第37話 サムライちゃんぷるぷる!

現在、トレーラーで移動中。京都に向かっている。


GPSもクソもないので、今自分達がどの辺にいるのかいまいち分からないが、恐らくは滋賀県に入った辺りだとは思う。


マジで何にもない山ん中の国道を走っているからな、そんなこともあろう。


その移動の最中、こんなことがあった……。




山奥、マジで何もない空間。


森、木々、たまに獣。


そんな無限に続くかのように錯覚しそうな道路の中で、ほんのちょっぴりの、小さな脇道があった……。


舗装されている以上、国道から分岐したちゃんとした道路なのだろうが、こんなクソ田舎に休憩所があるとも思えない。


行ってみることとした。


好奇心もあるが、それよりも気がかりなことがあるからだ。


国道に路駐して、車載機銃の自動攻撃モードをオンにし、俺は小道を歩いて行く。


女達は置いてきた。


この戦いにはついて来れそうにないからな。


戦い、ってのはジョークじゃなくてマジ。


実際、その辺に死骸が転がっているのだ……。


首のない、ゾンビの死骸が……。




首無しゾンビを眺めつつ、三十分程度歩くと、開けた土地についた。


どうやら、ちょっとした街があるらしい。


その街には、「百舌鳥の早贄」のように、電柱の足場などにゾンビの死骸が括り付けられている、地獄だった。


「DO◯Mで見た!」


俺はそんなことを言いながら、まだ歩く。


そして、争う音が聞こえてきたので、そちらへ向かう。


「あああああ!!!!あはははははは!!!!あは、あは、あははははは!!!!」


笑っているのは、一人の小柄な少女。


小中学生くらいの小さな背丈だが、肩や腕の筋肉が大きく盛り上がった美少女が、刀を振り回しているのだ。


黒の長髪を、まるでサムライのようにポニーテールにし、その髪を赤く染めつつ笑い、狂っている。


「あはははははははは!!!!神州無敵の女侍!!!!曲月無子(まがつきないこ)一番乗りい!!!!先陣の誉れでござる!!!!わはははははは!!!!」


そんな彼女は、刃こぼれしまくってノコギリのようにギザギザな刀で、酸吐きゾンビ相手に大立ち回りしていた……。


巨体の酸吐きゾンビに酸を吐きかけられて、皮膚がドロドロに溶かされても。


「ははははは!!!あーははははは!!!ははははははははは!!!!」


皮膚を自身の刀で「削ぎ落として」、ゾンビに襲いかかっている……。


しかも、削いだ肉が、目に見える速度で治っているな。


あの子は……、『適合者』か。


ゾンビウイルスに感染しても、ゾンビの再生力と進化力はそのままで理性と生命としての組織を残せる、特異体質……。


なんかそんな設定があったはずだ。


「父上ぇ!母上ぇ!見ていただけましたか?!拙者は!私は……!立派な侍に、なったでござるよおおおおお!!!!」


狂気の不死身侍女、ね。


「いいね」


声をかけてみよう。




「もし、お侍さん」


ギョロリと見開いた瞳がこちらを向く。


うわっ、瞳孔ガン開き。


「何奴?!」


ふむ、ロールプレイに熱心なようだし、ちょっと乗ってみるか。


「控えおろう、こっちは武将だぞ」


まあ実際、うちの実家は『平宿禰鬼堂上国守八郎龍善』っていう、由緒正しい戦国武将の家系だからな。


農家とは言え地主だし、屋敷もあるっちゃあるぞ。


「武将でござるか?」


「『平宿禰鬼堂上国守八郎龍善』の子孫、龍弥である」


「ははーっ!」


うお、土下座してきた。


「苦しゅうない、面を上げよ」


「はっ!」


「何をしてるんだ、侍がここで」


「はっ、戦にござりまする!」


あー、本格的に逝っちゃってるねえ,この子。


「ほう、戦か」


「はい!」


「うーん、そうだ。俺に仕える気はないか?」


「よろしいのですか?拙者はまだまだ修行中の身で……」


うーん……。


「近う寄れ」


「はい?」


俺は、侍女の裂けた頬から、血を舐める。


「あっああ、あ、あ、だめ、ダメっ!!!吐いて!!!吐け!!!!」


どうやら、自分がゾンビと同類だと思っているらしい。


自分の体液は、ゾンビウイルスに塗れていると勘違いしているようだな。


だがしかし、適合者は、ゾンビウイルスを取り込んで進化した「人間」なので、適合者の体液に毒性は特にないのだ。


「安心しろ、お前はゾンビじゃない。お前の血を舐めても、ゾンビにはならない」


「……ほんと、ほんとに?」


「ああ、大丈夫だ。お前は化け物じゃないぞ、人間として暮らせる。だから、俺と一緒に来い!」


「は、はいっ!よろしくお願いします、主人殿っ!」




「その、主人殿?よろしければ、拙者、両親に仕官の話を報告しに行きたいのでござるが」


「良いよ、一緒に行こう」


「はいっ!」


案内されたのは、そこそこ大きなお屋敷。


……が、既に廃墟となっている。


その中に、蛆がたかる肉の塊が二つあった……。


「父上!母上!拙者は、こちらの主人殿にお仕えします!今まで……、ありがとうございました!」


ニコニコと、笑顔で肉塊に頭を下げる侍女……無子を眺めつつ、俺は……。


「無子は俺が守るので、安心してください」


と、頭を下げておいた。


せめての手向けだとか、湿っぽい話ではない。


無子の中では、両親は生きているのだ。


だから、俺は、無子の妄想の中にいる両親に頭を下げたんだよ。


それはつまり、可愛い可愛い無子ちゃんの為、だ。

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