春なんて、死んでしまえばいい

刹那

第1話 居候


喜悦きえつたる色声に、上気していく呼吸。

あなたが春を求めるなら、何度でも狂い咲いてあげる――



     ✾



今朝、妖艶が結んだ春夢から醒めた私に、

友人のA子が告げた。


美春ミハルさぁ、今夜カレシ来るから、

出てってくんない?」


居候いそうろうで厄介者の私を

家から追い出す口実なのだろうか。


本心がレンズ越しに屈折するように見え透く。

私は抵抗することなく無言で身支度を整え、玄関口へと立った。


「泊り代、いくら?」

「はぁ? 何言ってんの? あなたお金ないでしょ?」


ツケでもいいから払うと粘ったが、いらないと突っぱねられる。

その仕草から金輪際こんりんざいかかわらないでほしい印象を否めなかった。


「今までありがとう」


名残惜しさにドアを開けると、春の穏やかな桃色の風がこれを迎えた。


「身体には気を付けてね」


去り際、A子からの気遣い。正直、胸糞むなくそが悪かった。


身体を売って日銭ひぜにを稼ぎ、今日までつないできたが、

もう限界を感じていた。

背骨の奥底が黒くうずく。



心身ともに疲れ果てた。


三カ月ぶりに実家に帰ろうか。


あの毒の男のいる、逢瀬おうせの場所に。

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