虐げられた薄幸のアルビノ美少女は真珠皇女殿下:純愛が傲慢な大公子の心を溶かし、恋人たちは陰謀渦巻く帝国を破滅から救う

聡明な兎

序奏(イントロダクション)

女神

 治療を受けたの日の夜、静かにゆらめくランプの光が闇を照らしていた。


「……かの者の傷を癒したまえ。セシーリアが乞い願う。かくあれかしアーメン

 

 薄れゆく意識の中、傍らに跪く少女の祈りの声が、ハンス・クリズフィアン・アダン・フォン・オイレンブルク=ツェーリンゲン隊長の耳に留る。

 穏やかなささやきにもかかわらず、甘く伸びやかな声に忘我の愉悦を感じ、意識を取り戻した。


 ケガによる高熱で、意識がひどく混濁しているにもかかわらず、目に映る少女に否応もなく魅せられる。


 天幕の隙間から流れ込んだ夜の冷気が、シルクのようになめらかな輝く白髪を、さらさらと揺らす。

 ランプの光を受けた肌は抜けるように白く、暗がりを背景に際立っている。

 神秘的な紫の瞳は、高貴な香りを秘めている。

 さくらんぼのような淡紅色の唇は、艶々としてなまめかしい。


 その目もあやな容姿は、可憐で儚げだ。


 同時に、ハンスは、彼女がまとう霊気の崇高さを直感した。

 超越的存在に対する畏敬の念と怖れが、心の奥底に刻み込まれる。


 ――彼女が人には思えない。天使か? はたまた女神の化身か……?


 崇敬の情が、湧き上がった。


 ――あれが人ならば、人間の宝石だ……。


 ようやくそこまで考えて、ハンスの意識は、再び深淵の闇の中へと緩やかに落ちていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る