第23話 チャリパイvsブタフィ軍②

ブタフィ軍の誇る、二百数十からなる陸軍の精鋭部隊が、一瞬の間にその姿を消していたのだ!


「一体どういう事だ!奴らはどんな攻撃を仕掛けてきたのだ!」


双眼鏡を振り回し喚き散らすブタフィのもとへ、報告の伝令兵が血相を変えて飛んできた。


「落とし穴です!部隊はしました!」

「なぁにいぃぃ~~~!落とし穴だとおぉぉ~~~っ!」


シチローが言っていた『百人でも一週間以上はかかる作戦』とは、この事だったのだ。落とし穴というには、あまりにも巨大な穴。いや、『穴』というよりはもはや公共河川工事ぐらいの規模で掘られた、一直線の横に広がる堀である。チャリパイとブタマーンが集めた百人を越える仲間達は、見張りの兵にも気付かれないように毎夜中、せっせとこの『巨大落とし穴』を掘っていたのだった。


「や~~い。引っ掛かった、引っ掛かった~~」


子供のように喜び、互いにハイタッチを交わすチャリパイの四人。


「面白いくらいに全員いっぺんに落ちてくれたわね~シチロー」

「きれいに横一列に並んでいたからね。さすがは軍隊、よ」


たった四人のチャリパイに対し、圧倒的な力の差を誇示しようとした事が、今となっては徒になってしまったブタフィ将軍。イベリコに対し、『あんな連中は一分で捻り潰して見せる』と豪語していたブタフィは、結果として一分で自慢の陸軍部隊を全滅させられてしまった。


人一倍プライドの高いブタフィにとって、これは耐え難い屈辱であった。


「ムギューーッ!許さん!アイツら絶対に許さんぞ~~!」

「なにをボヤボヤしている!ヘリだっ!ヘリ部隊を出動させろ!奴らを絶対に捕まえろ!」


ブタフィの凄まじい剣幕に、宮殿に残っていた兵士達は慌ててヘリに乗り込んだ。


「来たよ……まだあんなに残ってたのか……」


宮殿の裏手から飛び立つおびただしい数のヘリに、シチローがうんざりした表情で呟く。しかし、今度のヘリ部隊には当然ながら『落とし穴作戦』は効かない。

チャリパイは、どんな対抗策で迎え撃つつもりなのだろう……




♢♢♢






「さて……ヘリ部隊が出て来たところで、みんな………………………退却~~~!」

「イエッサァ~~!」


って、逃げるのかよっ!


シチローの号令に従って、クルリと回れ右をしてヘリ部隊を背にスタコラと逃げ出すチャリパイの四人。

イベリコを救出する為に、命を懸けてブタフィ軍と戦うんじゃなかったのかよっ!

まるで、狩りから逃げるように走るダチョウの背に乗り、ぐんぐんと宮殿から離れて行くチャリパイの様子を双眼鏡で覗いていたブタフィの怒声が、ヘリ部隊の無線に響き渡る。


「追え!追え~っ!地の果てまでも追いかけろおぉぉ~~~っ!」




♢♢♢



「奴ら、ダチョウを追いかけていったかな?」

「…………みたいね………」


その声は、地面の下から聞こえた。


ヘリに恐れをなして逃げ出したと見せかけ、実はその瞬間にチャリパイの四人は乗っていたダチョウから飛び降り、あらかじめ掘ってあったすぐ傍の抜け穴へと素早く潜り込んだのである。


「忍法~替わり身の術~~」


ヘリ部隊が今、躍起になって追いかけている四羽のダチョウに乗っているのは、チャリパイに見せかけた人形であった。


「まさか、こんなに上手くいくとは思わなかった。今なら殿だ」


圧倒的な戦闘力を持つブタフィ軍と正面から戦うつもりなど、始めから無い。軍の戦力を宮殿から遠ざける事……これこそが、シチローの立てた作戦の最大の目的であった。


ところで……シチローがブタマーンに集めさせた『百羽のダチョウ』は、一体何に使うつもりなのだろう?



♢♢♢




おとりの人形を乗せて走る『ヒゴー』『ジモン』『リューヘー』そして『ハゲタ』四羽のダチョウを、低空飛行で追いかけるブタフィ軍のヘリ部隊。


『生け捕りにしろとの命令だ。どうやって捕まえる?』

『よし、では前と後ろからの挟み撃ちにしよう!俺が半数を率いてダチョウを追い抜き、前方の進路を塞ぐ。残りの半数は、そのまま追尾を続けてくれ!』

『了解!その作戦でいこう!』


ヘリ部隊の間では、無線でそんなやりとりがなされ、部隊の半数のヘリが、速度を上げてダチョウを追い抜いていった。


ダチョウを追い抜いたヘリ部隊は旋回して、ダチョウの前方の進路を塞ぐ。


『準備OKだ!ダチョウをこっちに追い込め!』

『了解!西(左方向)に林がある。そっちに逃げられないように注意しろ!』

『よし、では西に一機配備しよう!………ん、はなんだ?』

『あれとは?』

『林から何か出て来た!』

『なんだありゃあ~~!』

『スゲェ数のダチョウだっ!』

『ゲッ!!だぞ!』


ダチョウが一羽…ダチョウが二羽…三羽…四羽………


バカ殿が一人…バカ殿が二人…三人…四人………出てくる、出てくる、総勢百羽のダチョウに乗った百人のバカ殿!瞬く間に四羽のダチョウと入り交じってしまった。


『わああぁぁ~~~~~~っ!どれがホンモノだよ~~~っ!』

『知るかっ!俺に聞くなっ!』


ダチョウとバカ殿の群れの上空で、成す術も無く呆然となるヘリ部隊の隊長。

こうしてブタフィご自慢の軍精鋭部隊は、陸軍、ヘリ部隊共にチャリパイの作戦に翻弄される結末に至った。


クエェェ~~~ッ!








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