第34話 何のためのパーティーか

 俺達がパーティー会場に到着すると、周囲がざわつき始めた。

 国交を絶っていた王国側の人間が珍しいということもあるが、多くの人間はリリシアの美しさに目を奪われているのだろう。

 その証拠に周囲からリリシアを称える声が聞こえてきた。


「なんと美しい姫君だ。息をするのも忘れてしまいそうだ」

「しかも美しさだけではなく、剣の腕も一流だとか」

「さすがはフリーデン王国の至宝と呼ばれるだけはあるな」

「噂ではルドルフ皇子との婚姻を結ぶために帝国を訪れたとか」


 どうやら帝国の貴族達は二人の婚姻のことを知っているようだ。ルドルフ皇子はプライドが高いから、リリシアから婚姻を断られたことで、腸が煮え繰り返っているのだろう。

 だからといってそれでリリシアを辱しめる気なら、俺は奴を絶対に許せない。


 会場はリリシアが現れたことでざわついていたが、突如静寂を訪れる。

 何故なら壇上に、帝国の皇帝であるヨシムが上がったからだ。

 そしてヨシム皇帝陛下は壇上の中央に移動すると、パーティーの挨拶を始めた。


「今日は隣国である――」


 そして壇上の横を見ると、ルドルフと第二皇子であるデレック、第三皇子のアルドリックの姿があった。

 アルドリックは俺の視線に気づいたのか、軽く手を振ってくる。手を振り返してやりたい所だが、ヨシム皇帝陛下が話をしているのに、そのような不敬に当たる行為は出来ない。

 本当ならアルドリックもそのような行為は許されないのだが⋯⋯相変わらず自由な奴だ。


「皆もわかっていると思うが、今世界は未曾有の危機に陥っている。疫病、凶作、異常気象、そして魔物の襲来とどの国も国力が低下しているのだ。過去の遺恨はあるが、余は隣国であるフリーデン王国と共に、この危機を乗り越えて行こうと思っている。今日のパーティーは帝国と王国が手を取り合う第一歩となるだろう。両国の未来のために⋯⋯乾杯!」


 皇帝陛下の挨拶が終わると、再び周囲がざわつき初め、歓談の時間となる。

 すると壇上横にいたルドルフが真っ先にこちらへと向かってきた。

 正直こいつの顔を見たくないのだが、皇子であるため無視することは出来ない。


「これはこれはリリシア王女。本日は帝国のパーティーに参加していただきありがとうございます」

「こちらこそ私共のために、このような素敵なパーティーを開いていただき、感謝致します」


 ルドルフが話しかけてくるが、下卑た笑みを浮かべおり、視線はリリシアの首⋯⋯いや、背中に向けられていた。

 やはりこいつはリリシアの火傷について知っているのだろう。

 そうなるとこのパーティーの目的は、リリシアに恥をかかせるためだということは間違いなさそうだ。


「この度は縁がなく婚姻の話が流れてしまったが、皇帝陛下が仰る通り、我が国は王国と友好関係を結びたいと思っている」

「それは私も同じ考えです」

「ではここにいる貴族達にも我々の友好関係を見せつけるために、一曲ダンスでも躍らないか?」

「い、いえ⋯⋯私はその⋯⋯」


 音楽団はルドルフの思いを察したのか、ダンスの曲を演奏し始める。


「さあ参るぞ。私の誘いを断るなど許されぬことだ」

「あっ!」


 ルドルフはリリシアの手を強引に取ると、問答無用でパーティー会場の中心へと移動させられた。

 帝国の皇子と王国の王女がダンスをするということで、会場の視線が一身に集まる。


「二人が婚姻を結ぶという噂は本当だったのか」

「お似合いの二人ですわ」


 周囲から二人に対して好意的な意見が聞こえる。だが実情は正反対で、婚姻の話は既に決裂している。

 だが今はそんなことよりリリシアが心配だ。


「ダンスを踊るにはそのストールは邪魔だろう」

「今日は少し肌寒いので⋯⋯」

「踊っていれば身体が暖まる。それともそのストールを取れない理由でもあるのか? 例えば⋯⋯醜い火傷とか」


 ルドルフは薄ら笑いを浮かべている。

 確定だな。どうやら振られた腹いせに復讐するつもりのようだ。

 皇族や多くの貴族がいるこの場では何も出来ないが、こいつだけは一発ぶん殴らないと気が済まない。

 そしてルドルフの手がストールに伸びる。


「や、やめて下さい!」

「その汚れた背中を衆人の前で見せるがいい!」


 リリシアの抵抗も虚しく、ストールはルドルフに奪われてしまう。

 するとリリシアの背中は、皆の前に晒されてしまうのであった。

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