ダンジョン最下層に落ちた少年、最強になって10年振りに地上へ帰還する~ほそぼそと生きたいだけなのに、出世した幼馴染たちが放っておいてくれません~

むらくも航

第1話 最下層に落ちた少年

 「もうすぐ地上に帰るのかあ」


 少年エルタは、見上げながらつぶやいた。

 視線の先──はるか遠くに見えるのは、閉じた大きな魔法陣だ。


「あれから十年も経つんだね」


 ここはダンジョンのとある階層・・・・・

 十年前、エルタは上層でトラップにかかり、魔法陣から落ちてきた。

 それからはずっとここで過ごしている。


「意外と早かったなあ」


 事が起きたのは、エルタが八歳の時。

 両親がいないエルタが、同じ施設育ちの幼馴染たちと一緒に、初めてダンジョン探索に来た日だった。

 

 だが、エルタだけがトラップに引っかかり、気が付けばここに一人。

 思い出すのも恥ずかしいが、最初は涙ぐんでしまった。

 そんなエルタが明るく生きられたのは、ここで出会った友達・・のおかげである。


「ここにいたのか、エルタ」

「あ、フェン!」


 ぼんやり懐かしんでいると、エルタは後方から声をかけられる。

 

 振り返った先にいたのは──白銀の大きなおおかみ

 エルタは『フェン』と呼んでいる。

 フェンはここで出会った友達の一匹だ。


「エルタとの日々はあっという間だったな」

「僕もだよ」


 当初、ここへ落ちて絶望に明け暮れていたエルタ。

 そんな彼を拾ってくれたのが、フェンだ。


 それからフェンは、色々なことを教えてくれたようだ。


 魔法陣は十年に一度、数秒しか開かないこと。

 ここに落ちた人間は初めてだということ。

 ここでの生き方に至るまで。


 エルタにとって、フェンはかけがえのない恩人だ。


「地上に出るのが楽しみか?」

「うん。フェンやみんなと別れるのはちょっと寂しいけど……」

「それは我も同じだが、エルタは地上へ仲間を残してきているのだろう?」

「そうだね」


 寂しい気持ちにうそいつわりはないが、エルタには地上にも大切な人たちがいる。

 知り合いや幼馴染たち、そして何より妹の存在だ。

 いつまでもここにいるわけにはいかないだろう。


 と、話している二人の背後に、複数の影が現れる。


「グルルルル……」

「ギャウウウ……」

「フゥゥゥゥ……」


 どれもエルタの何十倍というたいを持った、化け物クラスの魔物たちである。

 もし遭遇そうぐうすれば、誰もが腰を抜かしてしまうだろう。


 対してエルタは──


「みんな! お別れのあいさつに来てくれたの!」


 ぱあっと顔を晴らした。


「グルゥ!」

「ギャウ!」

「フゥッ!」


 魔物たちもまたエルタに駆け寄り、互いに抱き寄せ合う。


「あははっ! くすぐったいぞ~!」


 巨大な魔物にはもふもふの毛皮も多く、感触が気持ち良い。

 そんな幸せ空間に包まれながら、エルタは笑顔を浮かべる。


 そう、エルタと魔物たちは友達・・だったのだ。


「でもみんな、僕はそろそろ行かないと」

「「「ギャウゥ……」」」


 フェンによれば、魔法陣はそろそろ開く。

 この機会を逃してしまえば、また十年閉じ込められてしまう。

 だが、魔物たちも寂しさを隠しきれない。

 

「そんな顔しないでよ。また遊びに来るからさ!」

「「「ギャウッ!」」」


 だからこそ、エルタは約束した。

 それがいつになるかは分からないが、ここで過ごした十年の絆はそう簡単にはなくならない。

 魔物たちも楽しみに待つことにしたようだ。


「あ、魔法陣が開く!」

 

 そうして、いよいよ魔法陣が開く兆候を見せる。

 だが、これでしばらく会えないと思うと、エルタは涙腺がゆるんでしまう。


「じゃあみんな……行くね」

「ああ、早くするんだ。魔法陣が閉じてしまうであろう」

「うん」


 エルタがその場をり出すと、ギュンッと音を立てて体が勢いよく飛んで行く。

 向かう先は──高く高くに見える魔法陣だ。


「あ!」


 最後にチラっと振り返ると、みんなが手を振っていた。

 その姿に、十年分の感謝、そして「またいつか」という気持ちを込めてエルタも大きく手を振り返す。


「またね〜!」

「「「ギャウ〜!」」」


 こうしてエルタは、地上近くにつながる魔法陣へ飛び込んでいったのだった──。





 魔法陣が閉じ、エルタの姿が見えなくなる。

 辺りにはしばし無言が続いたが、やがて白狼のフェンが魔物語でつぶやいた。


「行ってしまったか……」


 再び閉じた魔法陣をぼーっと眺めているフェン。

 すると、エルタの前では決して見せることがなかった涙を、ひと粒だけこぼす。

 そんな姿には周りからもツッコみをいれられた。


「おいおい泣いてやがるぜ」

「かわいいわね」

「お主が一番仲良かったからのう」


 人語は話せない周りだが、魔物同士のコミュケーションはできる。

 そう言われて初めて恥ずかしくなったフェンは、とっさに目元をぬぐった。


「なっ! だ、だまれ!」


 そんな中、とある魔物がフェンへたずねる。


「そういや、俺達のことは話したのか?」

「俺達とは?」

「だから、ここがダンジョン最下層・・・・・・・・で、俺達が人間からは最強種族・・・・と呼ばれていることだよ。お前が伝説の“神狼しんろう”フェンリルであるように」


 対してフェンは、たらりと冷や汗を流した。


「……あ」

「「「え」」」


 完全に「しまった」と思っている顔だ。

 どうやらエルタには伝えていなかったらしい。

 すると、ふと周りから嫌な言葉が聞こえてくる。

 

「エルタは完全に“人ならざる力”を持っているが、大丈夫なのか?」

「「「……」」」


 場の雰囲気に焦るフェンだが、必死に弁明をした。


「い、いや、大丈夫であろう! エルタはき心を持って育った! 悪いようには使わぬはず!」


 そんな言葉に、周りもうんうんと納得する。

 彼らも、エルタは真っ直ぐ育ったと胸を張って言えるようだ。


「だからこそ、我らは約束を楽しみに待つのみだ!」


 そうして、フェンは強引にまとめ上げる。

 たしかに今さら言い合っても遅いのは事実。

 ならば彼らは約束を信じ、エルタが良い人生を送れることを心から願ったのだ。


「だが、くれぐれもやりすぎには注意するんだぞ、エルタ」


 エルタが彼らを最強種族だと気づくのは、また後の話である──。





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新作です!

内容はタイトル・タグ通り、少年の無自覚無双もの!

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