第27話 事前活動



 メナードがくれたリンゴの一つを使って、サラダを作った。普段は緑の野菜に慎重なプラムも「リンゴさんだ!」と嬉しそうに食べてくれた。ホワイトシチューもおかわりをしてくれたし、お腹がいっぱいになった彼女はいつもより早く就寝するに至った。



「………今日も夕飯は不要、と」


 毎度律儀にフランの分も用意すべきか悩むところだけれど、二人分も三人分もさほど変わらないし、資金の出所は彼なのでとりあえず作っている。


 しかし、帰宅する時間も読めなければ、夕食の要不要も分からないため、結局ほとんどプラムと私が平らげて終わることが多い。それはそれで良いんだけど、最近になってフランが外で何をしているのか気になっていた。


 これはきっとあの差出人不明の手紙が届くからで、他に何か特別な事情があるわけではない。手紙のことをフランに伝えるのは「そんなことで悩む女」と思われたくないから嫌だけど、知る権利ぐらいはあるだろう。


 私はシンと静まり返った玄関を睨む。

 すると、計ったようにドアノブが回った。



「………なんだ?お出迎えにしては凶悪な顔だな」

「……おかえりなさい」


 相変わらず失礼な男め。


 薄く笑うとフランはそのまま洗面所へ向かう。水の音がしてしばらくすると、同居人はまたリビングへ戻って来た。私は意を決して口を開く。


「フラン、話があるの」

「良い話か?」


 揶揄うような口調にムッとした。


「どう取るかは貴方に任せるわ。私たち、一緒に住んでいるでしょう?貴方が外でどんな時間を過ごしているか、少しだけ教えてくれない?」

「あんたが俺に興味があるとは気付かなかった。噂通りの生活しかしてないが、詳しく聞きたい?」

「………呆れた。プラムの父親のフリをするならもう少し真っ当になってよ。遊ぶにしても相手を選んで」


 こう伝えることで分かってくれると思った。

 しょうもない手紙を寄越すような女に手を出すのではなく、割り切って遊べるような相手を選別しろと。私は暗に伝えたかったのだ。


 しかし、どういうわけかフランは首を傾げる。

 私はその惚けた様子に更に苛立ちが募った。


「すっとぼけても無駄よ。分かるでしょう?」

「何を言いたいんだか、」

「フラン!真面目に話を聞いて…!」

「どんな女なら良いんだ?俺はただ、寂しいと言われれば隣で眠って、泣いていたら話を聞くだけだ。慈善活動を批判されたら良心が痛む」

「なにそれ……本気で言ってるの?」


 睨み付けると、月のような瞳に影が差す。


 子供でもないんだから、言わんとしていることは理解出来るはずだ。それなのにまるで、フランは私が彼を傷付けたみたいな顔をする。これじゃあ私が悪者みたいだ。


「とにかく、面倒な女は避けてってことよ。人によってはただの善意を本気で受け取る。貴方の優しさを愛だと勘違いするの」

「ははっ、それは自戒だろう」

「なに……?」

「覚えてるか?俺が王都に来る車中で言ったこと。優しさは毒だって伝えたはずだ。あんたにだけは言われたくない、俺を諭す資格なんか無いんだから」


 知らず知らずのうちに身体を乗り出していたのか、私とフランの距離はかなり近くなっていた。普段なら警戒するぐらいには。



「それともローズ、少しは妬いたか?」

「………っ!」


 ビックリして思わず顔を背けた。

 負けてしまった悔しさが胸に広がる。


 だけど、良くない。この男の雰囲気に飲まれてしまいそうになった。あの黄色い瞳を見ていたら、なんだか吸い込まれてしまう気がして。


「冗談やめて。貴方に恩があることは分かってる。だけど、私とプラムのことも少しは考えて行動してほしい」


 暫しの沈黙後、分かったと返ってきたのを聞いてようやく緊張が解ける。夕食の説明を簡単にして、ほしければ食べて良いという旨だけ伝えると、私は翌朝に備えてシャワーを浴びに浴室へ向かった。

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