第一話 たとえ人じゃなくなっても

第32防衛都市の裏路地に建っているボロボロの家の前に1人の男が立っていた。


「おい。冬弥行くぞ。」


玄関の前に立っている暗い緑髪の男が家の扉を叩きながら中に居る男のことを大声で呼んだ。


「ちょっと待ってくれ。」


冬弥と呼ばれた男はベットに横たわっている一人の少年のことを見つめていた。


「じゃあ、行ってくる。」


その少年に挨拶をすると、玄関に向かって歩みを進めた。


「やっと来たのかよ。」


緑髪の男がため息をつく。


「わりぃ、亮。弟に挨拶しててよ。」


「まぁ、いいけど。次からは約束の時間までには済ませとけよ。」


「あぁ。」


亮は言いたいことを言い終えると、光の指し示す右方向に顔を向ける。


「今日も行くか。」





タッタッタッタッタッタッ。


住宅街を覆面を被った2人の男が走り抜けていく。その後ろにその2人を追いかけている黒服の男達が6人いる。


「おっはは。逃げろ逃げろ。」


覆面を被った亮の手元には黒い鞄があり、それを大事そうに抱えていた。


「俺らはそんな簡単にゃ、捕まらねぇぞ。」


亮の前には同じように黒い鞄を抱えながら走っている覆面姿の冬弥がいる。


「ここ曲がろうぜ。」


「いいな。それ。」


住宅街の横にある裏路地に2人はさっそうと入っていく。


「おい。ここに入っていったぞ。」


2人に続いて追いかけていた黒服の6人も続けて裏路地に入っていく。


「馬鹿が。お前らが裏路地で俺らのことを捕まえられるわかねぇだろ。」


亮はそう言いいながら横に置いてあるバケツ型のゴミ箱を思いっきり横に倒した。


「また後でな。」


「おう。」


冬弥とそのような言葉を交わした亮は横につづいている道に進み、冬弥とは別行動をとる。


黒服は倒されたゴミ箱をジャンプすることで、避けた。


「俺たちはこっちを追う。お前らはあっちを追え。」


黒服は3人、3人に別れて、亮と冬弥を引き続き追う。


「はぁ、はぁ、」


冬弥は路地裏を走り抜けていく。その後ろに黒服姿の3人の男達が冬弥に続く。


「おい。待て!!盗んだもの返せ。」


「返せと言われて返す真面目な人じゃねぇぞ。俺は。」


タッタッタッタッタッタッ。


路地裏に足音が響き渡る。


「あっ。」


疲労が溜まったのか、わからないが地面にあった石ころにつまづき転んでしまう。


「やべっ。」


冬弥はすぐさま立ち上がり走り出したが、黒服達との差は先程よりも確実に縮んでしまった。


「馬鹿が。焦って転んでやがる。」


黒服の先頭を走っている男が冬弥のことを馬鹿にする。


「ぐぅっ。」


馬鹿にしていた黒服は突然、体をくの字にし、走る足を止めた。


後ろに続く黒服の1人は先頭の黒服と同様に体をくの字に曲げ、走る足を止め、もう1人は唐突に止まった前の黒服に激突してしまい、その場に倒れ込んだ。


「ばぁか。わざと転んだんだよ。」


冬弥が転んだ場所には腹部の高さに合わせて極細のワイヤーが何本か仕込まれており、冬弥はそのワイヤーを避けるためにわざと転び、黒服の男たちはそれに気づかずにワイヤーの餌食となってしまったのだ。





