双子は前世で心中した恋人の生まれ変わりらしい

わもん

第1話 むかしむかしあるところに

 あの世とこの世の境目を流れる川の岸辺、そこに一隻の舟と船頭がいた。

 その船頭は死者の魂、とりわけ生前罪を犯したものをあの世へ運ぶことを仕事にしていた。

 仕事といっても退屈なだけではなく舟であの世まで運ぶ間、罪人にまでなった者が生前どのような人生をしていたのかを聞くことを楽しみにしていた。


 その日もいつものように罪人の魂がやってくるのを待っていると

 霧の向こうから成人になったばかりであろう一組の若い男女がやってきた。


 まだ幼さを残している女は安らかな顔で眠っており、男はそんな女を背負って舟に向かってゆっくりと歩いてきた。

 死者にしてはどちらも若く、はやくに亡くなった夫婦のように見える。


 「大人ふたりを川むこうまで」

 「はいよー」


 二人が乗り込むのを確認すると、船頭は川岸とつないでいた縄をほどき、舟をこぎ始めた。



 男が舟の席に女を座らせると、寝ている女を起こさないように隣に肩を寄り添った。

 乗り込んだ男を観察していると、ふとこちらに声をかけてきた。


 「少し聞きたいのですが、この川の向こうにきれいな花畑はあるのでしょうか」

 「いやー極楽にはそれはそれは美しい花畑があるとは聞きますがね。

 あっしはこの川の往来を任されてるだけですので、よくわからんでさ。

 ちなみに、お二人は夫婦か何かでしょうか?」


 船頭はそう聞き返すと男は穏やかにそのようなものだと返した。

 男は物腰柔らかで、とてもじゃないが罪を起こしたようには見えない。




「川むこうにつくまでしばらく時間かかります。

 ところでなのですが、

 お二人さんはどうしてこのようなところに?」


 不思議に思った船頭はそう聞くと、そうですね、とその男は自分の肩に寄りかかり心地よさそうに眠っている女の顔を見つめながら話し始めた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る