第21話 いまはおやすみ
さて、兵庫に向かう道中。
灘透という、冬芽の妹分を拾いに、ちょっと寄り道しているところだ。
その途中で、パーキングエリアを見つけたので、入ってみた。
ガソリンスタンドがあるので、ガソリンと言わずともエンジンオイルや車の部品でも拾えたらなと思ってのことだ。
後、狙っているのはアレ。
「ウニクロ」のトラック。ウニクロは、シンプルなデザインが特徴の服飾メーカーだな。その工場のものらしい。
これから仲間が増えるらしいんで、フリーサイズので良いから服を何枚か確保しておきたい。
布のままあればなお助かる。
そう思って俺が、パーキングエリアに近づくと……。
「おう、待て待て。誰でぇ、おめえさん?」
と、猟銃を持った爺さんに呼び止められた。
いきなり銃を向けられたら、こちらも気分が悪くなっていたところだが、こうしてちゃんと言葉で制止されたんなら止まるぞ俺も。
「ここはパーキングエリアだろ、爺さん?休憩以外に何があるんだ?」
「がはは!そうかい!……騒ぎは起こすなよ?『奴ら』が来ちまうからな!」
そう言われつつ、普通に入場。
駐車場に横付けする。
「すっげえなぁ……。こりゃアレか?トレーラーハウスってのか?」
爺さん……、頭頂部が禿げており、側頭部に白髪がある、矍鑠とした老人だ。
そんな爺さんを中心に、オレンジ色のベストとキャップを身につけた、銃を持ったおっさん達がゾロゾロ出てくる。
「おー、でっけえなあ」
「えらいでかい車じゃのう」
「自衛隊のか?装甲板があるぞ」
まあ、猟師だろうな。
オレンジ色の目立つ服は、誤射を避けるための猟師服ってことだろう。
俺はトラクターから降りて、おっさん共に声をかける。
「休憩したいんだが、良いか?」
「ええぞ」
そう言ったのを聞いて、俺はゆっくりと車から降りる。
あまりにも俺の体格がデカ過ぎるので警戒されているが、小さな高校生女子である冬芽が降りてくるのを見ると、警戒を緩めたようだ。
関係性がなんであり、このご時世にこんな弱そうな女の子を守っているので、ヤバい奴ではないだろうと思われたか。
俺は、銃を持った複数人に警戒する冬芽の肩を抱いて、背後に隠してやった。
「すまんね、こいつは怖がりなもんで」
「……いや、良い。こっちこそ悪かった、警戒させちまったみてえでよ。今のご時世、アレだ、分かるだろ?」
「ああ、分かるとも。俺も色々殺したもんさ。ゾンビも、ゾンビじゃない奴も」
「はは、そりゃあオラ達もだ。けんども、家族を守る為には仕方ねえ」
うーん、だがまだ硬いな。
「……別に、略奪しに来たとかそういうのではないからな?ただ俺は、今晩車を安全に停車できるところを探していたのと、そのトラックの服が欲しいだけだ」
そう言って俺は、服屋のトラックを指差した。
「……そうかい」
すると、猟師達は散っていった。
持ち場に戻ると言うことだろう。
「こんなもんでいいか?」
「はい、お兄さん。ズボンが多めにあって助かりました」
服や布を回収して、畳んでからトレーラーハウスに収納する。
「じゃあもう、今日は休むか?」
「それでも良いですけれど……、どうせなら、ここの人達に話を聞くのはどうですか?」
ああ、さっきからパーキングエリアの食堂で、子供達がこっちを見ているからな。
恐らくは、猟師の爺さん達の家族だろう。
見れば、ここは山の方の自然豊かなところにポツンとあるパーキングエリアで、その目の前には一面の田んぼが広がっている。
その田んぼで婆さん達が農作業をしているので、ここではある程度自給自足ができているらしいな。
パーキングエリアにいるのは、広くてコンクリート造りの堅牢な建物だからだろう。
女子供を一か所に集めて守ろうってことらしい。
うむ……、ここまでちゃんと生き残った人々からならば、何か有益な話が聞けるかもしれない、か。
そう言われればそうではある。
俺は、海外のどこのだか知らない謎のメーカーのウォッカを数本持って、先ほどの爺さんのところへ向かった。
「ん?どうした?」
「酒だ、飲むか?」
「そりゃ、貰えんなら欲しいがよ……」
「代わりに、話を聞きたい。この辺りはどうなっている?」
俺が訊ねると、爺さんは建物の側の段差に腰掛けた。
「オラ達にも良くわかんね。ただ、都会じゃあえらいことになってんだとニュースで見てな。可能な限り買い溜めして、家に篭ってたんだが……」
「だが?」
「ある日、高速道路の方から、都会から逃げて来た若造が来てなあ。そいつが実は噛まれてたらしくてよ……」
「あー……」
「そいつはまあ、殺った。けど、他所から食い物も着るものも届かねえし、電話もテレビも繋がらなくなっちまってよ。流石に拙いなと、村の皆で集まって、ここに避難してんだ」
「そうか……」
この辺りはそこまで酷くはないのか。
ゾンビは感染が恐ろしいのであり、感染者があまり来ない田舎は平和が保たれているってことかね。
まあそれも今のうちだけで、やがてウイルスは日本全土に拡散されるだろうし、『ゲート』を通って邪悪な存在達が現れもすると思われるが。
「それ以外にも、避難しに来た奴らもいたな」
「そいつらは?」
「田んぼで働かせてんだ。働かねえ奴に飯はやれねえ」
ふーん。
「田んぼの他にはないのか?畑とか」
「盗るんであるめえな?」
「疑うなって。ほら、こっちからは塩が出せるぞ。冬芽ー!」
「は、はい」
冬芽に頼んで、袋詰めの塩をトレーラーハウスから持って来てもらう。
この塩は、俺のコンソールコマンドで既にIDを発見済みで、いくらでも出せるのだ。
「おお、塩か!分かった、野菜あるでよ、持ってけ!」
と、新鮮な野菜を貰った。
……キャベツだな。
千切りにして、顆粒タイプの出汁の素と小麦粉を混ぜて、解凍したシーフードミックスを混ぜ混ぜ。
使い切りパックの紅生姜も入れて……、フライパンで焼く!
「ほい、今日は海鮮お好み焼きだ。ソースはねえから、醤油で食ってくれ」
「わあい」
んー、んまい!
醤油でお好み焼きって、なんかもうチヂミみたいな感じだな。いや、美味いから気にしないでおくが。
でもアレだな、ソースは再現が難しいな。マヨネーズは頑張れば作れそうなもんだが。
ソースは必要材料が多過ぎる……。文明の味だったってことか。
余ったキャベツは切って冷凍しておく。
一部は、キャベツの浅漬けなどにして保管保管……。
……会話が通じる人も、まだいるもんなんだなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます