第14話 そいつには口がない


 順調好調、極めて順風満帆だった。


狼の魂ソウルスピリット】パーティー、通称ウルスリのメンバーの回復術師として、僕は久々に戦うことの喜びを味わっていた。


 追放された直後は正直ちょっと迷ったけど、やっぱり冒険者を諦めなくてよかったと、今は心の底からそう思える。


 この高揚感は他では得難いものだから、簡単には手放したくない。


「――ふう……」


 ただ、ダンジョンのどこへ行っても本当にモンスターが多いので、結構しんどくなってきたのも事実。


 やっぱり、ボスがどこかに出現しているとしか思えない。勘違いの可能性もあるとはいえ、これは一応伝えておかないとね。


「「「……」」」


 そのことをベホムらに伝えると、みんなも予想してたのかそこまで驚かなかったものの、深刻そうな顔つきになった。


「モンスターの多さから、薄々そうなんじゃないかって思ってたが、やっぱボスがいるのかよ。そりゃまずいな……。なあ、ジェシカとロランもそう思うだろ?」


「うむ、同感だ。いくらピッケルが強いとはいえ、ここのボスとなると話は別」


「そうですぜ、ピッケルさん。だって、この古代地下迷宮のボスは……」


「……あ、そっか。確か、、だったっけ?」


「「「そうそう!」」」


 そういえばそうだった。物理攻撃しか通じないんだ。


 つまり、回復術師としての活動はもちろん、遅延の回復術を使って剣士としてやろうとしても、魔法自体が通じないので効かないってことだ。


「そりゃ、ピッケルの能力は疑う余地がねえが、魔法はボスの周辺じゃ無効化されるから、回復術だって発動できない。前衛職は俺とピッケルとロランだけだし、火力って意味でも厳しいからなあ……」


「うむ。ベホムの言う通りだ。ボスと戦うなら物理職の前衛と後衛を揃えて短期決戦を挑むのが前提ゆえ、引き上げたほうが賢明だと思うが?」


「ボクもそう思いやす! つか、リーダー。非力な盗賊のボクを前衛の一人と数えるのはちょっと無理がありやすぜ⁉」


「んー……大丈夫じゃないかな。の回復術を使えばいい」


「「「せっ、先行予約っ……⁉」」」


「うん。先行予約の回復術は、ボスと戦うときに回復術を使うわけじゃない。今使うから、魔法が効かない状況でも通用する。それに、あのボスは魔法が効かないっていうより、魔法の詠唱を封じる能力を持ってるんだと思う」


 実際、ここのボスは僕の説を証明するかのように、詠唱できる口を持っていない。


「「「……なるほど……」」」


「あ、そうそう。この先行予約の回復術は火力を上げる効果もあるんだ」


「「「……」」」


 みんな呆けちゃってどうしたんだろう? まあボス戦が近いんだから無理もないか。


 僕自身が戦いからいいことばかり言っちゃったけど、実は回復術を先行予約しておくことで、メリットとデメリットがある。


 デメリットとしては、先行予約が発動し、それが終わるまで、しばらくは回復術を使えないということ。


 メリットは、傷や毒を負ったとき、その程度に応じて即座に自動回復してくれるため、回復術が遅れる心配もなく、安心して戦える。もちろん、いつまでも回復してくれるわけじゃなくて限界もあるけどね。


 また、回復術分のエネルギーを蓄えるため、火力をアップさせることができる。しかも、んだ……っと、考え事してたらみんなから遅れそうになったので僕も先を急ごう。


 ちなみに、この先行予約の回復術というのは、時間の回復術と一般的な回復術を掛け合わせたものである。


 やがて、僕たちの前に明らかに異質なものが見えてきた。


 ひしめくモンスター群の奥に、紫色のオーラを纏った人影が見えたんだ。


 あれは……間違いない。ボスのアンチマジシャンだ。


 宝石の杖を持ち、豪華な衣装を身に纏ったスケルトンだが、頭部だけがないのが特徴だ。ちなみに、倒してもそれらが手に入るわけではなく、本体とともに消える運命だ。


 その名の通り、やつに物理攻撃は通用するが、ああ見えて意外とタフであり、身体能力も高い。


 系統としては一応アンデッドに分類されるため、聖属性の攻撃で大ダメージを与えられる。


 当然、魔法は通じないものの、回復術のエネルギーを注ぎ込んだ僕たちの体はおのずと聖属性になっているので問題ない。


 回復術の内なるエネルギーによって火力を上げられる上、聖属性で追加ダメージが発生するため、これは相当に効果的ってわけだ。


 とりあえず、ボスの周囲にいる雑魚モンスターをベホムが引き付けると、ジェシカがいつものように魔法で蹴散らした。


 さあ、邪魔者をすっきり掃除したところでいよいよボスの掃討開始だ。やつが杖で殴りかかってきたところを迎え撃つ。さすがのベホムも押されてしまってるけど、その顔には少しの憂いも見られなかった。


「お……おおおおっ、すげーぜ! 見る見るダメージが回復する!」


「ふむう。それに、かなりダメージが通る気がする。たまには杖で殴るのも気持ちいいぞ……!」


「ジェシカが杖で殴るなら、ボクは短剣ですぜええっ!」


「……」


 みんなはりきってるなあ。よーし、僕も剣で参戦だ!


「――グゴオオォォォッ!」


「「「「ありゃ……」」」」


 みんなで気持ちよくボコってたら、ボスは断末魔の悲鳴とともに跡形もなく消え去っていった。あっという間だ。


 そこにはボスドロップの魔石があるのみだ。しかもこっちは例の回復術のおかげで無傷だし、贅沢だけどちょっと物足りないかなと思うほどだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る