第16話

駅からバスに乗り換え、30分ほどで入院している病院に到着した。彼がノックをし、扉を開けるとベッドで小学生ほどの幼い顔立ちの少女が腰をかけている。


「調子はどう?あぁこいつ?学校の友達だよ」


 そう言って肩を組んできた。なんとなく笑顔がぎこちなくなってしまう自分が恥ずかしい。


「この間、体育祭で二人三脚の話したろ。あの時話したペアってこいつのことだよ」


 それから、そいつはきょう学校であったこと、妹の調子なんかを気にかけるように絶えず話しかけていた。俺はというと2人の会話に入ることもできない。彼らの母親が用意してくれたというチョコレートに手を伸ばしながら、愛想笑いをするのがやっとだった。ふと外を見ると、夕日が窓に差し込んできた。


「そろそろ日が暮れてきたから帰るよ」

「あぁ悪かったな付き合わせて」


 そう言って俺は部屋を出る。


「今日はありがとうな」


 出口まで送りに来てくれた彼が目を見て言う。そのまっすぐな目には、どこか影があるようにも見える。

 別れた後、木の陰に隠れて辺りを見回す。辺りに誰もいないことを確認すると最寄りの駅を目指して小さな声で唱える。


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 着いたところは、どこかの公園だった。ここから駅まではどれくらいかかるのだろうか。そもそも個々の最寄り駅は病院の最寄り駅と同じなのだろうか。一人で考えていてもしょうがない。俺は辺りを見回しもう一度唱える。


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 足を滑らせ、とっさに目の前に手を伸ばし、捕まる。今度はどこだ。下を見るとうす暗闇の中に木々が見える。上に目を向ける。ちょうど電灯があたってはっきりと手をかけているところが軒だということが分かった。まずい、まずい。すぐさま


「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」


 前から風が吹き寄せてくる。おぼつかない足でやっとこさ立ち上がり、下を見ると車が横を通り過ぎ、追い抜いていく。バスの上だ。後ろを振り向くと、信号機が目の前にある。


「カエル―」


 言い切る前に目の前に星がきらめいていた。目の前から眩い光が差し込み目を開けると、最寄り駅のバス停に停まっていた。慎重にバスから降り、ホームへと降りる。超能力はもうこりごりだ。

 疲れ切って空いている席に座った。帰宅ラッシュも過ぎ、まばらしか人がいない車内で、向こう側の自分と目が合う。その姿がだんだんと彼に変わっていく。

 明るく、優しい彼にも悩みがあったということに少し驚いた。なんとか力になってあげられる事はないだろうか。かといって、自分なんかが何の力になれるだろうか。彼は気にかけてくれているが、俺が積極的に声をかけることはない。窓に見える彼の姿を見て深いため息が出る。


「友達なんだからそんな考えることないだろ」


 彼の姿が暗闇に取り込まれアイツの姿に変わる。


(友達、、、確かに学校で会話をしたり、放課後一緒にいたりするのは友達といっても過言ではない)


「過言って。だから考えすぎなんだってば。友達が落ち込んでる。何かしてあげたい。それだけで別に良いだろう。気を使って彼が救われるのか?」


 なんだか心情を言語化されている気がする。

 駅につき、歩いて自宅へと向かう途中、改めて考えてしまう。高校に入ってから何人友達と呼べるやつがいただろうか。それを彼が変えてくれた。勿論、彼も俺のためにやったというよりも、自分の為にやったことだ。それは分かっている。分かっているからこそ、余計なことをして、彼に嫌われるようなことはしたくない。

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