√1 諦める訳にはいかない

受付嬢「…あー。君、魔法の適正ゼロみたい。残念だったね」

僕は呆然とした。

この人の言ってる言葉を理解するのに、かなりの時間を要した気がする。


シド「…魔法の適正が…ゼロ!?」

そう繰り返すのが精一杯だった。

何かの間違いだと、この人の口から出ないかと思った。


「おいお前!終わったんなら、早くどけよ」

僕の後ろに並んでいた男性がそう怒鳴った。

シド「え?あ!いや、ちょっとだけ、待ってくれませんか!」

そう言って僕は、デスクに座る女性に顔を近付ける。

「んだよ…早くしろよな…たく」っと悪態が後ろで聞こえた気がするが無視した。


シド「適正がゼロって!…一体どういう事ですか?何かの間違いでは!?」

そうであってくれと願ったが、彼女はむしろ呆れた表情をした。

受付嬢「…はぁ、いるんだよね。君みたいにゴネる子って」

僕は、この場に来てまだ10秒くらいしかいない。

なのに、一体どうして?

受付嬢「あのね、君ちゃんと、ウチの学院の説明会来た?まぁいいわ。忙しいから手短に言うけど、君さ、校門の所で紙を受け取ったでしょ?」

そう言われて手に持っていた何の変哲もない紙を見る。

シド「これのこと。ですよね?」

彼女の目の前に差し出す。


3174。


ただ、数字が羅列してあるだけで…まさか!。

シド「もしかして、この数字に意味が!?」

受付嬢「あるわけないでしょ。それただの番号よ」

即答されてしまった。

シド「じゃあ一体何で…」

彼女はまた溜め息をついた。

そんなに呆れられると、凹むんだけど…。

受付嬢「その紙はね。グロウストーンの粉末が含まれているの」

…グロウストーン?…何だそれ。

受付嬢「知らないの?グロウストーンは魔力がある人が触れば、光るの」

僕は首を横に振った。

そんな事、村では教えてくれなかった。

受付嬢「よっぽど田舎から来たのね君。まぁ、そんな訳で、単純な話。その紙が光らないって事は、君には魔力が無いって事の証明になる訳。これだけ大勢の人の【魔法を学ぶ資格があるかどうか】を調べるのに、これ程効率的でかつ、簡単な方法はないでしょ?」


そんな。

それじゃあ、僕は…。

僕には、魔法を使う事ができない?

受付嬢「わかったら、忙しいんだから早く出てよね。魔法使いの道は諦めた方が良いわ」

ーーー諦めた方が良いのか?

受付嬢「次の方、どうぞ」


※※※※※※※※※※※※※※※

何故だろう、分からないけど。

ーーーそんなのダメだ!!

シド「ま、待ってください!」

僕の大声に、受付嬢は驚いた声を上げた。

受付嬢「ちょっと、大声ださないでよ。今度は何?」

シド「これが、この紙が普通の、ただの紙で!それか、何かの間違いでって事は!?」

それを聞いた受付嬢は、本日三回目の溜め息を吐いた。

受付嬢「…そこまで言うなら…確かめてあげるわよ!」

受付嬢は僕の手から紙を奪い取る。

途端に、黄色い輝きを放つ、何の変哲もなかった紙切れ。

受付嬢「…どう?これでわかったでしょ?」

彼女は僕に紙を返して、笑みを浮かべる。

ああ。これはもう何も…否定出来ない。

受付嬢「あなたに魔法の才能は無いの」

その笑顔の目は、心底笑ってなどいなかった。


ーーーどうやってここまで来たのか。

僕は夕方の誰もいない広場で、一人で座っていた。

夢への大いなる一歩は、完全に打ち砕かれてしまった。


ポケットから先程の紙切れを出す。

番号が羅列してあるだけのただの紙。

さっきの子みたいに、光る様子は全くない。

シド「…帰ろうかな」

ーーー何処に?…村に?…父さん母さんに何て言えば良い?

父さんも母さんも僕が、アーテルシア学院に入学するのを、嫌がっていた。

王国軍が嫌いなんだと思う。

ーーー学院に入学出来なかった事を知ったらホッとするだろうか?…ホッとするだろうな。

帰れば安心した両親の顔が見られるだろう。

そして、村に帰った僕は、何をする訳でもなく。

平和に、平穏に、長閑に生きていく。

ーーーそんな人生で良いのか?

幼馴染を取り戻す、それだけが僕の生き続けられる理由じゃないのか?

無理でも、不可能でも、たとえ才能がゼロでも。


シドは立ち上がる。


…そうだ!才能が無いから何だって言うんだ。

僕は…僕の人生を。

命をかけるんだ!


【こんな事で、諦める訳にはいかない!】


魔法の才能がないのなら…。

他にもやり方がある!

そうだろう?


僕は王都内を走り回った。

そして、武器屋を見つけて駆け込む。

シド「すみません!御免下さい!」

店内に大声で呼び掛ける。

店主「おいおい、もう店閉めるってのに」

手の甲に大きな十字傷がある男が現れた。

店主「なんの用だ?ニイチャン」

何だか疲れ切った顔をしている。

シド「すみません、こんな時間に」

僕は頭を下げる。

巾着の中から、僅かな硬貨を握る。

1枚だけの金の硬貨が目に止まった。


ーーー日々の生活もある、これは使えない。

それ以外の硬貨を全て出して、店主に見せた。


シド「これで買える武器を下さい!できれば剣が良いです!」

魔法が使えないのなら、剣を極めてやるんだ!

そして…いつか!

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