黒服を巻いた冬弥は予め決めていた目的地についた。そこには既に黒服を巻いた亮が待っていた。


「遅かったじゃねぇか。」


「そんな遅くないだろ。」


地面に直に座っている亮のことを見つめる。


「そんなことり、これだろ。」


冬弥は手に持っている黒い鞄を亮の前に置く。


「そうだな。」


亮も自身の持っている黒い鞄手前に置く。


ジィー。


黒い鞄のジッパーをゆっくりと開けると、中にはUと彫ってある銀の筒のようなものがいっぱい入っていた。


「こんだけユースエネルギーがあれば当分は食っていけるな。」


ユースエネルギーとは、天才科学者であるキリアス・マドイが発明したエクシスタンスから抽出することの出来るエネルギーであり、この世界では重宝されている。


「よし。早速闇商人に売りに行こうぜ。」


亮は立ち上がりながら目の前に立っている冬弥に提案をした。


「あぁ。」


2人は黒い鞄を手に持って裏路地を奥に奥にと進んで行った。


「そういえば、お前の弟大丈夫か。」


唐突に横で歩いている亮が口を開いた。


「今は薬で安静だけど、いつまた発作が起きるかわからない。医者が言うには次発作が起きれば命に関わるかもしれないって。」


冬弥の弟は難病を患っており、治すためには多額のお金が必要であり、更には、薬も高価なものであった。そのお金を手に入れるために冬弥はこんなことをしている。


「じゃあ、もっと金を貯めて弟を元気にしてやんねぇとな。」


「あぁ、そうだな。」


話しに夢中になっていると前から歩いて来たホームレスのおっさんに2人して当たってしまった。


ドンッ。


ホームレスは当たったのにも関わらず何も無かったかのように歩き続けた。


「おい。おっさん。」


亮がホームレスを追いかけようとする。


「亮。そんなことより換金しにいくぞ。」


亮は冬弥のその言葉に従い、ホームレスをおうことはしなかった。





「いやぁ、いい金になったな。」


闇商人にユースエネルギーを売って大金を手に入れた亮と冬弥は家に帰るところであった。


「ほれ、」


亮は持っていた金の半分を横で一緒に歩いている冬弥に渡す。


「なんだよこれ?」


唐突に渡された金に冬弥は困惑する。


「お前にやる。」


亮から出てきた言葉に再び冬弥は困惑した。


「弟の治療費に当ててくれ。」


「い、いいのか?」


「あぁ、良いよ。俺なんて食と遊びに使うだけなんだから。弟が良くなるといいな。」


そう言いながら亮は笑って見せた。


「ありがとう。」


冬弥は亮に最大限の感謝を伝えた。その感謝に亮は何か照れ臭そうにしていた。





あれから一週間が経った日に俺らは再び盗みを行った。前とは違うところをあ標的とした盗みは成功に終わった。


「前回よりは少ないが、それなりの金にはなるな。」


灰色の鞄の中身を見ながら亮が呟いた。


「売りに行こうぜ。」


亮がそう言った時だった。突然亮が苦しみ出したのだ。


「うがぁぁぁ。あぁぁぁ。」


「どうしたんだ?亮。」


手足をジタバタさせながら苦しむ亮に俺は必死に声をかける。


「誰かぁ、誰かぁ。」


必死助けを呼んだが、こんな路地裏に人なんているはずもなく誰も助けには来なかった。


「ゔっ、ぎっがっ。がァァ。」


苦しむ亮の腕が足が段々と赤黒く変色していく。


「ぎぃ、がぁ。」


更に口から血を吐き、目は充血し真っ赤になり、背中から赤黒い棘のようなものが皮膚を貫通して現れる。


「ぐはぁ、がぁ。」


段々と顔も爛れていき、腕と足も変形し、腕は常人の2倍ほど太く、そして長くなり、足は獣のような足歪な足になってしまった。


「にっ、げっ。」


亮が最後の力を振り絞って放った言葉は下顎が爛れて落ちてしまったことによって最期まで言えずに終わってしまった。


「亮?」


それだけでは終わらなく、尾骨らへんから赤黒い尻尾が皮膚を突き破り生えてきて、爪は長く鋭利になってしまっていた。


「ぐ、ガァァァァァ。」


先程まで亮だったものは化け物、エクシスタンスになってしまった。

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