第4話 路地裏にて


「真希〜!お待たせ」


 若葉は会社を出た後、真希との待ち合わせ場所に向かった。

 いつもなら賑やかな繁華街に集まるのだが、今夜はなぜか古いビルの立ち並ぶ、じめじめした薄暗い場所だった。


「ごめんね、こんなところに呼び出しちゃって」


 ちゃぷ、ちゃぷと苔の生えた整備のされていない、ぬるぬるした床を二人で歩く。


「それはいいんだけど──」と、若葉は何の疑いようもない様子で真希を見る。


「──それで、相談したいことって?」


 わざわざこんな薄暗くて怖い場所に呼び出すのだから、それなりに重大なことなのかもしれない。

「こっちにきて」「うん」言われるがまま、真希の後ろをつける。やがて更に暗い路地裏にまで案内された。


「ね、ねぇ、真希?」

「……」

「いくらなんでも、ここは暗すぎない?ちょっと怖いかな、なんて」

「……」

「真希?なんとか言ってよ」

「……」

「……あ。分かった。これ肝試しでしょ?もう、真希ったら、怖がらせないでよ〜」

「若葉」


 ぴたりと歩みを止め、真希はゆっくりと振り向いた。それに呼応するように、若葉の背後からぺちゃぺちゃと複数の水たまりの音が鳴り響く。


「え、え?」


 暗がりの中から複数人のスーツ姿の女たちが現れ、あっという間に若葉のことを取り囲った。


「真希、これはどういう」

「悪く思わないで」


 いつも見慣れた彼女の手には。

 真っ白な手には。

 いつも仕事終わりに共にジョッキを鳴らしたその手には──


「あなたの預かったデータを、こちらによこしなさい」


 ──真っ黒な拳銃が、握られていた。

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