第11話 レェエエエえざぁあああびぃいいいいむ!!

 俺が振り返ると、ハロウィーはイチゴーを抱きすくめながら、リラックスした声で感謝をくれた。


 彼女の安堵した表情に、俺も満足だ。


「これで二度目だね。助けてくれたの」


 ひとなつっこい笑みで俺を見上げてくるハロウィーの眼差しからは、やわらかい親しみと尊敬の情を感じ取れた。


「お互い様だろ。それにそっちは俺の命を助けてくれたんだ。謙遜するなよ」

「え?」


 きょとんとまぶたを上げるハロウィー。


 他人からの些細な気遣いは敏感に感じ取れるのに、自分の功績には無頓着らしい。本当に控えめというか、奥ゆかしい子だ。


「昨日、森で俺をリーフキャットから守ってくれたろ?」

「あー、あれ?」


 俺に指摘されてもなお、ハロウィーはピンと来ていないようだった。


「でもわたし、ただ矢を射ただけだし。命を助けたなんて大げさだよぉ」


 はにかんだ笑みで頬を赤く染め、両手を左右に振る――イチゴーは腕で挟みキープ――。


 きっと、彼女にとっては、転びそうな人をちょっと支えた程度のことなのだろう。


「謙遜するなよ。そういえば、昨日みんなに責められている時、俺を助けるためにって言えばよかったのになんでしなかったんだ?」


 理由は想像に難くない。


 だけど、俺の想像はあまりにも理想的過ぎて、ちょっと信じられなかった。


 何か、他の理由があるのではと思ってしまう。


 俺に問いかけに、ハロウィーはイチゴーをぎゅっと抱きしめうつむいた。イチゴーの頭に顔を半分もうずめながら、ためらいがちに一言。


「だって、それでもしもラビが責められたら悪いし」

「え?」

「助けてなんて頼まれていないのに、わたしが勝手にしたことで余計に立場が悪くなったら、ダメかなって」


 ハロウィーが天使過ぎて頭を抱えたくなった。


 ――この子は本当に人間かな? ファンタジー世界だしコウノトリが運んできたんじゃないのか?


 なんて、あり得ない妄想をしてしまった。


「それにしてもこの子たち、ゴーレムなのに軽いね。赤ちゃんやオス猫くらいかな?」


 ――たとえがいちいち可愛いな。


 ハロウィーが腕の中のイチゴーをむぎゅむぎゅと抱きなでまわすと、イチゴーは短い脚をぱたぱた動かして喜んだ。


 イチゴーもハロウィーになついているらしい。


 基本的に、ひとなつっこいようだ。


「材料は土なんだけど密度が薄いのかもな」

「ゴーレムって何人いるの?」


 イチゴーを草地に下ろしたハロウィーの問いかけに、俺はストレージを開放した。


「今のところは五人かな」


 目の前に四個の赤いポリゴンが現れた。

 中からニゴー、サンゴー、ヨンゴー、ゴゴーが現れる。


 みんな、おりこうに並んでいるのにゴゴーだけが俺に駆け寄ってきた。

 ゴゴーがぴとっと俺の脚に抱き着くと、他の三人も我慢できなくなったように次々と俺の周りを囲み始めた。まるで子犬だなと思う。


 ニゴーだけ、ちょっと抱き着き方が控えめなところに個性を感じる。

 命令通りに動くだけの人型道具のゴーレムとは違い、自律型は一味違う。


「あはは、なんか子犬みたいでかわいいね」


 ハロウィーとは話が合うと思った。わかっていらっしゃる。


「これが俺の能力。ゴーレムを作って指示を出せる」

「ラビが操っているの?」

「いや、ゴーレム一人一人に人格があるぞ。俺はあくまで指示を出すだけだ。それとなんで俺の名前を知っているんだ?」

「だって有名だもん。貴族科から転科してきた、え、あ、いやあの!」


 失言に気づいたように、あわててフォローの言葉を探すハロウィー。

 両手を右往左往させる姿が面白かった。


「いいよ本当のことだから。聖典に出てくる魔王と同じ、魔獣型ゴーレム使いだからって実家を追い出された落ちこぼれの元貴族だろ?」

「あぅ……」


 わかりやすく目を伏せ、しょんぼりと落ち込むハロウィー。


 大きな胸の前でちっちゃく握られた左右の拳が、今でも一生懸命フォローしようとしているみたいで、なんだかありがたい。


「俺のことより、ハロウィーはどうなんだ? さっきチーム入りを断られていたみたいだけど、矢が当たらないのか?」


 彼女の背負う弓に視線を送ると、ハロウィーは恥ずかしそうに頭をかいた。


「いやぁ、それが命中率には自信があるんだけどぉ……」


 しょんぼりを肩を落とした。


「わたし、狙うのに時間がかかるんだよね……スキルも発動に時間かかるし……」

「ハロウィーのスキルってなんだ?」


 顔を上げて、彼女は背中の矢籠に手を伸ばした。


「魔力圧縮っていうんだけど、なんて言えばいいのかな。狭い範囲に魔法の威力を集中させるの。こうやって」


 ハロウィーが弓を構えると、彼女の手から矢に魔力が集まっていく。

 量はそれほどではない。たぶん、初級魔法程度だろう。

 だけど魔力は矢の先端に圧縮、収束していく。


 刹那。

 矢が、閃くようにして放たれた。

 一筋の赤い光となった矢は木の幹を貫通し、うしろの木に突き刺さる。


「うぉ!? ……すごいな」


 穿たれた孔の直径は五センチ程度で、工業用ドリルでくりぬいたように滑らかだった。


 穴の中が黒く炭化している。

 まるでレーザービームだ。

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