マリオネットは眠らない

山田

Actor

Prologue

「さぁ出来た……この人形子達ほど精巧に仕上がったものはない……」


 ここはヨーロッパの大都市。


 大嵐の夜、その中でも栄えているこの街で私と貴方はこの世に生み出された。


「お揃いの金髪にお揃いの碧い瞳……各々が主役級の美しさを持ちながらも、お互いを支え合うペアドールとして生きてゆくのだよ」


 賑やかな街の中で一番有名な人形職人の老人──フィリットは、薔薇の香油を私に垂らすと、私と私によく似た彼を指で差して笑い掛ける。


「人形には必ず命が籠る。──足の刻印は私の子供である証……美しい薔薇の香りは、いつまでも咲き誇る薔薇のように愛されるおまじないだよ」


 ロマンスグレーの髪には気品があり、丸眼鏡を鼻先に掛けた皺くちゃな顔の彼が満足げに笑った時、大きな稲妻が雨空を駆け抜ける。


「ここまで完璧な人形なら、名前を付けてあげないと……。そうだ!私の娘が授かった双子は、『カフカ』と『オルカ』だから……君達にも同じ名前を付けてあげよう!」


 運命の気まぐれか、病院に響くはずだった双生児の産声は雷鳴に掻き消え、言霊の代償のように名前を貰った私達はただの人形ではない自我を得た。


『オルカ、私、動けるわよ?』

『本当だ……カフカ、僕も動いてる!』


 人形職人の孫の命が流れたこの晩、運命の糸に絡め取られた操り人形の2人は、高貴な薔薇の香りで満たされたショーウィンドウの最前列に陳列されては、どちらが共なくもたれ掛かるように肩を寄せ微笑む。


 それが私達の、残酷な舞台の始まりだった。

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