墨田区〜

〜白月視点〜


………ん

ゴツン、と言う音に目が覚め

目がシャバシャバと瞬きさせる

秋月が足を抱えて居ることから、多分、何処かに足を勢いよくぶつけたのだろう


白月「寝相悪いなぁ……」


辺りを見渡すと、日が沈み暗くなっており、

月だけが明るく光っている

スマホを見ると午前2時、どうやら寝落ちしてしまったようだ

叶翔も秋月も寝ており、私もまた2度寝しよっかなと思考する

そして導き出した答えは、"二度寝する"だ

こんな夜中にやることも無い、だからと言って散歩するのも面倒

なら、潔く寝よう、私の導き出した結論はこれだった

後部座席でうずくまり、毛布をかける準備をする


そして、目の前の道路に目を移す


そこで見たのは、黒塗りの車の後部座席の窓から薄らと見える


目と口を隠された、男の人だった


見えたのはほんの数秒、直ぐにその車は通り過ぎ、数秒固まる

あれは本当に男の人だったのか?

私の勘違いなんじゃないのか?

いろいろな考察が思考を乱す

だが、直ぐに正常な思考を取り戻し、叶翔の肩を叩く


白月「叶翔、起きて」

叶翔「……ん、なんだ?」


眠そうに声を上げ、叶翔は起き上がる

私は叶翔に「席代わって」と言うと、不思議そうな顔を浮かべながらも席を代わる


この間僅か1分、然程遠くには行ってないだろうと思い、私はアクセルを踏み、さっきの車を追いかけて行く


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数分動かしていると、さっき見た黒塗りの車が信号に引っかかっているのが見える

私は追っていると悟られぬよう、慎重に車を動かし、その車の動向を追う


黒塗りの車を追ってから数分経ち、

黒塗りの車が止まった所は、周りには何も無い、廃ビルだった

私は息を潜め、だけど、その車から目を離さずジッと見つめる


その光景は、車から3人の男が引っ張り出され、廃ビル内へ運ばれていくと言う、なんとも目を疑いたくなるような光景だった

だが、もしかしたらと思い、その車のナンバーを写真に収める

車のナンバーは"21-84"と言うモノ


私はその写真を直ぐにレイテルに貼り

白月『萃、これの解析お願いできるかなぁ?』と送る


だが、これ以上長居すると見つかってしまう

私は写真をレイテルに貼った後、車を動かしその場から姿を消した


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〜現在地:屋上〜

〜魅零視点〜


屋上のベンチに腰をかけ、考える

一端に手を挙げ、虎狼組の潜入を申し出た

だが、こんな何の取り柄のないヤツが、そんな大それた役目を受け持って



自分だって役に立ちたい




自分だって、皆と同じように出来るんだ















だけど、その自分が抱いている、自分に対しての期待が、大きな足枷となって








─────自分を、雁字搦めにする





自分に期待して、現実との落差に絶望して





その度に傷付き、その度に涙する




だけど、何処かでまだ自分ならって思って






自分にはまだ見えてないだけで、皆とは一線を画す大きな才能が存在しているかもって








自分を諦めきれ無くて












諦めたくなくて







─────そして、また、をして




それの繰り返し、日は沈み、また昇っていく





諦めたいのに、未だどこかで自分はって





諦められなくて









苦しくて








辛くて






──────理想に、届かなくて











「あ、魅零じゃん」










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魅零「……あ」


零夜さんが、来た


零夜「お前が屋上に来るとか珍しいな、どうした?」


魅零「……なんでも………ないで…す」



顔を見られたくない



魅零「もう、涼んだので、部屋に戻ります」



こんな所、見られたくない



魅零「じゃあ、おやすみなさい」







︎でも、でも、こんな私を








魅零「また、明日」









───────見つけて欲しい














ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

︎──────届かぬ願いとしても














︎────────「待て」





その時、零夜さんの手首を掴まれる



魅零「……なん……ですか」

零夜「こっち向け、魅零」



手首から手が離れ、その手が、私の頬を包む

零夜さんの熱だ、零夜さんの熱が、私の皮膚を伝っていく


零夜「何があったんだ」

魅零「……なんでも、ない」





そんな訳ない





魅零「自分は……大丈夫です」




違う




魅零「だから、心配しないで下さい」










嫌だ
















"気付いて"













「心配する」










「心配するし、俺は今のお前は大丈夫だとは思わないし、今、お前を自室に返すつもりもない」









私の発言の全てが、零夜さんに否定され、

零夜さんの熱で、私の凍った心が、融解されていく

その融解された氷は水となり、逃げ場を探し瞳から溢れ出していく


瞳から溢れる水は、溢れて、止まらない





そして、私の身体が零夜さんの体に寄せられ

抱き締められる


零夜「俺は、魅零が何に悩んでるか、分かんない」



私に優しく、話しかける



零夜「だけど、お前が悩んでいる時の、言動行動は分かる」



零夜「天邪鬼だからさ、人間誰しも」



零夜「辛い時に辛いって言えない、苦しい時に苦しいって言えない」



零夜「それは一種の、防衛本能だ」



零夜「脳が自覚しないように、口で誤魔化してるんだ」



零夜「だから、誰かがこうやって、言ってあげないといけない」



零夜「俺はいつまでも、お前の味方だ」



抱きしめる力が、強くなる



零夜「何があったんだ?」














「……私も」



















ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ︎


─────役に、立ちたいです






その言葉は、確かに、この夜空に響いた

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