第二話


 「眠宿」(第二話)


         堀川士朗



ふもとまで降りていく。

小さな商店街があった。

ジャーッパ、ジャッパ、ジャッパのマークのジャッパ寿司があった。ネルネ共和国支店だろうか。

ハンマーカンマー寿司が良かったんだけどここにしよう。

入ると板前はムシ屋の宿の旦那さんだった。

人が足りないからそういう事もあるのだろうなと私は思った。

奥さんの姿はなかった。

お茶が熱い!

湯飲みには架空の魚の漢字がたくさん書いてあって、どれひとつとして読めなかった。

『板さんのおまかせコース』にした。値段は八千五百リュウト。

まずホンビノス貝の握りが出てきた。

口に含んで咀嚼すると、豊かな海の香りが広がった。

ここの紫(醤油)は本当に紫色をしている。

十分後。

それにしてもホンビノス貝の握りばかり出てくるなあ。

あれこれ夢だっけ。

何だっけ。

現実だっけ。

現実って何だったっけ。


正直味と歯ごたえに飽きてきた。何でこんなに同じ貝ばかりなのか聞くと旦那さんは、


「ホンビノス貝は物価の優等生なんですよ」


と、少し分からない返しで答えた。

ホンビノス攻撃と、瓶で頼んだ赤ジンジャービールの酔いが回って私は眠くなってしまった。

とても徒歩で宿にたどり着ける自信がなかった。

板さんの旦那さんにその旨を伝えると旦那さんは、


「じゃあ駕籠屋を呼びましょう」


と言って笛を吹いた。

五分後、お猿の駕籠屋がジャッパ寿司に到着し、私を民宿まで運んで行ってくれた。

揺れる坂道だが乗り心地は最高だった。

私はお猿たちにお礼をして四千リュウトの駕籠代を払った。

お猿はキーキー鳴いて二百リュウトのお釣りを渡そうとしたが私は、


「あ良いの良いの。チップチップ」


と言って宿に入った。

カウンターにいた宿の旦那さんに、今日の晩飯の支度はしないで良いですからと告げた。

部屋に入るなりバタンキュウで、私はそのまま眠りについた。



            続く


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