Ep.2  クズ騎士

第11話 騎士との顔合わせ

 サラさんにもらった、王宮おうきゅうまでのみちのりがしるされた地図ちずを見ながら、僕は目的地もくてきちまで歩く。

 そして、王宮へたどりいた。

 僕は、つぶやく。


「さすがに、迫力はくりょくがあるな」


 ――純白じゅんぱく

 そう、表現ひょうげんしたくなるくらいに、白色しろいろ強調きょうちょうされたしろであった。

 外観がいかんに、よごれは一つも見当みあたらない。

 あと、たりまえに大きかった。


 僕は、王宮のぐちまえに立つ、よろいをまとった門番もんばんらしき男性に話しかける。


「あの」

「なんでしょうか?」

「僕、異世界人いせかいじんでして、騎士きしとの顔合かおあわせをするためにおうかがいしたのですが」

招待状しょうたいじょうは、ありますか?」

「招待状……」


 僕は、今朝けさ伝書鳩でんしょばととどけてきた、王宮からの手紙てがみを男性に見せる。


「こちらで、よろしかったでしょうか?」


 男性は、僕からった手紙の内容ないようを読んで、


確認かくにんしました。おはいりください」


 入り口をとおしてくれた。


っすぐ進めば噴水ふんすいがありますので、そちらでおちください。担当たんとうもの合流ごうりゅうしにまいりますので」

「分かりました」


 指示しじどおりに、噴水のところまで歩いた。

 水が派手はでがる設置物せっちぶつの前には、一人の女性が立っていた。

 茶髪ちゃぱつで、短く切りそろえられたかみ

 黒縁くろぶち眼鏡めがね

 美人びじんかただった。

 そんな彼女は、一礼いちれいをしてくる。

 僕も、あたまげる。


「ソネ・ナオキさま、ですね」


 と彼女が言った。

 僕は、返事へんじを返した。


「はい……あなたは?」

「この王宮の、騎士様の秘書ひしょをしております。ヴィオラともうします。本日ほんじつは、ナオキ様の案内役あんないやくつとめさせていただきます。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ヴィオラさん……真面目まじめそうな方なのだった。


「では早速さっそくですが、今から騎士様との面会めんかいをしに行きましょうか」

「早いですね」

普通ふつうは、休憩室きゅうけいしつでしばらくたせてもらって、時間になったら……というパターンが多いのですが、今回こんかい特例とくれいになりますので」

「特例……」

昨日きのう、王宮内では、ナオキ様の話でりでしたよ」

「僕の話でですか?」

「はい」


 ヴィオラさんは、その一部いちぶ抜粋ばっすいする。


人間兵器にんげんへいき誕生たんじょうしてしまったぞ――とか、戦力せんりょくのインフレが一気いっきすすぎているのではないか? ――とか、我々われわれが30年間ねんかん汗水あせみずらしてきたげたステータスがたった1分の睡眠すいみんえられてしまうのか? 我々の努力どりょくは何だったんだ? ――とか」

「……何か、すみません」

「いえ。私には何のダメージもありませんので。おになさらず」


 考えてみれば、たしかにだった。

 僕の睡眠強化すいみんきょうかというスキルは、あまりにラクに強くなれるものだ。それを面白おもしろくないと思う人もいることは予想よそうできる。

 努力がバカのように感じるのも、無理むりはないな。


 あらためて――何かごめんなさい、だった。


 僕とヴィオラさんは、赤い絨毯じゅうたんかれた廊下ろうかわたる。彼女はとある一部屋ひとへやの前に立ち止まり、僕に顔を向けた。


「この中に、ナオキさんと対談たいだんする騎士様がいます」

「はい」

「先に言っておきますが――どんまいです」

「うん?」


 ――それは、どういう意味だ?


 そんな疑問ぎもんいかける時間もなく、ヴィオラさんがとびらをノックする。


「――入りますね」


 ヴィオラさんが扉を開けた。

 そして、僕に目配めくばせをする。

 さき入室にゅうしつしろ、ということだろう。

 僕は、一室いっしつの中に入った。


「お前が、れいの異世界人か……」


 そんな言葉がひびいた。


 広々ひろびろとした空間くうかん中央ちゅうおうに、玉座ぎょくざにもた大きな椅子いすすわる、一人の男がいた。

 短く切られたブロンドのかみ

 少しだけやしたひげ

 何かをたくらむような、下劣げれつ雰囲気ふんいきを感じさせるみが特徴的とくちょうてきな男だった。

 たかそうなふくにまとうこの男が、おそらく騎士なのだろう。

 男のまわりには、部下ぶかおぼしき4人の人間にんげんが立っていた。


 ヴィオラさんが口を開ける。


「今、まえすわられているおかたが、くに直属ちょくぞくの騎士――アラン様になられます」

「そういうことだ。俺はアラン。異世界人、お前も名乗なのれ」

曽根そね直樹なおきと申します」

「ソネ・ナオキ……びづらい名前なまえだな。ソネと呼ぶが、かまわないか?」

「構いません」

「ではソネ。率直そっちょくに言わせてもらうが――どんなきたな使つかった?」


 僕は、くびをかしげる。


「汚い手?」

「とぼけるな。あのステータスのことだ。現実げんじつばなれした数値すうち。頭のイカれたスキル。うそ報告ほうこくも、内容によってはつみが大きいぞ」

「…………」


 と、言われてもだった。

 嘘の報告なんて、していないからな。

 だから、僕は本当のことを言うしかない。


「嘘を報告したおぼえは無いのですが……」

「そうか。あくまでしらるか」


 騎士アランは、口角こうかくを上げた。


「ならば……」

「……はい」

「今から、お前のステータスを測定そくていしてみようではないか。こちらで用意よういしている、ステータス測定用石板そくていようせきばんがある。それにせるとい。簡単かんたんなことだろう?」


 アランは、部下に「石版を出せ」と命令めいれいした。

「かしこまりました」と言った部下が、石板を出してくる。

 それを、僕の目の前まで持ってきた。


「さあ――」


 アランは、ニヤリと笑って、言った。


「報告したステータス内容が真実しんじつと言うのならば、その石板にこたえさせてみろ。それとも何だ? 嘘か? もう、ごめんなさいと謝罪しゃざいするのは、おそいからな。くっくっくっ……!」


 と、何かほこった言い方をされる。

 あれは、本当に僕をうたがっている様子ようすだな。

 で、虚言きょげんあばくための王手おうてったものだと勘違かんちがいしている。

 ……そんなところか。


「どうした? 早くその石板の上に手を乗せないか」

「……分かりました。乗せます」


 僕は、石板の上に手のひらを接触せっしょくさせた――……。

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