第14話『決闘(上)』

 昨晩、アフエラと話したこと。それはまともに闘うと負けると言うことだ。


〔マスターは近接戦闘の技術において、相手に劣っているでしょう。ですから、こちらの武器である『未知の手札』を存分に使っていきましょう〕


 その手札とは、俺の着ているボロ布『骸灰の衣』だ。

 大体の効果をまとめると、火属性魔法の無効化が期待されており、その他衝撃類は受け流されると言う効果がある。おそらく雷などの魔法も無効化できるはずだ。

 そして、未知数の手札というのがまだある。

 アフエラの鑑定機能で、すでに相手の情報はわかっている。

 教えてもらったのは、スキルについてで、『真空斬』と言う風魔法を組み合わせた剣術を得意とするようだ。

 そんな事前情報を知っていたがゆえ、今まさに虚空を振るう剣から飛んできた風の刃を見切って避ける。

 間合いにさえ入ることができれば俺の勝ちだ。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


「セトラさ〜ん! 頑張ってくださ〜い!」


 周りとは違う声援を送る声。それは私から発した声で、周りも周囲とは違う異物を扱うような目で私を見る。

 でも、それでもいい。なんならそれでいい。私だけがセトラさんの良さをわかっていて私だけが……うへへ。

 おっと危ない。


「あの、セトラさんってミナセさんのことですか?」


 私の隣で観ていた女性がそう問いかけてきた。

 この人、ギルドの職員か。

 そう言えば、この世界でセトラさんを呼ぶ時は皆本名の方で呼ぶのか。


「はい。私の推しなんです! ところであなたはベイルを応援するんですか?」

「いえ、ミナセさんを応援……と言うか期待しています。まだFランクにも関わらずデグルの森で狩りをしているんですよ。Bランク推奨のモンスターですら倒してきたこともあるのに、一向に冒険者ランクを上げに来ないんです」


 この人……セトラさんと接点がある……!? しかも女性。これは敵か。でもセトラさんを応援してるし、味方なのか。


「ミナセさんはギルドに寄る時武器を持っていないのですよ。あの羽織っている布の内側に武器を隠しているようにも見えませんし、いつも持っているのは白いへの字の何かと四角い何かだけですし」


 多分拳銃とアフエラのことを言っているのだろう。これは下手に言わない方が良さそうだ。


「今持っている武器もアイリスさんが渡していた物ですよね?」

「そうです! そうなんです! セトラさん、私の贈った武器を使ってくれてるんです! きゃあ〜!!」

「め、珍しいですね。いつもは静かなアイリスさんがここまでテンションが高いのは初めて見ましたよ」


 そりゃそうだ。セトラさんがいない世界でテンションが高くなるはずがない。今はセトラさんがいるこの世界がとても楽しい。

 脱線しかけた意識を再び闘技場のフィールドに向ける。

 ベイルの得意な真空斬がセトラさんに向かって飛んでゆくが、それを軽々と避ける。流石、反射神経抜群である。

 徐々に縮まってゆく二人の距離は決着までの時間を表していた。

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