2頁 折舘一花との面会
「……貴方が、黒崎綺夜子さん、ですか?」
「はい、一花さん……ここにはお父さんはいません。気軽に話を聞かせてくれますか?」
翌日、哲隆さんは娘である一花さんを連れてきた。
ショートカットの茶髪に琥珀色の瞳はまっすぐ私を見据える。
……学生にしては、少し華奢な印象を持つが。
「……貴方は、わたしが異常だってみんなみたいに、言うんですか?」
「例えば、こういうことを言っていますか?」
パチンと、指を鳴らすと珀に煙が舞う。
「え!? だ、大丈夫で、――――って、狼!?」
ゼフィルスの服が床に散らばっり、首を横に振るう狼モードの彼は不満そうに言った。
「いきなりがすぎるだろう、我が番よ」
「貴方の恋人になった覚えも、夫婦になった覚えもありませんよ。助手さん」
「しゃ、しゃべ、え!? え!?」
混乱するのは普通だ。おそらく彼女の周りの存在は、人の姿から狼に化ける者はさすがにいなかっただろうから。ゼフィルスには悪いが、彼の性質上、一花ちゃんから聞き出すためにも必要最低限の情報開示でもある。
文句を言うだけで、怒らないのも彼の性格の美点と言えよう。
「貴方はこういう現象や、精霊と言った類が見える……ということだったのではないですか? 檻館一花さん」
「そ、そうだけど……え!? じゃあ、そっちの男の人は、妖精さん!?」
「違う」
「え!? 狼の妖精さんなんじゃないんですか!?」
「……ちょっと話がややこしくなりますが、彼は少し特異な存在なんです」
「特異な存在?」
「ええ……珀」
パチン、と指を綺夜子は鳴らす。
すると、珀が素っ裸の元の姿なり、一花は顔を隠す。
「うわぁ!! ふ、服着てください!!」
「我が番よ、遊ぶな」
「必要最低限の確認だったので……はやく服に着替えてもらえますか」
「……はぁ、わかった」
珀は服を着替え直すと、普段通りに振舞う。
綺夜子はこほん、と咳払いをして話題を切り替えることにした。
「……妖精や怪異が見える者を
「
「はい、ですから貴方が聞こえる者も見える者も、全部幻覚ではないのです」
「……そう、なんですか」
「なら、一度私の家に向かいましょうか」
「え? い、いいんですか?」
「はい、すぐ行けますので」
私は席から立って彼女を案内した。
細やかな装飾が施されている白の扉だ。一花さんは戸惑いながら尋ねる。
「ふ、普通の扉だと思いますけど……?」
「そうでしょう? では、行きましょうか」
扉が開かれ、そこには森と一つの屋敷が広がっていた。
一花は驚いて大声を上げる。
「……ここ、どこ!? なんで二階の扉の先が森に!?」
「私の屋敷です。扉は私の意思がなくてはこの屋敷に来れません」
「……って、いうと?」
「つまり、仕事場と自宅を行き来できる魔法の扉、になりますね。貴方が触れても本来この扉の先は倉庫ですよ」
「わー……本当に魔法ってあるんだっ」
キラキラとした顔をする一花さんの表情が明るくなったのにホッとする。
我が屋敷である黒崎邸にここまで感心してくれるのは少し気恥ずかしさを覚えるが、嫌ではない感覚だ。
花畑にいるピクシーたちが私たちに寄って来る。
『あ、アヤ! その子は?』
「ええ、依頼人の娘さんの一花ちゃんです、優しくしてあげてね」
『この子、いい匂い! いい匂いっ』
「う、うわわわっ」
「……気に入られたようですね」
私はクスっと口元に手を当てながら笑う。
一花ちゃんも、あ、あはは、見たいです……と気恥ずかしそうに微笑んだ。
「では、屋敷に入りましょうか」
「は、はいっ」
私たちは一緒に屋敷に入ることとなった。
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