第五話 剣闘大会予選
活気あふれる都市に着くと、昼時。
ちょうどお腹も空いてきた。
さすが大都市である。美味しいものには困らなさそうだ。
ファリンお勧めのレストランに入る。
「今日から剣闘大会のエントリーが始まるよ。忘れないでね」
毎年一度行われる剣闘大会は今年で一〇〇回目を迎えることもあって、例年以上に盛り上がっている。僕の気になっていた大会エンブレムの紋章のモチーフになっている剣は、第一回大会覇者の剣らしい。
ってことは……百年前?
なんで、そんな昔に父さんの剣が。偶然なのだろうか。
大会には毎年数百人がエントリーし、予選大会によって八名まで絞られる。そこに剣士院の八名を足した十六名でトーナメント試合を行う。トーナメントは前回の大会覇者との試合を行い、勝った者がその年の『守り人』となる。
『守り人』は『鍵守』と一緒に始まりの地に行くらしい。鍵守の一族のファリンが剣闘大会に詳しいのが納得できる。
剣士院とは、言わば国中の強者の選抜みたいなもので、トーナメントで一般枠の剣士が勝つことは滅多にない。そんな中、十連覇中の剣士は一般枠で毎年圧倒的な強さを見せる。覇者になっても剣士院に入ることは無く、十年前の守り人としての役目以来、剣闘大会のときだけ姿を現す……らしい。
「この店美味しかったでしょ!」
「うん。オシャレ過ぎて緊張したけどな」
「うふふ。私はこれから大聖堂に報告しなきゃだから、ここでお別れね」
「た、楽しかったよ。ファリン。一緒に旅ができて。……じゃぁまたいつか」
「また一緒に旅をすることになるよ!キミが剣闘大会で勝って守り人になってくれたらね」
ファリンは笑顔で手を振りながら駆けていった。
***
街の適当な、一階が食堂と酒場になっている安い宿屋に入り、荷物を置くとエントリー会場へと向うと、長蛇の列。エントリーができるまで、一体何時間かかるのか。
「ふざけんな、てめぇ。」
「あ?殺すぞ」
きっと、大したことのない、並ぶことにイライラした男たちだろう。列に並んでいる男たちの人相の悪さを見ればわかる。どうせすぐ収まる。
収まらなかった。怒号は徐々に大きくなり、他の男たちを巻き込む大乱闘へと発展した。このままだと日が暮れてしまうな……。ため息をついた。
――瞬間。
乱闘の中心にいる何人かの男たちが悶絶の声を出しながら吹き飛ぶ。
続いてその周りの攻撃体勢を取っている男たち目掛けて突風のような速さで斬撃を食らわせていく。
左肩から背中に垂れ下がるマントには、僕の剣と同じ、ケハイデス教団のエンブレムが金色に刺繍されている。握る剣は鞘に収まったままだ。あの一瞬で十人近くの屈強な男たちを制圧したこの剣士は、剣士院なのだろう。
周りが呆気にとられる。
「大会に出られないくらいの怪我をしたくなければ、大人しくしろ」
服の上からでもわかる引き締まった肉体、眼光の鋭さ。この剣士の覇気がビシビシと伝わって来る。一瞬、師匠と対峙したときに似たような、ゾクッとした感覚が背中を走った。
――この剣士も大会に出るのだろうな。
僕……勝てるかな……。
エントリー会場の列の近くにこの剣士は居座る。こう睨みを利かせられると並んでいる男たちも、借りてきた猫の様に大人しい。おかげでスムーズにエントリーの手続きができた。
宿屋に帰り、ベッドに寝転ぶ。
目を瞑りながら、あの剣士と自分が戦っているところを想像してみる。
――んんん。負けるかもしれない。
その日は興奮と不安であまり眠れなかった。
***
――大会まであと三日。
教団都市マディアからほど近い森で素振りをしている。
昨日の剣士のことが頭から離れない。
うわあ。師匠を呼びつけたい。
ご指導を賜りたい。
あんな老人の事を想いながら素振りをする一六歳……を客観的に想像すると我に返る。
考えてもしょうがないか……。
***
――大会当日。
会場となる闘技場に三々五々、観客が集まってくる。
この都市に住む人達以外にも多くの観客がぞくぞくと観客席を埋めていく。
闘技場内に並ぶ屋台の店主の笑顔をみると、満足な売上が期待できているのだろう。
今年のエントリー数は過去最大の一〇〇〇人超え。予選大会は五人一組で乱戦をし、残った一人の勝者が次の試合に進む。三回戦まで行い、残った八人が決勝トーナメントに進出できる。予選大会だけで八日間を要する。
比較的早くエントリーした僕の予選一回戦は、初日となった。
控室には三〇名の魔道士院の神官たちがいる。これだけの神官がいれば、たとえ腕が千切れても、心臓を貫かれても即座に回復魔法を施すため、治療に時間は掛かるものの死ぬことは無いそうだ。
「予選大会、第一〇試合。開始!」
審判員の声と同時に、僕を含めた五人が攻撃体勢を取る。
僕は少し距離を取り、四人が集まったところを目掛け疾走した。
みぞおちへの突き、振り向いての薙ぎ払い、その勢いで頭部への斬撃、最後の一人の首へ平突き。
四人の選手たちは倒れ込み、地面の砂が舞い上がる。
鞘に収めたままの剣で。あの時の剣士のマネをしてみせた。
一試合一〇分を想定した予選だが、開始一分で片付けた僕に向けて分厚い歓声が空気を振動させた。
その日に行われる試合は偵察を兼ねて観てみた。この程度のレベルなら予選は楽に勝ち進める事を実感すると、屋台を周り、その美味しさに散財してしまった。
――予選大会最終日
二回戦も同じく、一分で勝ち上がった僕は、同じ方法で三回戦も戦おうと思っていた。
しかし、相手の武器を見てそれをやめた。
鉄球に棘のついた武器。なんていうのだろう、とにかくあの武器の攻撃を受けると……。
鞘が壊れてしまう……。
魔道士院の人がいるし……。剣を抜くか。
振り回された鉄球は僕以外の選手を戦闘不能にした。
鉄球を掻い潜り、相手の両足を浅く斬りつけると、膝を折り地面に着けた。頭の位置が同じ高さになった相手の首に剣を突きつけると降参してくれた。
……一人の男が怪訝な顔でこの試合を見ている。
試合が終わると、立ち上がり選手の待合室に向かって歩き出した。
***
「君、ちょっといいかな」
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