アルヴニカ戦記 ~斜陽国家のリブート型貴種流離譚~

あ・まん

第1話 死地行軍


「いいか! 逃亡したら家族、親戚まで全員処刑する!」


異常な熱気から身を守ろうと肌からとめどなく流れ出る汗。

だが、それでも肌を焼き尽くすような陽射しと熱気でめまいがする。


絶望的な死地……。

戦場の最前線に立たされた自分は最初の衝突で確実に死ぬ運命にある。


それを約束するのは敵兵の圧倒的な数と装備、そして練度の高さ。

どれをとってもこちらが勝る面はひとつもない。

指揮官の軍略も圧倒的に向こうが上なんだろう。

ここにいたるまでにすでに各地で10回は敗北していると聞く。


右から左へ駆け抜ける騎兵による怒声じみた号令が飛ぶ。

士気は下がる一方。

だが、堵列する兵士は皆、深刻で粗硬な表情を作っている。

逃げることはできない。

ただ目の前に広がる敵から、いかに自分を守るかを必死に考えている。


開戦の銅鑼が敵陣から響く。

大地を震わせて、戦靴が徐々に近づいてくる。

やがて笑みを浮かべた敵兵士の顔が迫った。

そう思った直後、一瞬で蹂躙された。


音が消える。

通過した敵兵が後列を嬲り殺しにしている。

それを地面に顔を擦りつけたまま、他人事のように眺めている。


あ……。

誰かに首をはねられた。

その感触だけが、首に残って自分の命は幕を降ろした。






──はずだった。


「いいか! 逃亡したら家族、親戚まで全員処刑する!」


馬を駆る旗を背負った騎兵の号令。

先ほど聞いたはずだが、夢でも見ていたのか? 

それともこちらが夢?


夢じゃない。

ものすごい勢いで迫る敵歩兵。

そして笑みを浮かべた兵士のひとりが迫る。

手にした木の棒へ尖った石を結んだだけの槍を突き出す。

だが剣で叩き折られ、体当たりを受け、地面へ転がった。

ぶつかった痛みで、これが夢じゃないと教えてくれた。


そして命を奪われる。

後ろを向いているので、誰が自分の首をはねたのかは分からない。



「いいか! 逃亡したら家族、親戚まで全員処刑する!」


3回目の号令を聞く。

それで、ようやく自分が少し前に死に戻っていることに気が付いた。


だが、結果は同じ。

笑っている敵歩兵の剣で槍を折られ、体当たりをもらう。

──そのはずだったが、右拳が笑っている男に当たった。


だけど抵抗はそこまで……。

拳が届いたのに笑顔を絶やさない男。

その男の持つ剣が、自分の腹に刺さっているのを見下ろした。

意識が無くなっていくなかで、笑っている男が剣を引き抜くのが見えた。

自分の首へ剣を振り下ろしたのが、最期の光景として目に焼き付いた。


4回目、勢いだけで突き出していた槍を叩き折られないよう工夫する。

刺すと見せかけて、一度引っ込めてもう一度突き出す。

だが、それでも叩き折られて、腕を失い、首を狙われた。


5回目、敵兵が殺到する前に地面の土を左手に隠し持つ。

槍を囮にして、土をかけて目つぶしをしようとした。

だが、笑っている男に手で遮られて、直接、首を剣で刺された。


6回目は着ていた厚手の服の袖を切って左手にグルグルと巻く。

これで相手の剣を受けようと考えた。

その結果、腕は切り落とされなかった。

だが、剣圧が強すぎて、一撃で左腕の骨を折られた。

そのまま返す刃で袈裟切りにされる。


7回目……。

なんども同じ光景を見ているので、だいぶ落ち着いてきた。

もしかして相手が悪い? 

あの笑っている男、明らかに他の敵歩兵より剣捌きが違ってみえた。

もしかして……。


「なあ、場所を変わってくれないか?」

「馬鹿、少しでも動いたら、指揮官さまに首をはねられるぞ!」


左右の自分と似たり寄ったりな兵士に相談した。

だが、断られてしまい。6回目とほぼ同じ死に方をした。


「この戦いが終わったらアンタに食料を1食やる」

「ああん? なんで、そこまでして場所を変わりたいんだ?」

「隣のヤツの息が臭いんだよ、なあ、頼むよ」


左側の男に聞かれないよう小声で話して疑り深い男を説得する。

先ほどと違って一列右側へ移動した。

配給は1日に1食、ほぼ水のような粥を1杯しかもらえない。

だが、それでも飢え死にしなくて済む。

それをやると言われたら、自分でもその提案に飛びつくと思う。


「ぐへぇ!」


申し訳ない。

自分と列を交替した男が、槍を叩き折られて、首を飛ばされた。

やっぱり笑っている男が異常に強い。

そして自分へ剣を振るう男は、態勢が悪い。

そして振り下ろす剣も少しだけ遅く感じた。

だから正確にその男の首を突けた。

血しぶきが飛び散るが、知ったこっちゃない。

持っていた剣を奪い、次に備えると、左隣のあの・・敵歩兵と目が合った。


結局、しっかりした造りの剣を手にしても、振るったことがない。

剣の重さに振り回されている間に笑っている男に殺されてしまった。


8回目、9回目はだいたい同じ結末を辿る。

右側の敵兵を倒し、笑う男と相対して、簡単に競り負ける。

これは何度くり返しても真っ向から勝負したら同じ結末を辿るだろう。


10回目、右側の敵兵の剣を左手をくるんだ布で受け止める。

だが、すぐに反撃をしない。

こちらにまだ気づいていない笑っている男の左眼を槍でえぐった。

初めて笑っている男から笑顔を奪った。

だが、正面の男と戦っている間に背中を誰かに刺されてしまった。


11回目……。

いつものように右の男と立ち位置を交渉して替えてもらう。

そこから左の笑っている男の左眼を奪うと、意外な出来事が起きた。




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